キラキラのおままごと 「僕はヴァッシュ。遠い星から来たんだ」
突然現れた小さくてふかふかのぬいぐるみは、胡散臭い笑顔でそう名乗った。
このぬいぐるみはトラブルメーカーだ。もちろん好きでトラブルを起こしてるわけじゃなくて、トラブルによく巻き込まれるだけ。
今朝もちょっと目を離しただけで、散歩していた大型犬にベロベロに舐められて情けない声を上げていた。あまりにもしょげていたから、きれいに洗って干してやったらふかふかに戻って喜んでいる。今日が晴れでよかった。
俺が植木鉢に水やりをしていたときには、手伝うと意気込んでいたヴァッシュがゼラニウムに埋もれていた。逆さまに刺さったままジタバタもがいてるヴァッシュは間抜けでちょっと可愛かったから、ついしばらく眺めてしまった。本人には内緒。ヴァッシュの存在は家族であるレムやテスラにも話してないから、これは俺だけの秘密だ。
「ヴァッシュ、買い物に行くぞ。欲しい本がある」
「いいけどナイ、宿題は終わった?」
「あれくらいすぐ終わるよ。それよりお前の探し物、探さないとだろ」
「それはそうなんだけど……きみは優秀だし宿題をすぐに終わらせられるのもわかる。でもきみの生活も大事なんだよ」
「わかってる。パトロールに出発!」
「ほんとに聞いてたのか!?ナイ~~!」
ヴァッシュを抱えて走り出す。なにかと保護者ヅラをしたがるぬいぐるみは、まだ何か言いたそうだったけど最後には苦笑していた。
夕焼けであたりが赤く染まるまで、二人で歩き回った。
僕はぬいぐるみだから食事はしない。そう言う割にはパスタをくるくる巻き付ける俺の手元をじっと見てくる。本当は食べることができて食い意地が張ってるタイプなんじゃないかと疑ってる。こんなに見つめられるとそのうち皿に穴が開くかもしれない。
フォークを口に運んで咀嚼してるとやっぱり視線を感じて正面の犯人を盗み見る。すると、ヴァッシュは難しい顔をして考え込んでいる。……今更だけどぬいぐるみが難しい顔をしてるってなんだろうか。こいつは最初から表情豊かだった。
そんな変わりもののぬいぐるみを眺めながら思いついた。冷蔵庫からパックジュースを取り出して、大きめのコップを一つとストローを二つ用意する。
「ヴァッシュ」
コップにアップルジュースを注ぎストローをさしたらヴァッシュを呼んだ。あいつは飲めないからこんなの形だけ真似したおままごとだ。それでも。
「僕も飲んでいいの?ありがとう、ナイ」
「形だけな」
難しい顔から一転して笑顔になったヴァッシュを見たら、悪くないと思えた。
短い手を挙げて全身で喜びを表すぬいぐるみはそっとストローに顔を寄せて、照れくさそうに言う。
「それでも嬉しいよ。ナイと、こうして分け合ってみたかった」