始まりは、きっと 静謐な月夜のことだった。
朝から降り続いた雪がようやく止み、辺り一面の白亜を澄んだ青硝子のような夜の色が覆っていた。
吐く息は白く、まろい頰に寒気が容赦なく突き刺さる。耳当てをしていても尚、耳の奥が冷たい。行く宛などなかったが、どうにも腹の中にある澱ようなものが絶えず小さな心を揺らしてざわつかせるため、やむなく歩き続けていた。まだそう大きくもないブーツに包まれた足が少しずつ疲労で重たくなっていくのを不安と共に押し殺して。
迎えはこないだろう。家には自分と全く同じ姿をしたものが、今も姉たちのわがままに付き合っているはずだから。
魔法を使えない二人の姉が、魔法の使える自分を良いように使おうとするのが、ケイトは歳を重ねるごとに面白くなくなっていった。エレメンタリースクールに通う頃になり、多くの同級生ができるとその傾向は顕著になった。今日だって、ケイトには関係のない悪戯の後始末を押し付けられて問答していたところを同級生のハンスに見られて揶揄われた。この歳まで姉とベタベタしているのは変だと、そう主張したいらしい。大方ハンスの好きな女の子がケイトの髪型を褒めているのを僻んだことによる言いがかりなのだろう。その女の子だって、どうせ転校生のケイトが珍しいだけなのだろうけど。
65026