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    すー 課題が終わらん

    ピンガ好きだーーー!

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    POIPOI 1

    ジンピン
    閲覧は自己責任で。
    書きたいことだけ書いたので説明が雑。すぐ終わる。小説書くのが下手ですがお許しを。
    解釈違いだと思ったら読むのをやめてください。
    思いっきりタヒネタです。自衛してね。
    ジンピンと言い張りますがあまりジンピン感はありません。

    nobody knows大通りから少しはずれた場所に、そのバーはあった。外から目立ちにくい場所にある階段を登って2階、間接照明が適度に灯を灯す小洒落たその場所のカウンターの奥に二十代くらいの男女が座っていた。そこに、銀髪を靡かせた黒服の大男が足音を立てずに近づく。カウンター内のバーテンダーは大男をチラッと見てまたすぐ目を伏せた。ここがただのバーではないことはバーテンダーの態度からもお分かりのことだろう。
    カウンターの奥に座ってパソコンを覗き込んでいたコーンロウの若い男は近寄ってきた銀髪の男に気づいて僅かに頬をぴくりと動かした。手前に座っていた女も顔を上げる。
    「待ってたわ、ジン」
    「おいキール、なんでジンをここに呼んだんだ?元々この作戦に入ってないだろう?」
    キールと呼ばれた女は名前を呼んだ男を振り返る。
    「やっぱり規模が大きくなりそうで念のために人手が欲しかったから呼んだのよ。人はいても別に困ることはないでしょう、ピンガ。あと、もちろんラムも了承済みよ」
    「…別に人員は充分って話だっただろうが。」
    ピンガはキールから目を逸らしてボソッと言う。銀髪の男ーージンはカウンターに座ることなくキールに話しかける。
    「…それで、キール、内容は」
    「ああ,ごめんなさい。任務なんだけれど。よくウチと取引をしていたあの組織の動きがどうにも最近おかしくてね、どうやら我々に逆らって何かしでかしそうなのよ。」
    あの組織、というのは、黒ずくめの組織がここ数年取引を続けているとある団体のことだ。なんだかんだ有用性が高いことから、珍しくすぐ切られることなくこうして関係が続いている。
    「しでかしそうって、確信はねえのか」
    「組織のデータをハッキングしようとしたのよ。その時はピンガが撃退してくれたのだけど、別のところのコンピューターも同時にやられてたらしくて、そっちは少しだけデータを取られたみたいなの。とは言っても、そのデータがあるからって我々の脅威になるみたいな内容ではなかったからいいのだけど、とにかく取られたデータの回収または処分と、今回こんなことをした相手組織にお灸を据えに行くってわけ。放っておくと今回以上のことをされそうだから。」
    「そんな組織潰して仕舞えばいいだろうが」
    「いちおう、組織にとって結構重要な取引相手だから出来る限り消さないで利用したいっていうのが上の考えらしいわ。まあ、そういうことだからジン、あなたは作戦当日は相手組織の本部に侵入する部隊を仕切ってほしいの。私とかウォッカもいるけど、そのメンバーの中で一番戦えるのは貴方だろうから。ピンガは相手の奪って行ったデータが保存してあるメインサーバーが置いてあるところに行ってちょうだい。」
    「おいおいちょっと待て。なんで俺は本部の方じゃねえんだよ。」
    「あなたなら相手のシステム突破くらいすぐにできるでしょ。」
    これから私用事があるの、じゃあそう言うことだから詳細はまた後日ね、と言ってキールは立ち上がった。カウンターに代金を置いてさっさと部屋を出て行ってしまった。
    「はあ?!ちょっと待てよキール!」
    ピンガが後を追おうと立ち上がる。と、ジンがタバコの火をつけながらゆらりとピンガを見やる。ジンはゆっくりタバコを吸うとピンガに向けて煙を吹きかける。
    「っお前!何すんだ!!」
    ピンガがジンに向けて怒鳴る。ジンはそれを無視して出入り口まで歩く。ドアをくぐり抜ける直前、振り返って言った。
    「足を引っ張ってくれるなよ、クソガキ」
    ジンが立ち去った場所をしばらくポカンと見つめていたピンガだったが、しばらくしてわなわなと肩を振るわせる。キッと目を見開いて、拳を握りしめた。
    「…〜っふざけるなよ!!!クソジジイ!!!!」

    ーーーー

    作戦当日
    文句を言いつつもピンガは作戦通りメインサーバーのある建物に一人で侵入していた。薄暗い室内にぼうっとモニターの光が照らす不気味な部屋で、さっさとデータを取り返そうと黙々と作業を進める。
    ピコンっとスマホから通知音がする。見るとキールからで、本部のある建物に侵入するドアのロックを解除して欲しいとのことだった。現地でもできるが、機械が得意なピンガならすぐに開けられるだろうと連絡をしてきたと言う。
    もちろん朝飯前だったのですぐに解除した。さて、あっちも動いてるからこっちもやるか、とネクタイを締め直してキーボードを叩く。保険としてやっとくかと思って、相手のメインサーバーに自己破壊プログラムを組んでおく。データも無事回収して、さあ立ち去ろうかと思っていたところ、何か気配を感じて咄嗟に振り返りながら右に逸れる。左腕に鋭い痛みが走って思わず顔を顰めた。抑えながら見ると、ナイフや拳銃やらを持った男達が部屋に続々と入ってきた。相手組織の人間だろう。
    しまった、やるべきことは終わっているから早くこの場をさらなくては、と思ったが、相手の人数は10人以上。どうするかを考える暇も与えず相手がピンガに襲いかかる。ピンガは冷や汗を垂らしながら口角を釣り上げる。
    「…フン、やってやるよ…!」

    ーーーー

    ピンガに遠隔操作でドアを解除してもらい、建物内に侵入したキールは違和感に眉を顰めた。相手のトップはいるのに、幹部の数はあまりない。見かけない下っ端構成員らしき人がやたらにいる。どこかに取引とかに出かけているのかなどと思っていると、相手のトップの人が徐に口を開く。
    「あなた方が何をしにきたのかはわかっている。だが、我々は撤回するつもりはない。お引き取り願えるかな。」
    「…そうか。」
    ジンが目を細めて言う。合図も何もなかったが、ジンがコートに手を突っ込んだ瞬間、その場は戦場と化した。あちこちから弾丸が飛び交う中、ジンは違和感を抱いた。

    おかしい…なんの躊躇いもなく発砲しているわりには急所をろくに狙ってない…時間稼ぎでもしているつもりか?幹部の姿も見られない…
    まさか

    ジンはふと部屋の端に目をやった。電球の光もろくに届かない薄暗い場所に佇むのは、この部屋の唯一の出入り口。
    プログラムをいじって開錠したはずのその扉のパネルの上には

    赤いランプ。施錠のサイン。

    …っやられたな。ジンは顔を僅かに歪めた。施錠されたということは、またあのプログラムを突破しなくてはならない。しかし今この場所は戦場のようなもの。そんなことをしている暇はない。だが、爆弾のような広範囲の武器を使えない今、この人数の敵を全て始末するにはあまりに時間がかかりすぎる。
    つまり敵の狙いはメインサーバーの方で、こっちは時間稼ぎに過ぎなかったということか。
    どうする。メインサーバーの方は手薄。あの場にはあの男一人。我々のデータ化をこれ以上どうにかされてはまずい。
    ジンは考え込みながら銃で応戦していたが、不意に振り返って部屋の端の防犯カメラを見つめた。

    じっと、まっすぐカメラを見つめた。
    それは別に長すぎるわけでもなかった。敵に隙と捉えられることすらない、ほんの、ほんの一瞬だけの時間だった。だがそんな僅かな時間でも、ジンにはとても長く感じた。なぜ振り返ったかも、何を思って見つめたのかも自覚する前に、ジンはふっと目を離して、再び戦場に戻っていった。

    ーーーー

    ピンガはなお敵と交戦していた。
    1対10人以上。あまりにも絶望的盤面だが、メインサーバーに当たることを恐れてか、相手が拳銃を使用していないおかげで今もこうして応戦できている。すでに5人以上は始末した。あと少しで終わるのに。…長時間の戦闘のせいで明らかに自分の戦闘能力が落ちている。
    ああ、クソっ!悔しいがあくまで俺は裏方の人間。いくら鍛えているからって、こんな人数をこんな長い時間相手にするのはあまりにも無茶だろう!?
    ピンガは口を歪めて舌打ちをする。ナイフを深く刺されて動きを封じられたら一巻の終わり。もちろんそれは避けているが、それなりの切り傷は負ってしまった。これ以上出血しないうちに終わらせなくては、とピンガは自分の左腕を見やって思った。
    まあ最悪このメインサーバーを破壊してしまえばいい。そう思っていたピンガだったが、ふと目に入ったモニターを見て目を見開いた。
    そこに映っていたのは敵のアジト。組織の人間はとっくに逃げ仰せているはずのそこには、いまだに黒い服の人間がいるではないか。
    隣のモニターにはドアロックの文字。
    最悪だ。最悪の状況。
    こいつらの狙いははなからここに来る人間の抹殺。組織の中でも特にコンピューター系に長けた奴が来ると判断して、そいつを潰して自分達が攻撃した時の反撃の手を減らそうっていうところだろうか。俺たちがここに人員を割かないと読んで、あっちの人間が加勢に入らないように足止めして。そもそもこっちは長時間になる想定をしていない。人数はあっちの方も負けているだろう。
    もちろんこっちの任務はデータの消去なんだから、このサーバーを破壊してしまえばそれでおしまい。だったのに。
    ここの機械を壊せば、向こうのドアロックは解除できない。
    だが自分は今すぐここを立ち去ることもできない。

    どうする?どうすればいい??
    ピンガは顔を歪めた。と、突然、切羽詰まっていたピンガは何かに惹きつけられるように、不意に横に目を見やった。
    そこには一台の安っぽいモニター。おそらく防犯カメラの映像であろうそれに映っていたのは。

    ほぼ同時に振り返ったであろう、銀の長髪を靡かせた黒服の大男。
    目深に被ったハットと長い髪から覗く凍りつくようなグリーンの瞳がこちらを見つめていた。

    ほんの一瞬。ほんの一瞬、その目を焼き付けるように見つめて。

    ふっと視線を外し再び正面を向いた。ピンガの顔は、その場に不自然なほど穏やかだった。ピンガはニッと笑うと相手に向かってまっすぐ走り出した。

    迷いはなかった。もう、振り切った。
    今はただ、やるべきことを。

    ピンガは走ったその勢いで、壁際の棚から壁の僅かな出っ張りの順に伝って駆け上がり、飛んだ。比喩なんかではなく、駆け上がったその勢いで身体を捻り、仰向けに空中に体を投げ出して、飛んでいた。

    背中から脚、滑らかな曲線を描き、飛び上がったその姿はまるで、
    海から飛び出した人魚のようだった。

    一瞬の出来事のはずなのにピンガには恐ろしく長く感じた。こんなに長く感じる一瞬は初めてだった。下には何が起こっているか分からず焦りの色を浮かべる敵の構成員が見える。この瞬間誰もが、高く飛び上がった彼に目を奪われていた。ピンガは酷く穏やかな目で見下ろしていた。

    こんなに高く飛び上がったのは生まれて初めてだ

    ピンガは空中でクルッと身体を一回転させると、懐から拳銃を取り出し続けざまに発砲した。弾はそれぞれ的確に相手の頭を貫く。

    弾は3発、敵の数は4人

    それがどうした。ピンガは全て撃ち終わった拳銃を手放すとフンッと鼻で笑った。
    あるじゃないか、人の命を刈り取る武器が、あと一つだけ、そこに。

    生き残った相手が一人。着地するピンガ目掛けて、手に持っているナイフを高々と突き上げた。
    ピンガが地面に降り立つ瞬間、それが深々とピンガの胸に刺さる。
    だがピンガは止まらなかった。自身の胸に刺さるナイフをあっけなく引き抜く。自身の血で真っ赤に染まるナイフを逆手でしっかりと握り直し、相手の喉を目掛けて振りかぶる。恐怖で歪む相手の顔を冷たいアクアマリンの目で無表情に見つめ、口を開いた。

    「死ね」

    相手の喉から真っ赤な鮮血が飛ぶ。呻くような音を発してその場に倒れた男はもう動くことはなかった。
    クルリと踵をかえしてピンガは歩き出したが、胸から大量の血が溢れ出していて、その足取りはおぼつかない。自力で歩くのも限界で、近くの壁にもたれかかる。と、真横にはさっきのモニターがあった。相手の組織の本拠地の防犯カメラの映像。
    そこには、脱出する術がなく、未だ銃撃戦をしている組織の人間たちと、
    もうこちらを見ていないが、かわらずそこにいる銀髪の大男。


    ああ、ジン、ジン。

    俺はお前のことが嫌いだ。
    大っ嫌いだ。
    お前は表舞台で華々しく生きているというのに、俺よりIT技術なんか持っていないのに、偉そうな面振り撒いているというのに、俺はお前のその冷酷な瞳に映ることもないまま、見向きもされないままこうして消費されて死んでいくだなんて、まっぴらごめんだ。

    蹴落としてやりたい、大っ嫌いなやつ、のはず、なのに。
    メインサーバーをさっさと破壊すれば、自分だけ生き残ることができたのに。

    それでも

    血塗られた画面に映る銀色を、凍りつくようなグリーンのその瞳を見て




    ーーーーそれでもいいと、思ってしまったのかもしれない



    きっと大量の出血で頭がバカになってるんだろうな、そうだ、きっとそうに違いない。
    やっぱり俺はお前のことが気に食わないし、こんなところで、こんな形で死ぬなんてまっぴらごめんだし、お前はいつまでも俺を見やしない。

    でも

    それでいい。それでいいんだ。そういうものなんだ。
    お前と俺は、一生分かり合えないままでいい。
    ジンとそっくりだなんて虫唾が走る。

    だから解らなくていい。俺のとった行動を、お前を助けた理由を、永遠にわからないまま俺に助けられたことを屈辱に思えばいい。どうせ死んだ奴のことはすぐに忘れるんだろうが、一瞬でもお前の記憶にあれば、それでいい。

    だって、お前、あの時俺を見ただろう?
    敵に嵌められ、切羽詰まったあの状況で、俺を見たんだ。
    だったら死のうが生きようが俺の勝ち、そうだろう?

    銀の映る画面を愛おしげに親指で撫でる。画面に血がべったりこびりつき、銀は見えなくなった。
    口から血が溢れる。身体が軽いようで、脚はずっしり重い。まだだ。まだ死んではいけない。ピンガは壁にもたれながらズリズリとモニターまで歩いた。目の前までつくと崩れるようにその場に倒れる。台にうつ伏せでもたれるような状態から、左腕にグッと力をこめ、顔をあげて、震える右手をキーボードに向け懸命に伸ばし、エンターキーに触れる。

    「……ざまあみろ」

    ピンガは不敵に笑うと、最後の力を振り絞り、エンターキーを叩いた。
    カシャーン…と不釣り合いな程に軽快な音が静かな部屋に響く。
    モニターの起動音が小さくなる中、ピンガはゆっくり床に頽れると、一度だけ身体をぴくりと震わせ、それっきり動かなくなった。

    ーーーー

    建物内では未だ銃声が鳴り響いていた。ジンは物陰に身を潜めながら舌打ちをする。
    「クソっ、完全に罠だったってわけか!どうしますかい、兄貴」
    隣でウォッカが冷や汗を流しながら尋ねる。と、近くに弾丸が撃ち込まれ、咄嗟にジンとウォッカは別々に逃げる。
    あまりにも絶望的盤面。と、そこに。

    突如鳴り響くけたたましい警報音

    「なんだ!何が起きている!」
    「わ、わかりません!システムがいきなり!」
    相手の組織の人間たちが予想外のアラームに戸惑う。
    「…我々のコンピューターが乗っ取られています!何者かがハッキングしているようで…」
    「メインサーバーのデータが攻撃されています!制御できません!」
    敵の構成員は阿鼻叫喚状態。あまりに唐突な出来事に黒ずくめの人間たちは何が何だかわからず立ち尽くしている。
    ハッキング、乗っ取り、メインサーバー
    ジンは後ろに振り返る。振り返った先には、先程まで赤いランプがついていたドア。
    そのランプは、青に変わっていた。
    それがどういうことを指すのか考える前に、ジンは正面に向き直ると声を放った。
    「総員、ズラかるぞ、急げ!」
    ジンの突然の大声に組織の人間は素早く反応してドアの方へ駆けていく。相手の組織の人間はそれを止めようというそぶりを見せたが、コンピューターへの攻撃の方が深刻だと判断したようで、深く追っては来なかった。


    ーーーー

    いくつものドアを抜け、ジン達一行は建物の外に出ることができた。
    「ったく、やっと出れたぜ。とんだ災難でしたね兄貴」
    ウォッカが撃たれた腕を止血しながら言った。
    「ドアが施錠されたと分かった時はどうなることかと思いやしたぜ。」
    「ほんとね。まあ脱出できたし、余計な犠牲が出ることもなかったからよかったわ」
    キールも汗を拭いながら近寄る。
    「それにしても、まさか相手があんな手段をとってくるとはね。」
    「ああ、メインサーバーで俺たちに攻撃しようとしてたらしいが…、まあ心配はいらねえんじゃねえか?最後サーバー攻撃受けてて瀕死の状態だったからな。後で完全に始末する必要はあるがな。こんなことになったんだ、あの組織との関係は切るしかねえ。」
    「でも、なんでいきなりあんなことが?いったい誰が…?やっぱりピンガがやったのかしら」
    「そうじゃねえか?あの勢いのハッキングができる人間なんて奴ぐらいだろ。ピンガはメインサーバーの方にいるしな。向こうのコンピューターからやったんだろ。」
    「それなら今回は彼のお手柄ね。それで、ピンガと連絡はしないの?」
    ああそうだった、とウォッカが呟いてスマホを取り出してメッセージアプリを開いた。と、次の瞬間、大きな爆発音が響き渡る。驚いて振り返ると、さっきまでいたフロアが吹き飛んでおり、黒い煙が上がっていた。
    「どういうこと?証拠隠滅のために奴らが爆破したってわけ?」
    「いや、この建物の出入り口はあそこの一個しかないから脱出できていないはずだ。それに、奴らがコンピューターを破壊するメリットなんかないだろう?俺等を殺すことよりコンピューターの制御を優先したぐらいなんだからな。」
    だったら、とキールは建物を振り返り見る。この様子だと、建物内でコンピューターの対処をしていた敵構成員は全員命はないだろう。ということは、さっきのサーバー攻撃も建物爆破も彼がやったというの?とキールは1人で敵のメインサーバーのある基地に向かった若い男を思い浮かべる。
    「始末する手間が省けて一安心だな…ところで、ピンガと連絡が取れねえんだが…キールには連絡きてるか?」
    「いいえ、何も」
    ウォッカとキールは少し焦った様子で顔を見合わせる。あのピンガが連絡をしないなんてこと今まであっただろうか。
    「…とにかく、行ってみるか」
    ウォッカが車の準備に取り掛かる。キールはさっきから全く発言をしないジンを見やった。ジンは微動だにせず爆発した建物を見上げていた。
    その目がいったい何を思っているのかさっぱりわからない。でも全てを知っているかのような、そんな気がした。

    ーーーー

    ピンガが向かっていた敵のメインサーバーがある建物に到着した。ウォッカとキールは建物内に小走りで入る。
    そこはこの世のものとは思えない状況だった。
    彼方此方に死体が転がっており、生きている人間は見当たらない。棚にあったであろうものも床に散乱しており、そこらじゅうに弾痕もある。夥しい床の血の量にウォッカは顔を顰めた。
    「これはとんでもねぇな…本当の狙いはこっちだったってことか…ピンガはどうなっている?生きているのか?」
    「…こっちに血の跡が続いてるわね」
    そっちを見やると、手前に数名、血塗れの男達が倒れていた。近寄って見てみたが全員絶命していた。額に穴の空いた男が数名と,喉を掻き切られた男が一人。ほとんど即死だっただろう。近くにはピンガが愛用していた銃が落ちていた。弾は残ってなかった。
    喉を切られた男のところから血の跡が続いており、辿って見てみると、その先に探していた男がいた。
    ピンガは一番大きなモニターの前にうつ伏せに倒れていた。キールはウォッカと同時に駆け寄る。ピンガの状態は酷いものだった。あちこちに切り傷があり、胸からは今もまだ血が流れている。傷の位置や血の跡からして、即死ではなかったのだろう。相当苦しかったはずだ。キールはそっとピンガの首筋に触れたが、やはりもう脈はなかった。死因は失血死といったところだろうか。キールは血の跡を見て、上にあるコンピューターを振り返った。キーボードには血のついた指で触った跡がある。
    まさか、あの人数全員を相手にして、全員を殺して、その上私たちがいたところのあの騒ぎまで起こしたというの?こんな大怪我を負っていながら、アジトにいた組織の人間の救出をしただなんて。末恐ろしい男だ、とキールは思った。ウォッカもどうやら似たようなことを考えていたらしく、珍しくしんみりした感じで言った。
    「…本当、ピンガはよくやってくれたな。ドアを開錠してくれてなかったら、俺たちは全員死んでた。」
    「…ほんとうね」
    しゃがんでいたキールは辺りを見回した。やらなくてはならないことがたくさんある。さあどうやってここの処理をしようか、と考えていたら、ほとんど気配を立てずにジンが部屋に入ってきてこちらへきた。そしてピンガの遺体を黙って見下ろす。何を考えているのかわからない、相変わらず凍りついたグリーンの瞳が、もう開くことのないピンガの目を真っ直ぐ見つめていた。死に関してほとんど興味がないはずの男のその行動に、キールは眉を顰めた。
    キールはジンに話しかけようとしたが、やめた。その瞳を見て、なんだか、今自分は立ち寄ってはいけない気がした。他人の介入を一切許さないような、緊張感が血の匂いの充満する部屋に走る。そんなに長い間見つめているわけでもないのに、キールにはやけにその時間が長く感じた。
    程なくして、石像のように凍りついていたジンの唇がゆっくり動く。
    「……調子乗るなよ、クソガキ」
    聞こえるか聞こえないかくらいの声量でそれだけ吐き捨てると、くるりと踵を返してジンは部屋を出ていった。
    いったい今の言葉はどういう意味なのだろうか。キールは困惑した表情でピンガの方を振り返る。もう息のない彼の表情を覗き込んで、キールは目を見開いた。

    少しだけ、ほんの少しだけ、ピンガは笑っていた。
    嘲笑などの類ではない、まるでイタズラが成功した子供のような無邪気な笑みを浮かべていた。その表情は血で汚れているにも関わらず、波ひとつない海のように穏やかだった。
    どうして。どうして。どうして貴方はそんな顔をしているの。向上心の塊のような貴方が、何故自らの身を犠牲にして私たちを助けたの。死を悟っただろうに、何故どこか嬉しそうな顔をしているの。
    わからない。キールには何もわからなかった。だがそれは当たり前のことなのかもしれない。先ほどのジンと同様、私には一生理解できはしないんだろうし、果たして本人達が自覚しているのかさえ、キールにはわかることはないのだろう。
    隣にしゃがみ込んでいたウォッカも立ち上がって後始末の準備を始めた。現実から隔離されたようなこの空間にも、徐々に時空が戻っていくようだった。この建物で死んでいる人の存在なんて、きっとあっという間に忘れ去られてこの刻に取り残されてしまうのだろう。No.2の腹心という立場のこの男さえ、後には他人の思い出話に出てくるかさえわからない。人の道理から外れたこの世界だ。いくら有能な構成員でも死んだらそこでおしまい。ましてや、人の死に関してほとんど興味を持たないあの銀髪の大男なんて、あっという間に忘れ去ってしまうことだろう。
    最後にそっとピンガの手に触れて、キールも立ち上がる。作業をし始めたウォッカを手伝おうとゆっくり歩き出す。一瞬だけ立ち止まってピンガの方を振り返る。
    それでも、今だけは、たぶんこの男の思い通りなのだろう。
    再び前を向いてキールは歩いて行った。

    フッと、もう聞こえるはずのない、男の静かな笑い声が、聞こえた気がした。
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