止まり木局長会議から戻ってきたヨンが目にしたのは応接用のソファで堂々眠るドンジュだった。
ジャケットをポールハンガーに掛けながら、眉間にしわを寄せて舌打ちをする。
曲がりなりにも局長だぞ。
遠慮の欠片もない態度に笑いすらこみ上げる。
「何なんだ……コイツは」
目的の為なら手段を選ばず、自分すら犠牲にすることを厭わない。
いつの間にか彼のペースに巻き込まれ、やる気に満ちていた昔を思い出しそれも悪くないとまて感じるようになった。
そして、どこでどう間違ったのか、今では人目を避ける関係であったりもする……。
彼が心穏やかになれる時があるのかと心配になるが、それが自分の側だという事が密かな喜びとして感じているのも事実。
肘置きに足を投げ出し、腕組みをして寝入るドンジュを見下ろし、ヨンはハッ、と喉の奥で笑うと、大きく咳払いをし、
「おい、ファン・ドンジュ!寝るなら仮眠室を使え。ここはお前の部屋じゃないんだ」
「全く、いっつも休憩室みたいに……」
ヨンが口を尖らせ、ドンジュを起こそうと足元に近づく。
「それに、この前の報告書はどうした…… 」
上体を屈めドンジュの肩に手を伸ばしたが、触れる直前に手首を掴まれてしまう。
「……起きてたのか」
「今起きました」
「嘘つけ」
「はい、局長が入って来た時から起きてます」
「はぁ?」
まあ、起きているならいい、ヨンが離れようとドンジュの手を振り払おうとするが、きつく掴まれ叶わない。
「何だよ?」
「べつに」
悪びれもなくドンジュが言う。
胡乱げにドンジュを見下ろすヨンに、余裕の笑みを見せる目の前の男は体を起こすと、そのまま力任せに腕を引っ張った。
「っ!?お、おい!」
バランスを崩したヨンはそのままドンジュに覆い被さるように倒れ込んでしまった。
「バカ!危ないだろ」
「何だか押し倒されてるみたいですね」
壮観、にやにやしながドンジュが言う。
「お前が無理矢理引っ張ったからだろ!」
ドンジュにぶつからないよう避けたはいいが、あからさまに言われると、途端に羞恥心が襲ってきて離れようと身体を起こそうとすると、
「もう少しこのままで」
今度はゆっくりと引き寄せられた。
ヨンの胸に顔を埋めるようにドンジュが抱きつく。
「お、おい!」
腰に腕を回され、ますます身動きが取れなくなってしまった。
「誰か来たら……」
「もう少し」
「ああ、もう」
ぐりぐりと額を擦りつける仕草は猫のようだとヨンはどこか諦めの眼差しを胸元に向ける。
無碍に出来ないのは惚れた弱みというべきか……。
気が休まる事のない日常で、少しでも自分が力になれているのならそれでいい。
溜息をつきながら、ヨンはドンジュの背中をあやすように叩く。
狭いソファで男二人が抱き合うのはさぞ滑稽だろう。
ヨンは困ったように小さく笑い、しばしの間ドンジュの好きにさせてやることにした。