(いるかつ)雷を落とした日(ときかつ!時空)「鞍作が唐突に来るのはいつものことだ、いまさら何も言わない。だが来る手段は考えろ」
昭和50年の6月12日、近江神宮の外拝殿に落雷があり、檜皮屋根が炎上した。なんとか鎮火はしたが、この日は645年に乙巳の変が起きた日であることもあり、信者たちが噂をし出した。
「悪かったって。こいつを見せたかったんだ」
そう言って、さきほど空から降りてきた鞍作は、鹿を差し出した。言動の軽さは昔から変わらない。
「鹿だな。新しい神使か?」
「俺の名前にちなんで素戔嗚命が連れてきたんだが、うちの社には森がないからな。ここで育ててやってくれ」
「私の社を放火して、さらに居候を増やそうというのか」
「うっ、急に首が……」
鞍作が首を手で押さえる。よりによって今日、鞍作の首をはねた葛城の前でそれをするのか。
「……わかった。要件はそれだけか」
「いや、葛城がどんな顔をしてるのか見に来た」
「悪趣味が過ぎる」
わざわざ命日に、自分を殺した男の顔を見に来るやつの気が知れない。
葛城は口元を歪めた。鞍作と話していると、いつも調子が狂う。
「じゃあ、俺はこれで」
鞍作は手を振って、去って行く。それが見えなくなったところで、ため息をついた。
「相変わらず賑やかな奴だ」
葛城は鹿を見下ろす。鹿は、くんくんと鼻を鳴らし、葛城の手の匂いを嗅いでいる。
「名前をつけておくか。鹿子(かのこ)でどうだ」
葛城が名を与えると、鹿子は嬉しそうに鳴いた。
その後、この日を雷神祭として、毎年祭典を行うことになった。