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    血圧/memo

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    血圧/memo

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    真珠採り2

    2023.7.20 赤井は薬物検査のため入院。降谷も脳震盪を起こしていたことにより念のため病院に一泊と相成った。病院内で顔を合わせることはなかったが、伝え聞くに赤井の神経異常はすぐに改善されたそうだ。後遺症の問題もないらしい。
     降谷はというと、右瞼を挫創し縫合、右の上腕骨は骨折、喉には痣がくっきりと。これが賭けに勝った結果だった。いっそ清々しい程である。
     不甲斐ないとは思わなかった。寧ろこれで済んだのだから上出来だ。
     純粋な体術だけに限るなら降谷と赤井の力量は同等程度と踏んでいる。普通に対峙しただけならこれ程の手傷を負うこともないが、降谷が今回満身創痍になった理由は至極簡単、赤井の戦う目的が普通とは違ったからに他ならない。
     倒すか、殺すか。
     その違いが全てだ。目的如何で戦い方は決定的に変わる。急所を狙う技はどんな武術や格闘技にも存在すれど、命を奪うことが目的でないならある程度手加減をするのが普通だ。多くの人間には理性と自戒が備わっている。
     赤井は理性と自戒を捨てた。
     赤井は降谷を殺す覚悟でいた。
     そりゃそうだ。敵陣で視覚と聴覚を失った状態なのだ。赤井の殺気と威嚇は、近寄るなという相手への警告と猶予。それを無視して飛び込んだ降谷に、赤井は殺すことを躊躇しなかった。
     赤井秀一の躊躇のない覚悟。
     そんなもの最早災厄レベルじゃないか。それを受けてこの程度で済んだのだから、降谷は清々しいくらいなのだった。

     部下たちは沈痛な面持ちをした。FBIの面々も悲壮な顔をした。
     赤井秀一は苦虫を嚙み潰したような顔をした。なんだその顔。
     不甲斐ないとは思わないが満身創痍を晒して気遣われるのは本意ではなかった。しかし組織殲滅もピークを過ぎ、締めに向けた今が最も多忙だ。特に降谷は公安警察とFBIの調整を担う役割を担っているため休んでいられない。
     降谷は数多の視線を無視してひたすら業務をこなした。今日くらいはせめて定時で帰りたかった。
     そうして休憩時間になった途端押し寄せるFBIの面々に、降谷はビニール袋を突き付ける。
    「気遣いは無用です。僕は必要な任務をこなしただけですから」
     先手を打つ。
    「……これは何?」
     ビニール袋を受け取ったジョディ・スターリングが首を傾けた。
    「差し入れです。あなたたちには罰ゲームかもしれないけど」
    「罰ゲーム?」
    「気遣い無用と言ったってあなたたちは納得しないでしょう。だから罰ゲームです。あと答え合わせ」
    「答え合わせって?」
    「どうせ赤井から何も聞いてないでしょうから」
     少し離れたところに佇む赤井のほうを見遣る。ヘビースモーカーが休憩時間に一服にも行かず、様子を窺っているのだ、あの男は。それでいて何も言わないのだから全く相変わらずである。
    「僕と赤井の唐突なキスシーンの答え合わせですよ」
     ビニール袋の中身は大量の黒あめだ。それを彼らはガサゴソと開き、ざわめいている。念のためアレルギー成分の確認だけは忘れずにと促した。
     ていうか何で赤井秀一はちょっと怒ってるんだ。意外と赤井は顔に出す。赤井に謝られるのも礼を言われるのも御免だと思っていたけれど、何故か赤井は不機嫌そうだった。なんでだ。
    「うっ……!」
     誰かが呻いた。呻き声続出。
     可愛い部下たちにもビニール袋を差し出せば、凄い勢いでブンブンと首を横に振っている。ノリの悪い奴らめ。
     大勢が一斉に食べているものだから黒あめの匂いが漂った。
     赤井の覚悟を砕いた匂いだ。
    「ナニコレ、毒?」
    「失礼な。日本に古くからある黒糖のキャンディです」
    「嘘でしょ?」
    「僕は好きなんですけどね」
     飴玉を包みに戻す者には「罰ゲームだって言いましたよね?」と降谷がにっこり笑うと、涙ぐみながら再び口に含んだ。水を飲みながら舐める者、さっさと食い切ってしまおうと嚙み砕く者。最終的には笑い転げたりモバイルで動画を撮ったりし始めたのだからアメリカ人はノリが良い。
     結局降谷の可愛い部下たちも巻き込んでの黒あめパーティとなった。
     際物扱いして申し訳ありません製造会社様。
    「美味しいのになあ」
     降谷が独り言ちると側にいたスターリングが笑った。
    「最初はびっくりしたけど、慣れたら美味しいわね」
    「でしょう?」
    「ええ。私は気に入ったわ」
    「それは良かった」
    「答えって、この味?」
    「味っていうか匂いですかね。赤井は嫌いみたいだから」
    「シュウも食べたの?」
    「いえ、僕が食べていた時にたまたま会話しただけです。奇妙な匂いだと嫌そうな顔されました」
    「確かにこれは忘れられない匂いね」
    「赤井が忘れてなくて助かりました」
     さもなくば降谷は今頃殺されている。最後の晩餐は黒あめだ。
     降谷も黒あめを口に放り込む。
     しかし思わぬところで交流を深めてしまった。日本警察とFBIが正式に手を組んでから三年目、ここまで和気あいあいとした雰囲気になったのは初めてのことだ。降谷と赤井の因縁が根を張り、最初は歪みだらけだった。それを執り成すのが降谷の役割で、降谷自身が蒔いた種とはいえ中々の重労働であった。
     ありがとう黒あめ。赤井秀一の災厄を砕いただけのことはある。
     ふと赤井のほうを見ると赤井の姿は消えていた。
     だからなんで不機嫌なんだあいつは。赤井秀一は案外と大人げない。まさかキスを手段にしたことが原因と言われたら、そこは降谷だって別に好き好んでした訳でもないし苦肉の策だったのだから許容して欲しい。
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