自宅の扉の前に人影があった。一瞬警戒したが、すぐに解いて歩き出す。なぜなら、そこに居たのは同僚のフランツだったからだ。こちらに気づくとフランツは満面の笑みで手を振ってきた。
「やっほーロゼロ。待ったヨ~」
こちらに近づきながらフランツは人懐っこく話しかけてくる。その言葉を無視してロゼロは自宅に帰ろうとするが、腕を引っ張られ阻止されてしまった。ロゼロは、わざとらしく大きくため息をつき口を開く。
「……何?……」
「あレレー?どうしたのォ?すっごい不機嫌だネェ」
「……別に、イツも通りだ」
「マたマた~ソンなこト言っちゃっテェ~」
フランツは、ロゼロの眉間に人差し指でグリグリと遠慮なく強く皺をほぐすように押し回す。ロゼロはフランツの手を乱暴に払いのけ、自分の家に入ろうとドアノブに手を伸ばすが、フランツに肩を組まれてしまい入ることができなかった。
「ねェ!ロゼロの家に入ってイイ?……僕、仕事終わりでヘトヘトでサァ……休ませテ!お願いッ!!」
「は?……嫌……」
「マぁ、イイじゃん!イイじゃん!というワケで入ろ~♪おじゃましマ~ス!」
「オい!……勝手に入るナ!……クソ……」
魔法で鍵を開け、強引に家に入っていくフランツを睨みながら、ロゼロは抵抗するだけ無駄だと思い仕方なく家に入れることを許した。
フランツが家に入った途端、部屋全体に甘く青臭い匂いが淀んでいた。部屋の中は、ところかまわず酒瓶や空き缶が転がっていて、空箱や袋が積み重なり小さい山になっており、壁際にあるソファーは唯一少し片付いているが、所々擦り切れていてスポンジ部分が見えていた。ソファーの近くにある机の上には、灰皿やボングが無造作に置いてあり、その周りに大量の吸い殻が散らばっている。床の足の踏み場を見つけるのが困難なほど散らかっていた。
あまりにも無残な部屋の状況に呆然としているフランツを他所に、ロゼロは散乱したゴミを器用に避けながら歩き始め、目的地のソファに到着すると座り煙草を吸い始めた。それを見たフランツは、ため息をついたあと自身を魔法で宙に浮かせロゼロの近くまで飛んで隣に座る。
「ンー……相変わらず汚いね……もっと掃除しようヨ~?」
「ウルさい、黙れ」
「ヒドいなぁ……でも病気にナッちゃうヨ?」
「……」
「……あれー?シカト??」
ロゼロはフランツを無視をして吸殻を灰皿に荒々しく押し付け、次の煙草を吸おうとライターを手に取った。よく見ると、ライターに血が少しこびり付いて汚れている。そのことに気が付いたロゼロは、服の裾で汚れを適当に拭き取った。
ロゼロは慣れた手つきで煙草に火をつけ煙を肺に入れ煙を吐き出す。もう一度、煙を吸い込もうとした瞬間、咥えていた煙草をフランツに奪い取られてしまった。すぐさま煙草を取り返そうとロゼロは暴言を吐きつつ手を伸ばそうとするが、顔面に煙草の煙をフランツに吹きかけられ邪魔をされてしまう。ケタケタと笑いながらフランツは、ロゼロの肩に腕を回し抱き寄せ耳元に顔を近づけ話しかけた。
「え?ナニ?聞こエないナ~?」
「クソ!近寄んナ……イつも、近いンだよオ前……」
「えェ~良いじゃん……怒らないデヨ~!」
フランツはロゼロの頬に指で何度も突きながら、反省など微塵も感じられない大きな声で話しかける。いつも、こんな調子でフランツは相手を馬鹿にして遊んでいるのだ。そう思うと余計に腹が立ってくる。だが、ここで挑発に乗ってしまうのは相手の思う壺だ。
「あ!ソウ言えば次の仕事はボクと組むらしイヨ!」
「ふーン……」
「え~反応薄いなぁ……ロゼロってさ……本当に僕のコト興味ナイよね」
「……ハッ……当たリ前だろ」
残念そうに聞いてくるフランツにロゼロは鼻で笑い突き放した。
「ふーン?……あんなに僕に殺されテルのにね……チョっとクラい反応は欲シイよね」
フランツは、つまらなさそうな様子で立ち上がり冷蔵庫に向かう。そして冷蔵庫から取り出したコーラを一気に飲み干した。フランツは空き缶をテーブルに置いたあと歩き出し、ロゼロの隣に勢いよく座るとソファが軋んで揺れた。