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    山茶花

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    山茶花

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    擬骨が吸血鬼の擬輪と擬ファラの輪中心の話。

    フラワークローゼット リングはたまに親友のファラオからバイトを引き受けている。
     運転手役を引き受けたり、荷物を運んだり…力仕事が主であるが、金払いがいいので引き受けていた。
     今回も同じだった、調査用の荷物を背負いファラオのあとをついていく。
     調査というのは見つかった遺跡の調査。下見をしてから本格的に人数を増やして調べるらしいが下見の時にしか雇われないリングは詳しく知らない。
     個人が所有していたお城の地下に何かしらがあったそうで、それの調査らしい。
     現場前につくと石が積み上げられている壁が崩壊していた。先日地震があったのでそのせいかもしれない。
     鉄製の扉があって、それを隠す様に壁が作られていたようだ。
     ファラオは扉を開こうとしたがさび付いていて開かず、ここでリングの出番である。
     少し時間がかかったがカッターで切りこんで蹴り破った。後付けの扉なので多少壊してもいいだろうとファラオが判断した。
     階段がありさらに地下が続いていたのでLEDのランプを腰に引っかけて手にライトを持って二人は歩みだす。
    「こういう場所の調査は珍しいな」
    「恩師の城なのだ。口外しないよう調べてくれと。死体が出て来るかもと」
    「ええ…死体?」
    「怪しいだろう、壊れた壁に扉とか。そして地下だし、まぁ拷問部屋とかだったらコワイって言ってたな。
     死体が出ても、いつの時代の死体やら…。まぁ近隣のこともあるし何か出たとしてもお前も黙っててくれ」
    「そりゃあそうだな…」
     遺跡から出てくる遺体とはまた違う事情に頷くリング。
     地下は岩削って洞窟にしたかのような場所で、拷問部屋ではなくカタコンベ的な印象を受けた。
    「有害なガスは溜まってないな、奥まで行くぞ」
     木屑(扉だったものだろうか?)を踏み越えならがら二人は薄暗い奥へ進む。
     行き止まりの空間に石でできた棺のようなものがあった。
     蓋の部分がズレて中身が見える。ライトで照らすと骨と皮だけの死体があった。
    「屍蝋とかいうやつ?」
     条件が揃うとそういったミイラができるとぼんやりとした知識を持っているリングはファラオに呟く。
    「その蓋は動かせるか?」
    「やってみる」
     リングは重そうな蓋を掴んで慎重に動かす。
    「痛ッ」
     手に鋭い痛みが走った。蓋から手を離すと分厚いグローブがパックリと割れていて蓋の裏から錆びた刃物が飛び出ていた。
     動かしたら手を傷つける仕掛けが施されていたのか、と一瞬そちらに気をとられた時腕を掴まれる感覚と引っ張られ体勢を崩す。
    「!?」
     肌が剥きだされた手首に噛みつく死体を目にして、リングは意識を失った。



       ◇◇◇◇



     数日入院したリングは熱も下がったということであとは通院ということで退院した。
     手は数針縫い、骨には異常がない。手首の傷もまだ治っていない。
     あのあとのことをファラオから聞いた。意識を失ったリングを抱えて上に戻り救急を呼んだ後、人とともに地下に戻ると死体が消えていたらしい。リングは棺の中を調べようとして怪我をしたという事故扱いになった。
     ファラオもリングも死体のことは言わなかった。
    「さっきあったと言っても今無いものは無いからな。それよりももう少しあの地下を調べてみる。
     お前が噛まれたというのも心配だが外傷以外の変化は見つかっていないから、何かあったら連絡を入れてくれ」
     困り顔でファラオは言っていた。
     久しぶりにアパートの自室に戻った。管理人が掃除をしてくれているので埃っぽくない。
     ベッドに倒れ込む。あの死体はなんだったんだろうか、と病室で考えていたことをまた繰り返し思う。
     綺麗な死体だった。血の気の失せた青白い肌、ボサついた白髪。
     そいつに噛まれた手首は2つの穴が開いている。とてつもなく痛かった。今もじくじく疼いている。
     リングは身を越してキッチンに行きコップに水を汲んで痛み止めを飲む。
     ふと振り返る。
     寝室から冷気がくる気がする。
     寝室に戻り部屋を見回した。なにも変わらない部屋だ。ダストが片付けていてくれたので出かける前よりもスッキリしている気がする。
     リングはクローゼットを開いた、そこから冷気を感じたのだ。
     引っかけている服の間、積んである荷物の上に人間がぐったりした様子で居た。
     あの死体である。何も身に着けていないが狭いクローゼットの中、足を抱え込むような体勢なので見たくないものは見えない。
     しかし体も細すぎる、ほぼ骨だ。骨に皮が張り付いているだけだ。
     落ちくぼんだ目がリングを見ていた。
    「あの場所でずっと寝ていたがお前たちのせいで眠れなくなった。お前の場所を借りる」
    「いや、困るが…お前はなんだ?幽霊か?」
    「吸血鬼らしい。でも飲まなかったろ?お前の血の匂いで噛みついてしまったがすぐに離したし吸っていない。
     少し口に入ったからお前の記憶を辿ってここに行きついたが…俺はただ死ぬまで眠っていたいだけだ、死ぬまで眠ってやりすごしたいだけだ」
    「よく、わからないが…迷惑だ、帰ってくれ」
    「ならもう一人にあの場所を返せと言ってくれ」
    「…あぁ、解った」
     リングはスマホを取り出してファラオに連絡を入れようとするが繋がらない。
     あの地下にいるのだろうか?電波は届きにくそうだ。
     メッセージだけ送ってリングは自称吸血鬼と向き合う。
    「連絡がつき次第出て行ってもらうからな」



     吸血鬼はそこから動かず、音も出さない。本当に眠っているだけのようだ。
     ただ姿があんまりなので服を着せさせ、そこ以外で寝ろと言っても棺を用意しろと言われるので諦めた。
     吸血鬼なら血がいるのでは?と心配になったリングはまず代用に魚の血を見せたが怒られた。
     次に鴨の血を固めたものを見せた。やっぱり怒られた。
     今時肉屋で屠殺している店はないので動物の生の血は手に入らない。血は諦めて他に何かなかったかと記憶を辿る。
     昔何かしら漫画かアニメかで花を食べていた吸血鬼を思い出す。
     正解がわからないので日中花屋で花束を買った。
     帰りに管理人のダストに出会い1本分けた。すごく顔を顰められたが。怪我人が何をしてるのかと思ったのかもしれない。
     クローゼットの中に花束を投げ込んで閉めた。昼間に開けるなと言われているので怒られるのを避けるためもある。
     夜にクローゼットを開くと枯れたというより水分が抜けてカラカラになったなにかがこぼれてきた。
     吸血鬼の顔色は相変わらずだがよくなったような気もする。
     毎日いろいろな花束を投げ込んでいたがある夜とうとう怒られた。
     血も花もいらないから眠らせろと。
     人の親切をなんだと思った。
     死にそうな相手を助けようとしたのにと、そこでリングは首を傾げる。自分はどうしてこいつを餓死させなかったのか?
     必死になってしまった理由がわからない。
     困惑しているときファラオからやっと連絡が来た。向こうでなにかあったらしく、事情を説明しても吸血鬼を戻せないと言ってきた。
     地下室―――地下洞窟が崩れてしまったと。安全確認が出来るまで城にも入れないと。
     吸血鬼にそれを説明するとクローゼットで住むと言い出した、大変困る。
     とりあえず話し合いは平行線のままなのでファラオが来るまで待つことにした。
     日課になった花束は続けているし縫った傷は治ってきているが噛まれた手首は相変わらず。
     レバーやブラッドソーセージは美味しく感じるし、夜中コンビニに向かうため外に出た時は夜なのに周りが良く見えて怖くなった。
     鏡の前で歯を確認してもとくに尖っているなどはなかった。吸血鬼に傷のことでボヤいたが、とくに助言などなかった。
     ある日の夜、やっとファラオがやってきた。
     リングはファラオを連れてクローゼットを開く。
     溢れ出てくる花、花、花―――その中に吸血鬼はいない。
     花は枯れておらず瑞々しい。日中吸われなかったのだ。
    「…死んだ?」
    「…」
     ファラオは花を掻き出す。その様子をリングは眺める。
     いない。もともと痕跡なんてなかったので立ち去ったのか死んだのか解らない。
     リングは一本花を拾う。
    「灰か何か残っているかと思ったが、何もないな…」
    「そっか…」
     リングは屈んでいるファラオを後ろから抱きしめた。
    「幻覚だったのかな…でも居たんだよ、そこに」
    「…そうか」
     ファラオは慰めるようにリングの腕に手を添える。こんなに弱っている彼も珍しく感じて。
     こんなに花を与えていたのだ、彼の性格から情も沸いただろう。
     色とりどりの花たち。
     視線はリングの手元に向かう。
     リングに握られていた花は、音もなく枯れた。
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