Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ぴー🥜

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 35

    ぴー🥜

    ☆quiet follow

    もにかちゃんと太陽の能力の話

     まさかこんなことになるとは思わなかった。

    「どうしょうかぁ……入ってきた場所ももうわからんし」
    「大丈夫だって! 先生も探してくれてるだろうし、俺達も自力で出口探そうぜ?」

     思わず、といった風に不安を溢した今日の演習の相方、山波もにかに、夜空太陽は殊更に明るく返した。
     真っ暗闇の中、自分の能力だけが唯一の明かりだ。蝋燭程度の明るさで手首から先を光らせた太陽は洞窟の先を照らした。なんとか早く出口を見つけなければ。

    「ほらっ、行こうぜ」
    「うん、そうじゃね、ありがとう」

     じわりと視界の端が白く消えていく。押し寄せる不安と恐怖を隠して、太陽はニッと笑って先を歩き出した。

    ◇◆◇

     時間はかれこれ二時間ほど前に遡る。
     太陽は大きな洞窟の前に集まった学生達を観察しながら演習の始まりを待っていた。
     中学も三年生になると、実戦を想定した演習が少しずつ増えてくる。様々な環境で、様々なグレイスと関わること。卒業後GCPAに入ることを見越して、学生の内から適応力を身につけること。この演習もその一環だった。
     学年、学科がランダムに振り分けられたメンバーと協力して、炭鉱内に隠されたアイテムを探せ。制限時間は一時間、早く見つけて戻ったチームは成績加点する。
     要は早い者勝ちの宝探しゲームだ。

    「ルールは以上。炭鉱の中は暗くて何も見えないだろうから」

     まずは明かりをどう手に入れるか考えろ、と。監督する先生からはそれだけの助言が与えられ演習がスタートした。
     残された生徒達はぞろぞろと明かりになるものを探しに散っていく。

    「よろしくね、太陽くん」

     綺麗なオパールグリーンの髪を揺らして、もにかがそうにこやかに話し掛けてくる。優しい声と雰囲気が何だか落ち着くな、と思ったのが第一印象だ。

    「うん、よろしくな、もにか先輩! じゃ早速行こっか!」
    「えっ、明かりを先どうにかせんと……」
    「いいのいいの! 早い者勝ちだろ? 一番になろうぜ!」

     そう言って太陽はもにかの手を引いて炭鉱の入り口に向かった。中を覗き込めば奥は真っ暗で、確かに明かりがないと物を探すどころか歩くことさえ難しそうだ。
     坑道に一歩足を踏み入れて、太陽は心配そうなもにかを手招き安心させるように笑ってみせた。

    「大丈夫だって! ほら」

     太陽は前にかざした手に意識を集中し、ゆっくり光らせていく。そうすれば太陽の光る手の周囲はランプを持っているかのように明るくなり、深く続いていく道が見えるようになった。

    「わぁ、すごいね! 太陽くんの能力なん?」
    「そうそう! 制限時間内なら光らせとくのも全然余裕だからさ」

     早く行こう、と言う太陽の後に、もにかは安心したように続いた。

    ◇◆◇

     アイテムを探し出すまでは順調にいった。明るさの調節も自在な太陽の能力は、暗闇での探索にはもってこいだ。無事に指輪をゲットして、さぁ戻ろうか、という時だった。
     ドォンッ!
     大きな音が響き、ぐらりと一瞬地面が揺れた。

    「うわっ」
    「きゃあっ!」

     思わず耳を塞いでしまったが、次いで聞こえたガラガラと何かが崩れる音に嫌な予感が過る。

    「もにか先輩! 急いで戻ろう」
    「え、どうしたん?」
    「ちょっと……マズイ気がする」

     たたっと走って来た道を引き返すと、予感は的中していた。崩れた天井、散らばる石ころ。出口へと繋がる道は塞がれてしまっていた。

    「そんな……」

     まさかこんなことになるとは思わなかった。
     先程の爆発のような音。誰かの能力か、爆弾でも仕掛けられたのか。事故か故意か。仮にもここは学園の敷地内だ。もし万が一故意によるものならば、早急に報告しなければならない。
     来た道を塞がれた以上、別の出口を探すしかない。だが、現在地もわからずこの広い炭鉱を再探索するとなると、想定していた一時間以内に戻るという時間を大幅に越えることになる。

    「もにか先輩、見にくくなるけどちょっと明るさ落としてもいい?」
    「ええけど、どうしたん?」
    「あんまり長く能力使ってると、ちょっとね。いつ出られるかわかんねーから節約しときたい」
    「わかった。うちは大丈夫じゃけぇ、無理せんようにしぃよ」

     すぅっと太陽の手の光が小さくなる。ギリギリ辺りが判別できるくらいの明るさにして、二人はありがとうと互いに笑いあって迷路のような坑道を再び歩き出した。


     それから、もうどのくらい歩いただろうか。不安を振り払うように互いに声をかけあっていたけれど、段々と口数も減ってきた。それに。

    (ヤバい、もう……目が)

     能力の限界を越え始めたのはしばらく前。じわりじわりと狭まる太陽の視界は、今はもうほとんど真っ白だ。

    (まだ、まだやらないと。せめて出口を見つけるまで……)

     見えない恐怖に無意識に歩みが遅くなる。自分がどこにいるのか、繋いだ手が誰なのか、分からなくなる。
     怖い。怖いよ。
     孤児院に引き取られる前の記憶がフラッシュバックする。

    「あっ! 見て太陽くん! あれ出口じゃない?」

     進む先に外の光を見つけ、もにかが声を上げた。先を歩いていた太陽の手を引っ張って、今度はもにかが一直線に出口を目指して先導する。
     二人で外に飛び出すと、そこは入った場所からはかなり離れた森の中だった。

    「すごい、こんな場所にも出入り口があったんじゃね」

     外の眩しさに目を細めてもにかが言うが、太陽は黙って俯いたままだ。太陽の視界は今までと何も変わらない。ただただ真っ白な闇の中。

    「よぅ頑張ったね! もう安心じゃね」
    (安心? 本当に? 分からない。だって何も見えない)
    「太陽くん?」
    (怖い。俺を呼んでるのは、だれ?)

     もにかが呼び掛け太陽の腕に触れた瞬間、その手はパシンと叩かれた。驚きに目を見開いたもにかから、太陽はよろりと一歩後退る。
     はっ、はっ、と荒い呼吸が、太陽の今の状態が到底普通ではないことを示していた。

    「太陽くん! どうしたん! 大丈夫?!」
    「やめて! さわらないで!」

     怯えたようにブンブンと闇雲に手を振る太陽は、目の焦点があっておらず、もにかの姿が見えていないのだと、もにかは気がついた。
     能力の代償であることは明白だ。早く保健室に連れていかないと。その為にはまず太陽を落ち着かせないといけない。

    「太陽くん! もう大丈夫じゃけぇ、落ち着きんさい!」
    「やだ! やめてよ!」

     どうにか落ち着かせようと声を掛けてみても、触れようとしても、完全にパニックを起こしている太陽は幼い口調で拒絶した。このままではいつまでもここから動けない。
     どうしよう。もにかは必死に考え、そして。

    (そうだ)

     スッと専用の携帯ベルトから愛用の鍵盤ハーモニカを取り出す。すぅっと息を吸い込んだもにかは、吹き口に唇を当て、滑らかな指使いでメロディを奏で始めた。
     静かな森の中、優しい子守唄のメロディが辺りを満たしていく。柔らかな旋律が耳に届いたのか、太陽の肩が揺れ、すぐにかくんと脱力して座り込んだ。

    「あ……」

     しばらく虚空をさ迷った太陽の視線がゆっくりと閉じられる。そしてとさっと倒れたかと思うと、太陽からはすぅすぅと穏やかな寝息が聞こえた。
     演奏を止めたもにかは太陽に近付いてそれを確認すると、太陽の横にガクッと膝をついた。

    「……よかったぁ」

     もにかが鍵盤ハーモニカで奏でたメロディは聞く者を皆眠らせる。それは奏者であるもにかも例外ではない。
     この能力はどうやったら人の役に立てるだろうと、ずっと考えていた。

    「ちょっとは、役に立ったかなぁ」

     コロンと太陽の横に寝ころんで、もにかも静かに目を閉じた。歩き通しで疲れも溜まっていたのだろう。救助が駆けつけるまで、二人はすやすやと眠り続けていた。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏😭🙏☀🎹😊💘👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works