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    yu_ku__mi

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    yu_ku__mi

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    ヌが自慰するだけです カプ要素なし

    しんでしまうほど私は、死を体験したことがない。死、という一度体験したら最後の状態を、したことがあるかないかで物を言うのはおかしいと承知の上で言っている。
    最近、フォンテーヌの若者の流行り言葉で『死ぬほど』と言う表現をよく耳にする。この『死ぬほど』と言うのは『とても』や『非常に』などの言葉と同じ使われ方をするらしい。例文を一つ挙げるとしたら『このスープは死ぬほど美味しい』だろうか。死、と言う現象とは未だ程遠い若者が、この表現を好んで使うのは些か疑問であった。もっと良い表現があったのではないか、と。そして、私はこの疑問を今日まで胸に抱いてきた。

    ——————

    持ち帰ってきた資料を机に並べて、一枚ずつ目を通そうと試みるも失敗に終わってしまった。これで四回目である。文字の一つ一つが紙の上で踊っていて、気が散って仕方がない。これらは明日までに目を通しておかなければならないのに。原因は、順当に挙げれば風邪だろう。体が熱を帯びていて、頭の中がぼうっとし、まるで雲の上のいるかのような夢見心地な気分。自分の身に起きている異常を改めて一通り並べ、これはまずいかもしれないな、とやっと危機感を覚えた。踊る文字たちと五回戦目に入ろうとしたところで、これ以上格闘しても勝ち目がないことを悟り、簡単に机の端にまとめる。それから、無駄に広いベッドに身を投げるようにして腰掛けた。背中を倒すと、昼間の疲れがどっと波のように押し寄せてきて、身体中に碇がつけられたようだった。資料は朝早く目を通せば良いことだ。睡魔に身を任せてこのまま寝てしまおう。瞼の裏の闇夜は酷く落ち着いた。

    ——————
     
    私の体は人間と違ってそう柔なものではない。だからこそ、一晩寝れば明日の朝には全快すると思っていた。なんせ、今までがそうだったのだから。身に篭った熱を逃したくて、ベッドの上で胎児のように身を捩った。
     
    「は、あ……」
     
    一体何回目か分からない深呼吸をする。熱を治めるためにしているはずなのに、悪化しているような気がしてならない。あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか。寝ると決めて瞼を閉じてからと言うもの、一睡もできていない。睡魔は確かにあるのだが、それよりも熱による不快感が圧倒的に上回った。このまま目を閉じてじっとしているだけでは埒が明かないことはわかっている。だからと言って他に対処法があるわけでもなく。どうしようもなくベッドの上でただ胎児のようにもがくことしかできない。熱くて熱くて仕方がなかった。自分の熱を吸収してしまったシーツから逃げるようにして寝返りを打つ。

    一瞬、体の熱がスッと引く。薄い寝巻とシーツとの間で、ごり、と頭の中で音がしたのが引き金だったと思う。その擬音が今の状況を表すのに一番適していると思った。それと同時に、そんなまさか、と信じられない気持ちが湧き上がってくる。目を開くと、自身の腹の向こうに予想通りの光景が広がっていた。これでは、認めざるを得ないではないか。
    フォンテーヌの誇る最高審判官が性欲をコントロールできず、夜な夜なベッドの上でもがいているなんて国民が知ったらどう思うだろうか。私だったら、まず滑稽だと鼻で笑うだろう。だとしても、この熱を冷ますことができるのならば背に腹は変えられない。あまりのやるせなさに体も限界が近かった。既に私の頭は熱に浮かされて、茹だれて、おかしくなっていたのだろう。本能に従うまま、右手を下に伸ばした。
     
    自慰行為の存在意義やそれがもたらす効果などについては医学的知識としてあったが、自身の欲を満たす目的のための自慰は知らなかった。なぜなら、今までは必要がなかったからである。だからこそ手を伸ばしたは良いものの戸惑ってしまうかと思われたが、そんなことはなかった。伸ばした右手に迷いはなく、服の上から形をなぞるようにして愛撫する。爪で掻いたり、手のひらで捏ねてみたり。誰かに教わったわけでもないのに手が勝手に動く。つくづく生物の本能とはよくできたものだと感心する。
     
    「んっ、ぅ」
     
    自分の口から漏れ出る甘ったるい嬌声に思わず胸が跳ねる。自分のことであるのに知らないと言うのは、やはり良い気がしない。無意識に緩んだ口をつぐむ。
    しばらく愛撫を続けていると下半身が更に窮屈になるのを感じた。肌と肌とを隔てる布がもどかしい。一刻も早く熱を吐き出したくて、一枚、また一枚と布を剥ぐ。その時間さえもが惜しかった。体が絶えず刺激を求めている。手を加えるよりも先に、べちん、とすっかり勃ち上がったそれが腹に打ちつけた。顔が熱くなるのがわかった。それに対抗するかのように夜の澄んだ空気が身を襲う。恐る恐る再びそれを掴むと、今までとは比べ物にならない刺激に腰が引けた。これ以上進んでしまったら私はどうなるのだろう。あれほど待ち望んだはずの快楽に底知れない恐怖が迫り上がる。だが、恐怖と言う感情は馬鹿になってしまった頭には通用しない。馬鹿は恐怖心さえも好奇心に塗り替えてしまうものだ。今の私は馬鹿同然の存在だった。
     
    掴んだそれを優しく上下に擦ると、言葉にならない声がうわ言のようにひっきりなしに漏れた。緩み切った口を結び直す気力は残されていない。あれほど不快だった自分の声はさほど気にならなかった。
    はくはくと肩で息をしながら、布越しとは全く持って違う快楽に頭が蕩けそうになる。例えるならば、延々とぬるま湯に浸かっている感覚。これが生き地獄というやつか、と僅かに残された理性の中で思う。本能だけがどうすれば良いかを知っている。知識も経験も浅い私は、ただ従う他に道は残されていない。
     
    強く、早く。くちゅくちゅと鳴り響く下品な水音がより背徳感と扇情を煽る。何事も度が過ぎると苦痛へと変貌を遂げるもので、絶えず注がれる快楽に赤ん坊のように足を忙しなく動かして耐え凌ぐ。目を瞑って快楽を拾うことだけに集中する。段々と自然に腰が浮いて足が伸びてきて、己の限界が近いことを察した。あと、少し。慣れない動作に腕がじんじんと痛む。それでも手は緩めずに一定の強さと早さで続ける。
     
    「ぁ、?」
     
    なにかがくる。
    何も考えられない頭で、本能が『手を緩めるな』とだけ命令を下す。今の私にはそれだけが頼りだった。
     
    「——っ」
     
    何が、起きた。頭が真っ白になって、目の前がぱちぱちと弾ける。
    つま先が糸を張ったようにピンと伸びて、矢継ぎに手の中のそれが腹を汚す。臍の辺りが熱い。熱くて、なんと言えば良いのだろうか。この状況を表すのに適した言葉が見つからなかった。いや、一つだけ、あったな。

    私は、死を体験したことがない。死、という一度体験したら最後の状態を、したことがあるかないかで物を言うのはおかしいと承知の上で言っている。
    最近、フォンテーヌの若者の流行り言葉で『死ぬほど』と言う表現をよく耳にする。この『死ぬほど』と言うのは『とても』や『非常に』などの言葉と同じ使われ方をするらしい。例文を一つ挙げるとしたら『このスープは死ぬほど美味しい』だろうか。死、と言う現象とは未だ程遠い若者が、この表現を好んで使うのは些か疑問であった。もっと良い表現があったのではないか、と。そして、私はこの疑問を今日まで胸に抱いてきた。だが、今ならわかる。

    「……しぬほど、きもちいい」
     
    ——————
     
    無意識に止めていた息をゆっくりと吐く。喉は砂漠のように乾いていたが、潤せるものがなかったので仕方なく唾を飲み下した。
    実にあっけないな。それが酷く冴えた頭でしばらく天井を見つめてやっと出した感想だった。あれだけ私を苦しませた熱があの一瞬で解消してしまったのだから。名残惜しさすら抱えたままやっと体を起こすと、汗で額に張り付いていた髪がパラパラと落ちた。入浴は済ませたはずなのに、まるで運動後のように全身が汗だくだった。本当はもう一度汗を流してから寝た方がいいのだろうが、そんな体力はどこにも残っていない。このまま寝たら今度こそ本当に風邪を引いてしまいそうだ。風邪を引いたら本末転倒なので、後処理をしたらすぐ寝てしまおう。
    こほ、と不意に喉の渇きからか咳が込み上げた。その場凌ぎでもう一度唾を飲み下す。喉はまだ乾いたままだ。
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    yu_ku__mi

    DONEヌが自慰するだけです カプ要素なし
    しんでしまうほど私は、死を体験したことがない。死、という一度体験したら最後の状態を、したことがあるかないかで物を言うのはおかしいと承知の上で言っている。
    最近、フォンテーヌの若者の流行り言葉で『死ぬほど』と言う表現をよく耳にする。この『死ぬほど』と言うのは『とても』や『非常に』などの言葉と同じ使われ方をするらしい。例文を一つ挙げるとしたら『このスープは死ぬほど美味しい』だろうか。死、と言う現象とは未だ程遠い若者が、この表現を好んで使うのは些か疑問であった。もっと良い表現があったのではないか、と。そして、私はこの疑問を今日まで胸に抱いてきた。

    ——————

    持ち帰ってきた資料を机に並べて、一枚ずつ目を通そうと試みるも失敗に終わってしまった。これで四回目である。文字の一つ一つが紙の上で踊っていて、気が散って仕方がない。これらは明日までに目を通しておかなければならないのに。原因は、順当に挙げれば風邪だろう。体が熱を帯びていて、頭の中がぼうっとし、まるで雲の上のいるかのような夢見心地な気分。自分の身に起きている異常を改めて一通り並べ、これはまずいかもしれないな、とやっと危機感を覚えた。踊る文字たちと五回戦目に入ろうとしたところで、これ以上格闘しても勝ち目がないことを悟り、簡単に机の端にまとめる。それから、無駄に広いベッドに身を投げるようにして腰掛けた。背中を倒すと、昼間の疲れがどっと波のように押し寄せてきて、身体中に碇がつけられたようだった。資料は朝早く目を通せば良いことだ。睡魔に身を任せてこのまま寝てしまおう。瞼の裏の闇夜は酷く落ち着いた。
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