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    まぎー

    アリーナ 
    9割成人向け

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    POIPOI 57

    まぎー

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    本編前軸のハロウィン
    片恋時代
    リハビリで書きました

    お付き合い後のハロウィン→ https://poipiku.com/7997101/10964418.html

    Under his spellユダがジーザスとハロウィンに喧嘩をしたのは、2年程前のことだっただろうか。

    ちょうど、使徒達以外の信者がそれなりに増えてきた頃だったように思う。月末の恒例の炊き出しがハロウィンと重なるからと言って、ついでに皆で仮装をしようなどと浮かれた案が通ったことにユダは苛立ちを覚えていた。信者や使徒達にジーザスがあっさりと乗せられたことが、気に食わなかった。渋るユダの意見にジーザスがあまり耳を傾けなかったことも、尚更面白くなかったのだ。そして話し合いが終わり解散した後、何故こんなくだらない事に了承したのだと、ユダはジーザスに詰め寄ってしまったのだった。ジーザスは、少し困った顔でユダを見た。

    「たまには良いと思うよ。それに、いつも子供たちがたくさん来るじゃない?楽しんでもらえると思って…」

    ユダはジーザスの言葉を遮って、口早に反論を始めた。

    炊き出しは楽しい行事なんかじゃない、ガキが浮かれて怪我人でも出たらどうするんだ、あんた責任が取れるのか?

    ジーザスの眉間に皺が寄るのを見つめながら、ユダは流石に言い過ぎだと自分でも分かっていた。使徒が少し仮装をして、菓子をおまけ程度に配ることなど、何でもないことくらい分かっているはずだった。それでも、ユダは何故かどうしても自分を抑えることが出来なかった。

    ユダが喋り終わると、ジーザスは黙ってユダを見つめるだけだった。普段は穏やかな彼の顔が、険しい表情を浮かべるとまるで別人だった。ほとんど睨むような視線に、ユダは胸が苦しくなるのを感じる。ジーザスはしばらく黙っていたかと思うと、ふいに目を伏せて口を開いた。

    「ユダって、たまに私の話全然聞いてないよね」

    ぽつりとジーザスはそう言った。小さくとも、しっかりと通る声だった。ジーザスの思わぬ言葉に、少しがっかりしたような声色に、ユダは何も言えなくなる。

    「人はパンのみによって生きるのではないって、つい昨日話したばかりだよね?もちろん、皆お腹いっぱいになってもらうことが私だって何より大事だよ。でも、私たちの元へ来てくれる人たちは、心だって飢えているんだ」

    ジーザスは一瞬顔を上げて、ユダと目を合わせた。ユダの頭に、先の見えない生活に疲れた人たちの表情が過ぎる。ジーザスが一瞬何かを迷うような顔をしてから、言葉を続ける。

    「それに、私は、ユダとも…」

    だが、ジーザスはそこで口を閉じてしまった。ため息をつき、再び俯いてしまう。

    「何でもない」

    もう良い、とでも言うようにジーザスが頭を軽く左右に振る。ユダは、拳をきつく握りしめた。まるで見放されたようで、胸が勝手にちくちくと痛んでしょうがなかった。ジーザスは目を合わせないまま、ユダに背を向けた。少し、肩を落としているようにも見える気がした。

    「別に、仮装とかは強制じゃないから。いつも通りの業務はよろしくね」

    ジーザスはそう告げると、ユダを一度も振り返らないまま歩み去るのだった。



    ハロウィン当日。

    人々の波が落ち着いた頃、ユダは施設の外に出て縁石に一人座っていた。つい先ほど、狼男の仮装はどうだと持ちかけてくるピーターを睨み、狼が嫌なら兎はどうだとカチューシャを手に揶揄ってくるサイモンを無視した後だった。ピーターは頭に包帯を巻き、サイモンは本格的な髑髏の化粧を顔の上半分に施していた。髑髏だったならやっても良かったなと思わず考えてしまい、ユダは自分に呆れてしまった。

    ジーザスとは朝に皆で一緒に到着して以来、一度も顔を合わせていなかった。皆仮装や飾り付けの準備を始めると、ユダはいつもの業務に1人で取り掛かった。その後もなるべく裏方に徹したので、人々の前に出ずっぱりのジーザスとは自然と顔を合わせなかったのだ。その日ジーザスたちは、その場で食べられる物の他に凡ゆる保存食品などを多く配っていた。外の広場で実際に手渡す業務は他の使徒に任せ、ユダはずっと建物の中で1人でひたすら在庫の管理をしていたのだった。時折外に出て少なくなった物を確認していると、ふとスピーチをするようなジーザスの声が何処からか聞こえてくることもあったが、ユダは頑なに顔を上げようとしなかった。



    「ユダ、機嫌悪いなぁ。狼男ならやってくれるかもと思ったんだけど」
    「知らねぇの?あいつ、この間ジーザスと喧嘩したんだよ」
    「ああ…」

    どうりで、と納得するようなピーターとサイモンの小さな話し声に、ユダは怒る気にもなれなかった。吸っていた煙草を揉み消しながら、芝生に屯する人々を眺めた。子供たちは楽しそうだった。何人かは、ピーターが用意したハロウィンのシールを頬に貼っていた。いつもの賞味期限間近の缶詰と、心ばかりの菓子を嬉しそうに抱えて走り回っている。母親たちは、ほっとしたような顔でそんな子供たちを見つめていた。

    ユダは、自分の子供時代のことを思い返した。年間行事に参加するなど、果たして何度あっただろうか?いつだって他の家庭が楽しそうに何かしているのを、自分には関係ないものとして横目で見ているだけだった。もし自分が子供のときにこんな機会があったならば、ユダはどう感じただろう。多少は気晴らしになったかもしれないな、とユダは思った。

    ユダはため息をついた。自分が馬鹿みたいだと、とっくに気が付いていた。分かっていたのだ。ユダはただ、ジーザスに自分の話をもう少し聞いて欲しかっただけだった。あの時、いつもよりやる事が増えたら業務の分担はどうするのだと、ユダは懸念事項を伝えたかった。だが浮かれた様子のジーザスは、そんなユダにほとんど気が付かない様子だった。後からジーザスにきちんと相談すれば良いだけの話だったのに、ユダはそうしなかった。ジーザスが自分の意見にまともに耳を傾けてくれなかったことに、何よりも苛立ってしまっていただけなのだ。ユダは今、そのことを痛いくらいに理解していた。


    その時、靴が砂利を踏む音が、すぐ近くに聞こえた。

    「ユダ」

    聞き覚えのある声に、ユダは体を固くした。優しげな声色に勇気付けられて、一呼吸置いて顔を上げる。と同時に、ユダは息を止めた。

    ジーザスは、大した仮装はしていなかった。たまにするように髪を括り、いつもの格好に黒いマントを纏っていただけだった。だが普段よりもきつくひっつめてあり、額がほとんど出ていて、いつもは隠れている顎のラインもはっきりと見えた。骨ばった顔の輪郭がよく見えると、いつものどこか幼い印象が消えてしまったかのようだった。どこか憂えげな表情で見つめられると、益々どきまぎとする。仮装は、一応吸血鬼のつもりなのだろう。長いマントはジーザスの男らしい体躯をよく引き立てていたが、よく見るとペラペラの安物のひどい代物だった。

    それでもひどく男前に見えると、ユダはそう思うのだった。

    しばらく、黙って見つめ合った。ジーザスの物思わしげな表情が、不安げになっていく。仲直りをしたくてたまらないというように、ユダを見つめる。その顔を見ていると、ユダは何もかもがどうでも良くなってしまった。

    「よう」

    そう声をかけると、ジーザスはほっとしたような、柔らかな表情に戻る。それが、ユダは嬉しいと思った。

    「どうかな」

    ジーザスはそう尋ねながらマントを両手で少し広げ、はにかみながら自分の姿を見下ろした。

    「…良いんじゃねぇの」

    何とかそう答えると、ジーザスがユダの目を見てにこりとする。ユダは咄嗟に地面を見つめ、唾を飲み込んでからもう一度口を開いた。

    「男前だよ」

    小声でそう言った瞬間、血が一瞬で頭まで昇るのが自分でも分かるかのようだった。耐えきれずに、ジーザスと反対の方向に顔を向ける。その直前に、ジーザスの顔が少し驚くような表情になったのを、目の端で捉えた気がした。

    「ありがとう」

    ジーザスがどこかふわふわとした声でそう言うと、ユダの隣に歩み寄り、隣に腰を下ろした。マントが軽く風を起こし、ジーザスの香りがユダの鼻を掠める。悪かった、という言葉をユダがどうにか絞り出そうとしていると、ジーザスが先に口を開いた。

    「いつもより働いてもらっちゃったね。おかげでスムーズに進められたよ。ありがとう」

    結局、ユダは何も言えなかった。謝りたいユダの気持ちは、とっくに受け入れられてしまったようだった。ユダも、ジーザスに謝って欲しいなどとは少しも思わなかった。

    「あの。良かったらなんだけど」

    ジーザスがマントで隠れていた手で何かを取り出す。

    「これ。ユダにどうかなと思って」

    おずおずと差し出されたジーザスの手には、悪魔の角のカチューシャが握られていた。あんたもかよ、とユダは内心思った。表情に出ていたのか、ジーザスが少し恥ずかしそうにする。

    「ごめんね。せめて皆と楽しい思い出作っておきたくて…。僕の我儘なんだけど」

    ユダは戸惑った。何かの言い間違いなのだろうか、そのうち別れでも来るかのような口ぶりが妙に引っかかる。それに、気を取られてしまっていたからだろうか。「付けて良い?」と尋ねられ、ユダはつい頭を縦に振ってしまっていたらしかった。

    次の瞬間には、ジーザスの顔がすぐ目の前にあった。ジーザスの手が、ユダの頭の両側に触れる。カチューシャを被せられ、真剣な顔で髪を何度か触って整えられる。手が離れていく時、ジーザスの指先がユダの熱い耳を一瞬掠めた。

    身体を少し離してユダをしばし見つめると、ジーザスは満足そうに微笑んだ。

    「格好良い!似合うと思ったんだ」

    ユダが先ほど自分を奮い立たせた時とは対照的に、ジーザスは事もなげに褒めてみせてしまう。ジーザスは、今度は携帯を取り出した。

    「一緒に写真撮ろうよ」

    ユダはもう訳が分からなくなって、半ばヤケクソで頭を縦に振った。ジーザスが嬉しそうにユダと肩を並べる。内側に向けた携帯の画面に、ジーザスが満面の笑みを向ける。腕と腕とが軽く触れたかと思うと、シャッターが切られる音がした。ジーザスはすぐに携帯の画面を見つめて何やら操作すると、満足そうに顔を上げた。

    「ありがとう。また打ち上げでね、ユダ」

    そうしてジーザスは立ってしまうと、他の使徒達の元へと行くためにユダから離れたのだった。

    一人取り残されたユダは、しばらくぼんやりとジーザスの後ろ姿を見送った。他の使徒達とも、個別に写真を撮り始める彼をしばらく眺める。やがてユダはカチューシャを取りながら、自分の携帯を取り出した。

    ジーザスが、先ほどの写真を送ってくれていた。写真を開き、思わずため息をつく。ジーザスはいつも通りの輝かんばかりの表情だったが、ユダは嫌になるくらい強張ったような可笑しな顔をしていた。ユダは、すぐに携帯をしまった。

    使徒の一人が、皆を労いながら酒を配り始めた。それを遠くから見たジーザスが、ひとつだけだよ、残りは帰ってからね、と苦笑している。ユダの手にも、ひんやりと冷たいビール缶が握らされた。

    ユダは缶を開け、苦い液体を煽った。

    体温が上がると、肩に残ったジーザスの体温がより強く感じられる気がした。深く息を吸い込むと、彼の微かな残り香が鼻を掠める。ユダはそれらにも、煩い己の心臓の音にさえも、いつものように気が付かないふりをするのだった。


    尚、翌日SNSをチェックすると、夜酔っ払って壁に寄りかかり眠るユダを背景にサイモンと使徒たちが自撮りを撮っており、ユダの頭には兎の耳のカチューシャが被せられていた。
    サイモンの肩を本気で殴った。
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