蝉の鳴き声が鬱陶しく聞こえるなか、あさとは俺を追いかけていた。昨日は俺が追いかける方だったが立場が逆になっている。祖父が出掛けている間、畳の上で裸足でバタバタと音が聞こえるくらい走り回った。俺を捕まえると二人で畳の上で勢いよく倒れ込み、そして笑い合った。
「アッハハッ!」
「フフフッ!」
こんなに楽しいのは初めてだった。今まで夏は一人で祖父と過ごしていたので寂しい思いをしていたのだが、今はその寂しさがどこかへ消えて無くなっている。まるで新しい家族が増えたような気分だ。
「たのしい?」
「うん!すっごく!!」
「そうか、よかった」
それから俺は祖父が帰ってくるまではずっと彼と遊んだり話をしたりして過ごした。その度に俺はまた嬉しくなった。この時間が永遠に続けばいいのにと何度も思った。でも終わりは必ず来るもので、あっというまに夕方になった。そろそろ祖父が帰ってくる頃だろう。すると硝子戸を叩く音が聞こえてきた。戸には影が映っている。
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