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    ando_mha

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    ando_mha

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    黒研+兎赤 前提 研磨+赤葦

    ただ一人を愛する人「あかあしがお気に入りって言うお店、ハズれないね」
    「口にあって何より。……でも本当に良かったの? 俺とで」
    「なんで?」
    「いや、だってさ、折角の誕生日だし。遠出だし。黒尾さんと一緒じゃなくて良いの?」
    「クロとは別に……誕生日じゃなくても一緒にいるし……」
    「そうだろうけど」
     幼馴染の関係性はよくわからない。出会ってから数十年経った今でも変わらないな、と思う。自分であれば、一番大切だと思っている人とこそ、誕生日は過ごしたい。去年そう孤爪に伝えたら「俺はあかあしの事も大切だよ」なんて言われて大層照れた記憶があるから、絶対に口にはしないけど。
     「今日は誕生日だからあかあしのお気に入りのお店を教えて」と、突然言われたのは大学四年生の頃だった。すでに会社の経営を行いながら、プロのゲーマー兼ユーチューバーとして活躍していた孤爪と、早くからの就職活動が功を奏し、無事希望の出版社に内定をもらった俺。時間を捻出するのが比較的容易なタイミングだったから、アポなし連絡でも特段大きな問題が起ることもなく、至って平和的に二人だけの誕生日会が成立したのだ。
     その経験が、どうやらこの社長様はいたくお気に召したらしく。急遽予約したバースデープランで出されたお洒落なワンプレートデザートを頬張りながら、「これからは毎年、おれの誕生日祝ってよ」とおねだりされたのだ。
     いやいや、恋人でもないんだし。そう思ったのも事実だが、案外、その会が俺にとっても楽しいものだったので。ついつい頷いたのが運の尽き。
     以降、毎年律儀に「今年はどこで祝ってくれるの」と、十月に入るたびにおねだりの連絡が来るようになったのだ。
     編集者という職業柄、流石に当日に休むことができない時もあった。繁忙期が被る時もあれば、取材で遠出しなければいけない時もあった。それでも誕生日会を続けたのは、孤爪と会うことで、あの人生で最も輝いていた青春時代をしみじみと思い出すことができたからだ。他校とはいえ、ライバル校であり、同じグループで合同練習をした、仲間。その中でも、同い年の正セッターという共通点は、俺たちの仲を無意識下でグッと近づけていたのだろう。勿論、孤爪の得体のしれなさに恐怖した時もあったけれど。それはもう過去のお話だ。
     部活を引退したら切れてしまう仲。そんな関係にならなかったのはひとえに、俺も孤爪も、さらにもう一つの共通点があったから。秘密を共有していたから。
     あの頃は得体の知れない化け物じみた男も、今では、ただ一人の人を愛する人にしか見えてない。
    「あ、クロからだ」
     孤爪が男とは思えないほど細い手首に巻いた腕時計を見ながら笑う。液晶画面が搭載された、スマートフォンと連動するタイプの時計の画面いっぱいに、「クロ」という男の名前。
    「孤爪は俺と一緒で良くても、黒尾さんは孤爪と過ごしたかったんじゃない?」
    「しらない。クロにはそんなこと言われてないし」
     唇を尖らせながらも、ポチリと通話ボタンを押す。途端に繋がった電波は、鼓膜を破らんとする声を運んだ。
    「研磨ァ‼︎ 今どこ居んだ!」
    「クロうるさい……」
    「黒尾さん、お久しぶりです」
    「赤葦ィ‼︎ あぁ、も〜、今年もまぁた赤葦がうちの研磨をたぶらかしてたんですかァ⁉︎」
    「たぶらかされてないし。誕生日はあかあしと一緒に過ごすって、まえも言った」
    「でも今年は俺も休み取れたから一緒に過ごそうって声掛けてたダロ⁉︎」
    「べつに……昼間の時間くらい赤葦と一緒にいてもいいじゃん。どうせ家帰ったらクロと居るんだし」
    「そーだけど‼︎ そーだけどさぁ‼︎」
    「もー、クロうるさい。切るから」
    「あちょ、研磨ッ!」
     非情にもぶちんと切られた回線に、思わず溜息を吐く。前言撤回だ。俺はどうやら幼馴染がわからないんじゃなくて、孤爪のことがまだ分かってなかっただけらしい。黒尾さんはごく普通の感覚で、孤爪がちょっと、いやだいぶ変わっているだけだった。
    「やっぱり、今年は黒尾さんと過ごした方がよかったんじゃない?」
    「……」
     モゴモゴと口を動かして、孤爪が視線を逸らす。バツの悪そうな顔。図星なのだろう。
    「ね、早く帰ってあげれば」
     そっと言えば、孤爪がまたモゴ、と口を動かす。けれど、やはり言葉になることはなく、ただ二人の間には沈黙が落ちる。
     ヴー、ヴー、と、今度は俺のポケットでスマホがバイブした。嫌な予感がして取り出せば、やはり。予感の通りだ。
    「黒尾さんから。出ていい?」
    「……やだ」
     孤爪は拗ねたように唇を尖らせると、はぁ、と小さく息をつく。瞬間。スマホが奪われた。
    「うぉい赤葦! 研磨に——」
    「もうクロ、しつこい」
     そう一言だけ告げると即座に通話が切られる。それから、俺にスマホを寄越す瞬間。ちらり、とこちらを見上げた孤爪に息を呑んだのは俺だった。
    「……どんな顔で、クロに祝われればいいか、わかんないだけ、だから」
     巻き込んでごめんね。耳だけを赤く染めた孤爪が、恋をするような顔でそう言うと、踵を返した。
    「ちょ、孤爪!」
    「かえる。またね、あかあし」
    「あ、ああ、うん。また」
     ひらり。手を小さく振ると、そのまま孤爪は人の波に消えていく。
     その小さな背を見送りながら、ふと、合点した。あぁ、そう言えば。
     そう言えば、あの二人は、去年の今頃、ようやく互いの関係性を進展させたのだった。
     幼馴染としてではなく、恋人として初めて迎える誕生日というイベント。それに、孤爪は困惑していたのかも知れない。
     そう思うと、自然と笑みが溢れる。あぁ、なんだ。
     踵を返す。この後組んでいた予定は全てオジャンだけど、なんだか清々しいような、ほんわか暖かいような気持ちだった。
     おもむろに、スマホを弄った。相変わらず通知を続けていた相手には「想い人はそちらに向かいました」とだけ返して、別の連絡先を呼び出した。
     あぁ、なんだか無性に、あの人に、会いたい。
     これを、人はアテられたというのだろうか。そんなことを思いながら、通話ボタンに指を伸ばすのだった。
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