雲外を穿ちて青天に ところは中国、まだ人前に神獣が姿を表すことの多かった頃。
とある山の麓の集落に、聡明な少年が暮していた。頑健な体も備え、年の頃が十を越えるときには彼の周りの同じ年頃の子で、喧嘩や知恵比べで彼に敵うものはいなかった。
青年となった彼はある時、山の奥に人の命を吸って生きる幻獣がいると聞き、それならば退治してやろうと年若さ故の無謀さで腰に剣を携えて、一人で討伐に向かっていった。
道無き道を越え、山に棲む恐ろしい獣の生態も知り尽くしていた青年はこれも躱し、川を遡り険しい岩山から高く流れる滝壺に辿り着く。
そこに幻獣はいた。いたが、青年の想像とは違っていた。
幻獣は澄んだ水の中から顔を出してこちらを不思議そうに見つめている。人間と同じような姿形をしていたので、青年は大きく面食らった。だがよく見るとその体は、水の底に伸びた部分は異様に長い。そして人の形をしていなかった。
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