アナタは愛しい子何故デジモンはタマゴから生まれるのだろう
大昔デジモンもかつて胎内でデジモンを生成、産み増やし繁殖していた時期があった
しかしある時からデジタルワールドは
タマゴから生まれない個体は滅び
タマゴから生まれる個体だけが生き残った
「ゆるさない」
進化の過程で切り捨てられた数多の命
創造主は彼らの悲しみを存在そのものを
我々を否定した
「せめて、せめてこの子だけは助けてほしかった…!」
ここに独り妊婦のホームページ欄を素に生み出された女神デジモンがいた。彼女の名は
「エイレイテュアモン様」
ここはデジタルワールドの天界
天界の一角に豪華な鳥の巣を模した場所がある。
シスターの様な容姿、大量の羽毛に包まれ仮面を着けた金髪の女神デジモンが下界を見下ろしながら座っている
彼女はデジモン達の安産を願うデジモンである
しかしその役目も今日で幕を閉じようとしている
「何かしらエンジェモン」
「デジタルワールドにいた胎生(体内で子供を育てる)デジモンは貴女様以外、絶滅しました」
かつて太古のデジタルワールドにデジタマは存在しなかった
自らデータを体の中で切り離し細胞分裂を繰り返し、腹を裂いて生まれくるデジモンも大昔少なからずいたのだ
しかしそうやって生まれてきたデジモンの殆どは体が弱く、環境の耐性も生き抜く力も何もかもが脆かった
エイレイテュアモンはそんなデジモン達の誕生を無事を願う存在として生み出されたデジモンである
「報告によると彼らは突然絶滅したとのこと」
「…本当に?」
「はい」とエンジェモンは答える
気がつくと彼女の周囲は天使デジモン達に囲まれている。まるで早くここから立ち去れと言わんばかりに責め立てるような眼で睨みつけてくる
「イグドラシル様の元へ行ってきます」
そう言うと周囲の天使デジモン達は一定の距離をとりエイレイテュアモンを見送る
付きいて来たのは長年エイレイテュアモンを監視してきたエンジェモンたった一人
いつもの彼なら彼女に労りの言葉をかけるはずだがどうもおかしい
まるで別人の様に冷たい態度でエイレイテュアモンに接する
「もう胎生デジモンは私以外いなくなってしまったのね」
「…」
付き人のエンジェモンから返答は無い
何故ならこれからのデジタルワールドに胎生デジモンは不必要な時代が来るのだから
彼女がその最後の胎生デジモン
イグドラシルがいるコンピュータの部屋まで螺旋状の階段をゆっくり登っていく。本来翼を広げれば簡単に頂上にたどり着くが、彼女は一段一段慎重に登る。お腹を撫でながら我が子の温もりを心音を感じながら子守りを歌を歌う
「私の坊や♪早くあなたに会いたいわ」
我がの子運命、私の運命を覚悟して登る
これからイグドラシルに会えば間違いなく消されるだろう
せめてこの子の命だけでも!と懇切に願っても無駄だと分かっているけれど
我が子を抱きしめてから消えたい
激しい陣痛も、つわりも愛おしくてならない
エイレイテュアモンという存在が近くにいると無事に生まれる。産後、母子共に死ぬことは確実になくなるのだ
私は多くのデジモンの誕生を見てきた
長い年月見守っていくうちにふと思った
私も赤ちゃんが欲しい、と
彼女は唯一無二の存在
彼女がいなくなればデジモンは産まれることが出来ない
誕生の女神
エイレイテュアモン
彼女の役目はデジタルワールドの子孫繁栄
しかし、デジモンの進化は思わぬ方へと歩み出した
胎生デジモンから卵生デジモンへ時代が変わったのだ
「イグドラシル様」
巨大なクリスタルに囲まれた部屋
エイレイテュアモンは中央に鎮座する柱に向かって跪く
「お願いします!
この子を私から奪わないでください!」
深く頭を下げると大きなお腹から我が子と自分の心臓の音が激しく聞こえる
痛みが出てきた
恐らく産気づいたのだ
もうすぐ生まれようとしている
彼女の陣痛に気がついたイグドラシルは無情にも命令を下す
『エイレイテュアモンよ
これからお前は、お前の能力はこのデジタルワールドの繁栄の概念となり果てるのだ
お前の子は必要ない』
「イグドラシル様!それはあんまりです!
お腹の子は私のデータを受け継いでます!
きっとこのデジタルワールドの平和の為にお役に立てるかと!」
『ならば子にも役目を与えよう
誰もやりたがらないゴミ仕事をな!』
イグドラシルから眩い閃光が放たれる
その瞬間ドクンッと大きな鼓動が鳴り響く
エイレイテュアモンは大きな喪失感を覚える
自分の中で大切な何かが無くなった
「あ、あああああっ!!!…そんな!!」
イグドラシルが放った光で我が子が奪われたのだ
『お前の子は闇の浄化が得意のようだ
ちょうどいい、上手く使わせてもらう』
闇の集合体が空中で集まり出す
見るだけで悪寒がするヘドロ溜りの中に子が落とされる
「いやっ!やめてぇぇぇぇぇ!!!!!!」
その光景を目にした瞬間エイレイテュアモンの体は闇に覆われオルディネモンに堕天した
オルディネモンは瞬く間にデジタルワールドを絶望と混沌に陥れた
負のエネルギーを撒き散らすことは我が子に負担がかかるとも知らず
オルディネモンは多くのデジモン達の尽力により闇に葬り去られた
イグドラシルは彼女から必要なデータを抜き取り、誰もがデジタマから生まれる新たなデジタルワールドを構築する
残された彼女の絶望の残骸
そこから彼女の残留思念が溢れ出す
『坊や』
残留思念は嘆きながら闇の中を彷徨う
そして一体のデジモンに遭遇する
「うぅ…ぁ…」
泣き声混じりの嗚咽がそのデジモンの体全身から聞こえてくる
そのデジモンは自虐行為を繰り返していた
そのデジモンは怨念で出来ていた
そのデジモンは"親"を求めていた
そのデジモンは"親子愛"を欲していた
そのデジモンには死が与えられなかった
この世全ての負の感情を一身に受けていた
終焉に相応しい彼の名は
アポカリモン
『…!』
彼女は彼の体に触れることができない
彼女が話しかけても彼には聞こえない
泣き叫ぶ母の声
抱きしめられない無念
怒りと憎しみ
その想いすらアポカリモンの一部となり吸収されていく
坊やを救いたい!
エイレイテュアモンの残留思念は消滅を覚悟して最後の力を振り絞る
『コシートイ-ハーターナーア』
呪文を唱えるとエイレイテュアモンだった残留思念が消滅していく
彼女が選んだ道
同じ浄化の力を持つ者同士が混ざり合えば闇のエネルギーを相殺できる
しかし今の自分は肉体は愚か浄化も能力も全てイグドラシルに奪われ何もない
浄化の能力を獲得するまで記憶を保持したまま転生する
天使デジモンに転生すると計画がバレてしまう恐れがある。
イグドラシルに気づかれれば大変なことになるのでダークエリアという闇のデジモン達が生息する地に転生先を絞る
強いデジモンに進化し、浄化能力を獲得するまで転生し続ける
例え長い年月をかけてでも!
彼女はアポカリモンを見つめながら強力な魔力を込め、解き放つ
『坊や、お誕生日おめでとう』
砂のようにサラサラと自戒した残留思念
音もなく誰にも気づかれることもなく消え去る
こうして最後の胎生デジモンがデジタルワールドから姿を消した
いずれその存在すら無かったことにされるだろう
しかし彼らが生きていたことをアポカリモンは知っている
長い年月が過ぎていく
ピコデビモンがアポカリモンのアバターの血を飲んだ時不思議な感覚に襲われる
それがなんなのか分からなかった
安心するというか、とても嬉しいような哀しいような…
でもこれだけはハッキリと分かる
「アナタは命の恩人
アナタの為ならボクなんでもするよ」
例えこの世界を敵に回したとしても
ボク/私はアナタを幸せにしてみせる
人知れず、本人も気づかずに獲得した長年の悲願である浄化能力
血を飲むことで確実にアポカリモンの中の闇を弱体化させることが出来る
いずれそのことを知ることになるのはアポカリモンが敵に洗脳されピコデビモンを吸収した後となる