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    ロバ耳

    @yfyy3744

    ジャンル雑多にする予定 何も信用しないでほしい

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    ロバ耳

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    脳直出力したら当然のような流れでTETSUが元裸族になってしまいました(パジャマを着ている姿が想像できなくて……)
    抱き合って眠って欲しい欲に正直になった結果また譲介くんの情緒がぐにゃってますが、概ね幸せそうなのでいいかなと思っています。冷静に説得するより泣いて駄々こねた方がTETSUには効きそうだしね。

    時限爆弾との生活 あの人と再び同じ部屋に暮らし始める上で、お互いのプライベートスペースに鍵をつけることはしなかった。
     かつて二人で暮らしたマンションでもそうだったからだ。あの人の部屋にも僕の部屋にも鍵はなく、彼はよく勉強中の僕を部屋の入り口から眺めていた。覗き見というには些か堂々と。おそらく僕が部屋でまずいこと(社会的もしくは物理的な意味で)をしていないか都度監視するためにあえてそういう部屋を選んでいたのだろう。
     今度は全く逆で、彼が部屋の中でまずいこと(生命の危機的な意味で)になっていないか逐一確認するために僕がそういう部屋を選んだ。本来ならば告知されていたであろう余命を十年近くぶっちぎって生きている重病人と一つ屋根の下、返事がないとわかれば5秒で駆けつけられるようにしておきたいのは至極当然の運びだと思う。
     彼は特に文句も言わずにそれを承諾して、意趣返しなのかたまにノックもせず僕の部屋へと襲来しては蔵書を読み漁って去っていく。僕は一応、彼の部屋に入るときは一旦外から呼びかけるようにしていた。特に話し合うわけでもなく、僕たちはそういう距離感に落ち着いた。



     だから、ああ、これは権利の濫用なのだと思う。
     午前3時に彼の部屋の扉を開けた。月明かりに照らされた室内は薄青く、カーテンが閉められていないことを少しだけ意外に思う。暗過ぎると眠れない方なのか、朝日を浴びたい方なのか、それとも単なる面倒くさがりか。考えながら物音を極力抑えて歩き、彼の眠るベッドの側に膝をつく。
     仰向けで目を閉じる彼の寝息は想像よりずっと静かだった。野獣みたいな鼾をかいていてもおかしくないような顔なのに。以前の同居の際にも感じていた不可解な胸のざわめきが、喪失への不安に直結した恐怖だったと気付いたのはいつのことだっただろう。あの広いマンションの一室で、高校生だった自分はずっと置いていかれる未来に怯えていた。そしてそれは一度現実になった。
     枕元に立つ。緩く上下する胸。薄く開いた唇の上に手をかざして呼吸を確かめた後、無防備に晒された首筋に手をかける。
     脈。

    「寝首でも掻きにきたか?」

     気付けば彼は両目を開けていた。
    「……生きてる……」
     呟きと共に耐えていた涙がこぼれ落ちる。
     見上げる彼の目は驚いていなかった。部屋に入った時から気づいていたのだろう。僕がただこの人に触れたいだけだということも、ずっと泣いてしまいそうだったことも。
     薄い布団を被った彼の胸に覆い被さり、心臓の上に耳を当てる。規則的な心音。僕とは違い、大多数の人がそうであるように体の左側から聞こえてくるそれに耳を傾けながら、止まらない涙で彼の布団をじわじわ濡らす。
    「ンだよ。怖い夢でも見たか」
    「いいえ」揶揄いを含んだ問いかけに首を振る。「優しい夢でした」

     それは目が眩むほどに明るい部屋だった。
     彼はベッドに横たわってうたた寝をしていて、僕はすぐ側で椅子に座って、カーテンが風に吹かれてゆらゆらと揺れる様をただ眺めていた。
     室内に差し込む、長い冬が明けた後のような柔らかい陽光。彼の手を握りながら「あたたかいですね」と声をかけると、か弱い力で握り返される。
     その筋張った手の甲をゆっくりと撫でながら、僕は彼の呼吸が少しずつ弱くなる様を静かに穏やかに見守っていた。

    「思ったんです。よかったな、って」

     こんな暖かい日に、手を握りあったままで。
     もう彼に置いていかれることもなければ、彼を独りでいかせてしまうこともない。全ての不安が拭い去られて、心の中があたたかいもので満たされていた。とても幸せだった。少しずつ動かなくなっていく胸の動きを目で追いながら、夢の中の僕は彼に「おやすみなさい」と囁いたのだ。


    「覚悟していてください。僕は、貴方をあんな風には見送れない」
     夢から覚めた僕は真っ先に彼の部屋に急いだ。病身の彼にとって睡眠は何よりも大切なものだとわかっていたけれど、それを妨げてでもこの人に触れたいと思った。
     医学が発達した現代でも虫の知らせや胸騒ぎと呼ばれるヒトの第六感を侮ることはできない。もしも今まさに、彼がたった独り暗い部屋の中で、僕が見ていないうちに息を止めようとしていたら? 考えただけで気が狂いそうだった。
    「貴方の鼓動が弱くなったら強心剤を打ちます。呼吸が止まったら人工呼吸をするし、心臓が止まったら肋骨を全て砕いてでも心マを続けます。血塗れになって汗だくになって、泣きながらワアワア喚いて、あんたの体をぐちゃぐちゃに弄りながら最後の最後まで追い縋るんだ。楽に死ねるなんて思わないでくださいよ」
    「なんだそりゃ。犯行予告か?」
    「言っておかないと耐えられる気がしないんです。だって本当にいい夢だった」
     夢は脳が起きている間に得た経験を処理する際に見せる断片的な記憶だという。
     けれど、僕はあれほど穏やかな彼の顔を見た覚えがなかった。あんな安心しきった寝顔。夢の中で聞いた彼の最後の一呼吸が鼓膜にこびりついているようで、上書きしたい一心で耳から聞こえる心拍の音に全神経を集中させる。顔の側面に当たる体温が心地いい。ずっとこうしていたい。
    「重てぇし冷てぇ。頭どけろ」
    「お願いです、もう少しだけ」
     強請ってみたらゲンコツを喰らった。医者の頭になんてことをするのか。不満を込めつつ頭を上げて睨みつけると、涙の染みがついた布団が目の前でぺらりと捲られる。晒された上体がいつものタンクトップを着ているのは僕の度重なる苦言の賜物で、流石にもう裸族やってられる体じゃないでしょうと懇々説教した日々を思い出すと少しだけ笑みが漏れる。
    「寒い。入るなら早く入れ」
    「はい」
     一緒に寝たことなんて今まで一度もなかったのに、僕は何の疑問も持たずに彼の持ち上げた布団の中へと体を滑り込ませた。子どもの頃、彼の腕に点滴の針を刺しながら見た時よりも一回り薄くなった体は、それでも「抱き締める」というより「抱きつく」という方がしっくりくる程度の厚みを保っている。恵体すぎて正直呆れる。けれど、そうでなければ僕がこの人と再び共に暮らす日など来なかったのだろう。つらつらと考えながら指に当たる背骨の節を戯れに撫でていると「いらんことすんな」と尻の肉を強めに抓られる。
    「徹郎さん、また体重落ちてるでしょう。食事ちょっと変えますか」
    「2キロも変わってねぇよ。歳のこともある、そんなに神経質にならなくていい」
     キロもグラムも関係ない、貴方がこの世から減っていくことが怖いんだ。
     言葉にならない叫びを込めて両腕に力を込める。顔を押し付けた胸板は思ったよりも柔らかかった。脱力している時の胸筋は案外硬くないと知ってはいたけれど、もっと痩せてしまったと思っていたから思いの外弾力があって少し嬉しい。鼻を啜ると薬っぽい匂いがした。この人からはいつも薬と消毒液と、病み衰えゆく生きた人間の匂いがする。
    「鼻水つけたら蹴り出すからな」
    「すみません、もう掛け布団にはだいぶついたかも」
    「きったねぇ……洗濯おまえがやれよ」
    「わかってますよ……」
     悪態をつきながらも後頭部を撫でる手は優しい。
     いつもは腹立たしい子供扱いが、こんな夜ばかりは胸が痛くなるほど幸せだった。
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