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    case669

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    発掘した四章後の平和なカリジャミ

    ##カリジャミ

    どんどんがちゃ。
    「カリム、朝!」
    ばたん。

    「ふぇ……?」
    騒々しさに目を覚ましたカリムが漸く扉を見る頃には既に声の主はおらず、まるでずっと閉じられていたかのように静かな扉がそこにあった。
    ふあと込み上げる欠伸を零しながらのそのそと身を起こす。以前ならば気付かぬうちにカリムの部屋に訪れ、そっと優しく揺り起こしてくれたジャミルはもう居ない。あと五分、なんて甘えれば仕方ないなと溜息一つで待ってくれたジャミルも、今にも眠気に引き摺られそうに船を漕ぐカリムを着せ替え人形のように身を委ねているだけで着替えまでさせてくれるジャミルも、熱々の目覚めのチャイを用意してくれるジャミルも居ない。
    けれどそれが悲しいとは思わなかった。むしろ嫌いだと言いながらもなんだかんだこうして最低限の世話を焼いてくれるジャミルは優しいなあと頬が緩んでしまう。
    本当はもうひと眠りしたい所だが、起こしてくれるジャミルが居なければきっと朝食も食べ損ねるし学校にも遅刻してしまう。以前、確り寝坊した時、慌てて駆け込んだ学校で見かけたジャミルの「ざまあみろ」と言わんばかりの冷え冷えとした笑顔はもう一度見たい気もするが、それよりも一人でも大丈夫だという所を見せつけてやりたい。
    ぐぐっと思い切り天井に向けて両手を伸ばして伸びをしてから、よし、と気合いを入れてベッドを降りる。まずは顔を洗って確り目を覚まさなければならない。

    四苦八苦しながらもなんとか身支度を済ませて向かった食堂は既に食事を初めている者が多く、賑やかになっていた。四方八方から投げかけられる朝の挨拶に笑顔で答えながら一人離れた所に座るジャミルへと近づき、目の前へと座る。
    「おはようジャミル」
    「おはよう」
    こちらを一切見ずに投げられる声は素っ気ないが、言えば応えてくれるし、カリムの座った席にはちゃんとカリムの分の朝食が並べられている。それが嬉しくて思わず顔を緩めながら食事に手を付ける。ジャミルは既に食べ終わったようで暇そうにスマホを弄っている癖に移動する気配は無いようだった。
    「今日は朝練無いのか?」
    「明日まで照明の点検交換とかで体育館使用禁止」
    「へへっ、それじゃあ今日は一緒に登校出来るな!」
    以前は朝練があっても一度カリムを迎えに寮に戻り、改めて一緒に登校してくれていたジャミルが一切迎えに来なくなってしまったから寂しかったのだ。嬉しくて頬が緩みっぱなしのカリムとは対照的にジャミルは初めてカリムを見て、心底呆れたような、可哀想な物を見るような眼をしてから深い深い、それはもう深い溜息を吐きだした。
    「ほんっと、お前……」
    何のことだかわからずにただぽかんとジャミルを見て居たら、じっとりとした目がこちらへと向けらる。検分するような、思案するような、口をへの字にしたジャミルの顔なんて今まであまり見た事無い。物珍しさにまじまじと見つめ返していると、やがてもう一度短く溜息を吐きだしたジャミルが時計へと視線を逸らす。
    「……八時に出る。その時間に「ちゃんと支度を終えて」玄関に居なかったら置いてく」
    「わかった!八時だな!」
    「あと三十分だ。急がないと間に合わないぞ」
    「っわ、本当か!?急がないと!」
    余り、急いで食べるのは慣れてない。だが出掛けるまでにやらなければならない事はたくさんある。食器を片付けて、部屋に戻って歯を磨いて、昨日きちんと用意した筈だがもう一度鞄の中身を確認して、最後にターバンを巻いてピアスをつけなければならない。今まではその殆どをジャミルがやってくれていたが、全て自分でやらなければならない。
    ひぃふう言いながらご飯を掻き込み始めたカリムの頭上で笑うような声が聞こえた。だが見上げた時には立ち上がったジャミルは意地の悪い笑みを浮かべているだけで優しさのかけらもなかった。そのまま、自分の食器をまとめて去って行ってしまう。
    「くっそー……」
    ジャミルの背中が遠い。だが絶対に追いついてやると決めた。前でも後ろでも上でも下でも無い。ジャミルの横に並んでやるのだとカリムは決めたのだ。口いっぱいに詰め込んだご飯をなんとかもぐもぐごくんと飲み下して、叫ぶ。
    「待ってろよジャミルー!!!!」


    なんだかんだと急いではみたものの、結局ギリギリの時間になってしまい寮内を走る。それを嗜めるジャミルももう居ない。そもそもジャミルがきちんと何から何までやってくれていた頃は、こんな走らなきゃいけないような状況は無かった。ひいひい言いながらなんとか玄関までたどり着くと、今まさに歩き出したばかりのジャミルの背中が見えて思わず飛びつく。
    「じゃみるー!!」
    「う、っわ……重っ……熱っ……」
    がっしり背中から腹に手を回して抱き締めた傍から容赦のない肘がぐいぐいtカリムに突き刺さる。でも此処で逃したら多分ジャミルはさっさと行ってしまう。せめて、息が整うまでは待って欲しい。ほんの十秒、いや三十秒でどうにかしてみせるから。
    「……っはー……とりあえず、待ってやるから離れろ。暑苦しい」
    また溜息。だが振り返ったジャミルの顔は意地悪な顔をしていなかったから、渋々、離す。
    「まだ支度に時間掛かってるな。ちゃんと昨日のうちに荷物は揃えたのか?」
    「揃えた……けど、今日の占星術の課題、机に置きっぱなしだったの忘れてて、慌てて戻って、それでやっと完璧!って思ったらターバンが解けちまって、だから慌てて巻き直して、」
    「……あー、いい、もういい、わかった、わかったから」
    「でも、ギリギリだったけど、間に合っただろ?」
    にっと口角を上げてやれば対照的にジャミルの口角がへの字に下がる。前まではただ同意してくれるだけだったのに、あまり見れなかった表情を見るのも、楽しい。
    「……それ、また解けるぞ。後ろ向け」
    ジャミルがまた溜息をついた。ジャミルの溜息の数を数えているだけでも一日楽しめてしまう気がする。言われるままにジャミルに背を向ければ少し滑り落ちているターバンが一度解かれ、魔法のようにするすると一発で綺麗に巻かれて行く。最後にサイドで結わかれ、礼を言う為に振り返ろうとしたら恐らく膝だろうか?何かが腿の裏に当たって振り返るのを阻止される。
    「ジャミルぅ……」
    「ちゃんと身支度をするときは鏡を見たか?襟がぐちゃぐちゃだ」
    そう言いながら少しひんやりした指先が首筋に触れ、変な挟まれ方をしていた襟を引っ張り出して形を整えて行く。今まで見れなかった顔も好きだが、やっぱり今までの優しいジャミルも好きだなあなんて、しみじみ思ってにこにこしているも、一度襟が離れた後、ジャミルからの応えが無い。許可なく振り返るのは怒られたからおとなしく待っているのに、言葉すらかけてくれない。
    「ジャミル?」
    呼びかけても、無言。何だろうか、この短時間に怒らせるような事をしただろうか。不安になって、恐る恐る振り返る。
    だが、思っていた場所にジャミルは居なかった。それよりもずっと向こう、登校する揃いの制服の背中の中に、見間違いようのない艶やかな黒髪がはるか遠くで揺れていた。
    置いてかれたのだと、気付いた時には走り出していた。今までジャミルは常にカリムの後ろにいて、追いかける事なんて初めての事だ。浮かれる足取りについ声も上擦る。
    「ジャミルー!!!待ってくれよー!!!!」
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    やなぎ くみこ

    DONE #かなすな_二時間の宴 「信じられない」
    カリジャミの子供、ジェレミーが出てきます(名前は某アニメでアラジンとジーニーをモチーフにしているキャラから拝借しました)
    ナチュラルに男体妊娠させてます
    信じられない アジーム家の当主、カリム•アルアジームの嫡男であるジェレミー•アルアジームに、母親はいない。


    「またジェレミー様が消えた!」
    「探せ探せ! きっと宝物庫にいるはずだ!」
     ジェレミーにとって家はダンジョンとほぼ同義だ。入り組んだ廊下、宝物の数々。そして執事や使用人はモンスターで、間違って鉢合ってしまえばその場で戦闘だ。大体彼らの方が達者で見つかれば即勉強部屋に戻されてしまったり、安全な場所に連れて行かれてしまうのでジェレミーは極力見つからないように息を潜め、足音を立てぬよう細心の注意を払って屋敷中を駆け巡る。
     奴らは目敏いが隠れることに関しては自分の方が上だと自負しているジェレミーは、今日も人の気配を察してサッと身を隠す。自分を探しているであろう相手が数歩右往左往する足音がジェレミーの耳を喜ばせた。暗闇の中で小さくなったまま「クププ」とほくそ笑み、そろそろ違う場所に移動しようかと脚を伸ばしたとき、被っていた壺がスポッとどこかへ行ってしまった。
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