クレープの日 2024 黄、赤、白、黒、緑。色とりどりの甘いものを薄い生地で包み込めば、手軽に食べられるお菓子が出来上がる。
フロイドが言い出した「クレープ食べたい」という言葉を発端に、オクタヴィネル寮で開催されたクレープパーティー。作って食べて、食べて作って。笑って騒いで舌を休ませ、そうして賑わうモストロ・ラウンジの客用テーブル。キッチンとのアクセスが楽だからと使用許可を得てのことだ。代わりに、参加者には簡素でもクレープの感想提出を言い渡されていた。そのため「種類を食べられるように」とクレープ自体は少し大きなひと口サイズに留められている。
「オレこのフルーツ初めて食べたけど結構いけるかも」
「よかったですね」
クレープ片手に呟いたフロイドに、隣のジェイドが相槌を打つ。クレープを口に含んだまま喋ったのでもごもごとしていた口内を紅茶で流すことで空にする。そうしてまたひと口。
「ふふ。本当に気に入ったようで」
「ん。スゲー好きってほどでもないけど」
ところで、とフロイドがジェイドの手元を見やる。
「ジェイドはさっきから何食ってんの?」
「これはツナマヨサラダです」
「このラインナップでおかずクレープ……?」
「いけませんか? 美味しいですよ」
「いや、いいけどさ」
最後のひと口を含んだジェイドの口元から、新鮮野菜のシャキシャキとした咀嚼音が響いてきた。
何の問題もない、ないのだが……どうにも腑に落ちない。フロイドは釈然としないまま、何種類目かの甘ったるいクレープを口に運んだ。視線に少しの羨ましさを宿しながら。