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    case669

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    だだっ子なアデレイ

    ##アデレイ

    ジグナタス要塞の、宰相の部屋。
    レイヴスが数度のノックの後、返事を待たずに開けたその部屋の中に、宰相が落ちていた。
    「………」
    これが普通の人間相手ならば心配してやるべきところなのだろうが、相手はアーデンである。何を思って床の上に大の字になって転がっているのかは知らないが、ろくでもない事を考えているのだという事くらいは流石にレイヴスも身に染みて理解している。扉から机までの直線上に堂々と落ちているアーデンを踏みつけてやりたいのは山々だが、下手に突いて関わり合いにはなりたくないので投げ出された足の方から回り込んで机へとたどり着く。広げられたままの資料や書類をざっと見渡し、邪魔にはならずに目に着く場所を探して持って来た報告書をそっと置いた。本来ならば書面と共に口頭で概要をざっと説明する予定だったが、本人がこの状態なら諦めるのが吉だろう。将軍としての務めはこれで十分の筈だ。
    そうして踵を返そうとした右足が、動かなかった。思わずつんのめりそうになるのを辛うじて堪え、足元を見ればだらりと地面に寝転がったままレイヴスの右足を掴むアーデンの姿。
    「普通さあ、人が倒れてたら心配するもんじゃないのぉ?」
    口元は軽薄に笑みを浮かべているのに、声が低い。それだけで機嫌が悪いのだと察してしまう程に付き合いが長いのだと思うと溜息の一つも吐きたくなる。
    「……心配されたかったのか」
    「はあ?違うけど」
    なら文句を言うなと言いたくなるのを辛うじて飲み込む。右足を離してくれればすぐにでもこの場を去ってやりたい所だが、唇で笑みを象りながらも冷えた眼差しでじっとりとレイヴスを見上げるアーデンは動こうとする気配が無い。
    「用が無いのなら、帰りたいのだが」
    「用があって来たのは君だろう?」
    「床に落ちたゴミに用は無い」
    「ははっ!言うねえ」
    言いすぎた自覚はある。だが恐らく、もう何を言った所でどうにもならないのだろうという諦めも、ある。ならば我慢するだけ無駄だ。
    「一人だけ綺麗なつもりでいるなよ。お前はもう俺と同じなんだ」
    人ならざる力に引き摺られて無様に床に転がるレイヴスに、すかさずアーデンがのし掛かり、床に組み敷いていた。
    「早く、俺と同じになってよ」
    人ならざる義腕を撫でながらうっそりと嗤うアーデンにほんの少しの哀れみを覚えてしまい、誤魔化すようにレイヴスは目蓋を伏せた。
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    case669

    MEMOファレレオワンドロ
    【初めてのキス】【体温】
    国の代名詞でもある、燃え尽きる直前のような鮮やかな紅蓮に染まった王の寝室。空の色に負けない立派な鬣の海に眠る穏やかな顔。馬乗りになった身体は、まだ暖かかった。
    こんなにも穏やかな気持ちで兄の顔を見るのはいつぶりだろうか。
    秀でた額から、意思の強さをうかがわせる太い眉を撫で、堀の深い鼻梁を通って唇へと指先が触れる。まだ柔らかい。この唇がたくさんの言葉を紡ぐのを聞いた。良いことも、悪いことも、此処から溢れだした音はいつだってレオナの心を乱した。それも、もう二度と聞くことは無い。
    その唇よりも雄弁だった兄の二つの瞳は今や目蓋の向こうに封じられた。二度とレオナを映すことはない。レオナ以外を映すこともない。最期にレオナだけを焼き付けて伏せられた目蓋に、自然と唇を寄せていた。二度と開くことが無いようにと、子供騙しのようなおまじない。ちぅと微かな音を立てて啄み、離れてもその目蓋は伏せられたままで、そういえばこの男は死んだのだなと何処か他人事のように思う。この距離にレオナが在るのに、ただ静かに動かないままの兄が少しだけ慣れなくて、少しだけおかしかった。
    兄は、死んだ。レオナが殺した。
    きっと今頃、兄の 1510