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    bororonb

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    bororonb

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    「俺はitsrnのネト○リじゃねえ!」の番外です
    お互い18歳くらい。あんまり本筋とは関係ないので本編で省いた🚹の価値観とか内面を書けたので良かった。実は害悪厄介オタクの気がある。

    「俺はitsrnのネト○リじゃねえ!」番外 推しが結婚したガチ恋とか、こんな気分なのだろうか。それとも不倫で引退した歌手のファンとか。
    「っひどいぃ、ひどいよぉ……」
     ズビズビと鼻を啜る俺。糸師といえば、後ろのソファでひたすらスマホを弄って居る。薄情なやつだ。こちとら一人、人生の推しを失ったというのに。
     スタッフロールとエンディングの曲が終わると、俺の背を、長ぇ足を伸ばして指先で突いて来る。足癖が悪すぎる。早くディスクを取り換えろという事だろう。けれども俺は、とてもではないがそんな気分にはならなかった。
     『あのヴィランの素顔が今暴かれる─────』
     そんな大層な煽り文句が踊るパッケージ。そのヴィランの名は、『ジャック』。悪魔的知能を持つ劇場型の殺人鬼で、残虐かつどこか芸術的な犯行は、敵でありながらも多くの観客を魅了した。
     彼は、俺の人生に於ける推しの一人である。そして今現在俺が観ているのは、ジャックを主役とした映画で。ジャックがどのような道を辿ってヴィランとなったのか。一人の平凡な男を怪物たらしめたものは何か。
     異例の大ヒット上映となったその映画を、その時期俺は映画館で見る事ができなかった。ああ忌まわしきかな受験文化。
     そしてアメリカンホームビデオの少年みたいな勢いで、包装紙を破り捨てBlu-rayディスクを再生し始めたのは俺。そこに、「『シャークハンドスピナー』を見せろ」と強襲してきたのが糸師である。
     糸師はテレビに齧り付く俺を、サッカーボールよろしく転がした。それでも必死にリモコンを守り抜いた俺の執念に根負けしたのか、今の今まで大人しく映画が終わるのを待っていた。
     だからそう、本当はその頑張りに免じて、俺は速やかに『シャークハンドスピナー』をビデオデッキにセットしてやるべきなんだろうけど。
    「っ、俺はァ!」
     俺は、今他人に心を割くほどの余裕を持ち合わせてはいない。
    「認めない、認めないからな。あんな……あんなあんなあんな小物みたいな理由で、ジャック様が生まれたって言うのか?冗談じゃない俺が今まで崇拝し続けてきたジャック様は、承認欲求が満たされなかったってだけの理由で癇癪を起こした冴えないオッサンだったって事か!?」
     部屋に飾ってあるジャックのポスターに飛びつき、破き捨てる。良い加減痺れを切らしたのか、糸師は、暴れ回る俺の隣を通り過ぎて、サッサと『シャークハンドスピナー』のディスクをビデオデッキにセットする。
    「ヴィランやモンスターてのは生まれてから消えるまで徹頭徹尾化け物じゃなきゃいけないわけ!同情できる過去とかバックボーンとか、愛とか人間味とか!そんなもの蛇足でしかないんだよ!そんなん、そんなん抱えたらただの人間になっちゃうだろ!あそこまで完成された!冷酷非道残忍無惨なモンスターが!面白みも無いただの人間にィ!」
     ポスターの破りカスを口一杯に詰め込み始めた俺を嘲笑うように、グルグル回転しながら人を食い散らして行くサメがテレビに映し出される。糸師は飛び散る血飛沫と肉片を、キラキラした目で眺めていた。
    「意思疎通すら不可能で、理解が及ばないから恐いし魅力的なんじゃないか!?言葉も理屈も何も通じない存在で、正当なルーツなんてない!それこそそう、幸せで平凡で善良な一般家庭からポンと生まれるような────」
    「良い加減黙れ」
    「ペプシッ」
     右頬をビンタされる。2回転してソファに倒れ込んだ俺に、糸師は一瞥もくれる事なく映画鑑賞を続けている。
    「な、殴るのはちょっと酷くない?」
    「喋んな。折るぞ」
    「折っ、何を!?心とか!?」
     過激な比喩表現みたいな?!
     答える代わりに、正面を指差す糸師。釣られるようにテレビ画面に視線を移して。
     そこでは丁度、背骨ごと折りたたまれて男が絶命していた。
    「お前もああなる」
     比喩とかではなく物理的な話をしている。
     流石に命は惜しいので、おとなしくその場に腰を下ろす。糸師は少し残念そうな顔をする。残念そうな顔をするな。
    「…………本当にお前理不じ……」
     はたと口を噤む。
     そして、まじまじと糸師の横顔を凝視する。
     異国の硬貨裏にでも刻まれていそうな、Eラインの美しい横顔。猛禽を彷彿とさせるような翡翠色の目に、それを縁取る、煙るような睫毛。
     誰もが振り返るような完璧な美貌を持ちながら、一枚皮を剥げば混沌とした理不尽が顔を出す。
     それこそ話が通じなくて、理解が及ばなくて。幸せで善良な一般家庭から、ポンと生まれた理不尽。
    「はわ……」
     両手で口元を抑える。
     小一時間悩み続けた数式の解法を知った時のような。そんな爽快感。走馬灯のように脳内を駆け巡るのは、醜悪な形相でコート中を蹂躙して行く糸師の姿で。
     分かった。分かってしまった。ついに理解してしまった。
    「おい、視線が煩ェ」
    「俺の理想………………」
     同時に吐き出された言葉が衝突する。
     「ア?」とドスの効いた声で凄む糸師に、俺は興奮のまま詰め寄る。その勢いに、あの糸師がちょっと引き気味の表情で気圧されていた。
    「おっ、おま、おま、ちょっと!あの、映画の仕事とか入ってない!?グチャグチャヌトヌルの猟奇ホラー!」
    「あ?」
    「無い?マジか何してんだ業界人節穴か?じゃあこの際あれ、人殺す予定とか!手始めにほら、俺を腰からポキっと折り畳め!」
    「…………頭が湧いたか」
    「『グチャグチャにしたい相手がいる』って言ってたじゃん!大丈夫、お前ならなれるよ本当のジャック様に!だからその時は俺のことも呼んで、絶対絶対絶対絶対呼……」
     糸師は俺を殴った。ちょっと洒落にならない感じの殴り方だった。
     脳が揺れて、視界がブレる。そのまま強制的に意識が刈り取られて、視界が真っ暗になった。

    ***

     脳みそを掻き回すみたいな不愉快な音に、目を開ける。b級サメ映画のエンドロールの曲だった。シャークハンドスピナーの曲では無い。少なくとも、映画1.5本分は寝ていたのだと分かった。
     俺はカーペットみたいに床に這いつくばっていたようで、身体が若干痛い。もたもたと身体を起こせば、頭上から声が降ってくる。
    「しゃがめ。画面が見えねぇ」
    「あ……糸師」
     足を組んだ状態で、糸師がソファに座っていた。流石、床に昏倒する人間の隣で、2本映画を見れる男の佇まいである。すごく太々しい。
    「お……」
    「俺はサッカーで糸師冴を殺す」
    「あ、うん……知ってる?」
    「次クソみてぇな事言ったら刺すからな」
     起き際に殺害予告とはこれいかに。
     口先まで登ってきた文句を飲み込んで、脈絡の無い宣言に首を傾げる。昏倒する前の俺は、一体何を言ってしまったのかと言う疑問は兎も角として。
     糸師の口から兄への殺意を聞いたのは初めてだったが、こいつの内面は前々から──それこそ、中3の冬から薄々察していた。だからそれを今更改めて宣言されても、薄い反応しかできない。
     エゲツない舌打ちが返ってくる。投げキスか何かかと思った。
    「つかあれ、俺、今鼻が変な方向に曲がってるくさいんだけど、記憶が無いんだよね。何か知らねぇ?」
    「知らねぇ。最初からそんな顔だっただろ、テメェは」
    「そ、そうか?本当に?そんな事ある?で、でもそうか……」
     そんな物か……と鏡を見ながら納得する俺を、横目で一瞥。糸師は、エンドロールを眺めながら「お前」と言った。
    「俺をあんな異常者と同類だと思ってたのか」
    「いやお前は割としっかり異常者寄りだろうが……つか、何?何の話」
     言うや否や、「ン?」と床に引き倒される。こう、人をこんなふうに簡単に引き倒すのは本当に良く無いと思う。
     ギャン!と無防備にも天井に腹を晒して転倒した俺を、糸師はじいと直立で見下ろしている。丁度俺の頭上を跨ぐようにポジショニングされているので、身を起こす事ができない。身を起こしたらこいつの股に激突する。
     どんな感情で俺に股間を晒してるんだよ。逆光で表情が見えない。
    「……俺に5年近くこうして大人しくブン殴られて鼻折られてんのは、俺が『ジャック様』だからか」
    「2秒で自白するじゃん……」
     次に会うのは法廷だな、とか、俺の抵抗はこいつにとって抵抗にすらなってなかったのか、とか。恐怖に収束する諸々の感情を押し除けたのは、『怒り』と呼ばれるそれだった。
    「お前が『ジャック様』なわけ無いだろ……こ、殺すぞ……」
    「……………」
    「自分で言ってて恥ずかしくねぇのか……」
     そこまで言って、俺は糸師の反応に目を剥く。普段なら「殺すぞ……」の辺りで、「やってみろ……」と、的確に頚動脈をキュッとされていたはずだ。
     糸師らしからぬ反射神経の鈍さに、訝しげに首を傾げた。
    「なら、マゾか?」
     言いながら、嬉しいか、とでも言うように足先で肩を抑えられる。いつにも増して訳がわからないが、とにかく癪なので肩を振ってそれを払い除けた。
    「何?『俺みたいな暴力マンと一緒に映画見てくれるのは何でですか』って事?自覚があったのかお前。自覚があるのになんで改善しねぇんだ。もしかしてその欠点をステータスか何かと勘違いしてるのか?」
    「改善の必要性が無ェだろうが……」
    「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ」
     俺の顔面を踏んづけるように持ち上げられた足に、必死で命乞いをする。ギュッと目を瞑って、身体を強張らせて。
    「…………?」
     代わりに、頬を包まれるような感触に恐る恐る目を開ける。
     まず目に飛び込んできたのは、糸師凛のご尊顔だった。膝を折り、俺の頭上辺りにしゃがみこんでいる。そして、足を動かしたのは後ろに下がるためだったのか、と納得する俺の頬を、
    「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」
     ギリギリと握り込む。「笑えよ」とか、サイコ臭のする言葉と共に、無理矢理口角を上げるように顔面を潰される。
    「笑えマゾ」
    「ねえ怖い怖い怖い怖い痛だだだだだ!」
    「嬉しいですって言え」
    「嬉しいわけないだろ頭がおかしいのか!?別に俺は、虐げられる事に性的興奮を覚えるからお前を許容してる訳じゃねぇからな!?」
     叫ぶと、握り潰されていた顔面が解放される。痛む顎骨を摩りながら涙を拭う。
     こう言う事はしばしばあった。手を変え言葉を変え、『何で自分から離れない』と尋ねてくる。これを俺は一種の確認行為だと解釈していたし、そして、それを、毎回惚けた回答で煙に巻いてきた。

    「……お前、俺の好きな映画をバカにしなかっただろ」

     ターコイズブルーの瞳が、散瞳する。お前がそんな表情をするから、俺もらしくない反応をしてしまうのだ。
    「俺の好きな物を否定する奴を、俺は絶対殴る。ブロックするし、『ちょっとそれはどうなのかしら』とお気持ちする。でも俺自身は、人の『好き』をしばしば否定する。自分の解釈や美的感覚に合わない物が許せないから」
    「……『ステータスだと勘違いしてる』」
    「違わい。正しく欠点だと認識してるし、恥じてもいる。だからリアルの人間と趣味を共有しない。人に嫌な思いさせるのは嫌だし、避けられる諍いなら最初から避けるべきだって思ってるから」
    「…………『友達が居ない』ってだけの一言を、よくもそう長ったらしい言葉で飾り立てられるな」
    「そんな喋るやつだったっけ、お前……中々やるじゃん……」
    「…………」
    「とにかく、そう。お前は、絶対に俺に借りた映画の悪口は言わない。だから、あの、つまり」
     つまり、と。続ける言葉は中々出てこない。
     けれど不思議と、引き返す気にはならなかった。自分でも何に期待しているのかはわからない。ただ俺は今確かに、恥と引き換えに手に入るかもしれない何かに、それだけの価値を見出している。
    「────普通に楽しいんだよ、お前と映画観るの」
     居た堪れなくなって顔を背ける。糸師の表情を確かめる勇気なんて、俺には無い。そんな度胸があれば今ごろ起業している。
    「……………」
     殴られ待ちで目を瞑る俺を他所に、頭上では人が動く気配がした。言わずもがな糸師である。
    「糸師?」
     糸師はBlu-rayディスクを膝で叩き割った。
    「糸師!?」
     半分に割れたパッケージは、俺の崇拝するジャック様だった。フラゲで予約して、漸く手に入れたジャック様。彼の事を知ることができると、今日の今日までずっと観るのを楽しみにしてたジャック様……!
    「お前!お前お前お前お前!何してくれてんだお前!」
     泣き叫びながら胸倉に掴み掛かるが、糸師はスンとした表情で顔を逸らすだけだ。ふざけるな、俺の目を見ろ、目を。
    「目を見てごめんなさいと言え」
    「…………」
    「ま、マジで何なのお前……」
     無言で万札を握らされた。
     弁償代という事だろうか。誠意があるのか無いのか絶妙にわからない。
     糸師の奇行への戸惑いが、ジワジワと怒りに勝って行くのが分かった。
    「……これで初回限定版を買えと?」
    「違ェ馬鹿」
    「あっ、スマホだけはやめて!」
     Amazonで初回限定版をポチろうとすると、スマホごと抜き取られてまた膝で叩き折られそうになる。
     足に縋りつく俺を蹴っ飛ばして、糸師はグシャリと表情を歪めた。
    「こんなクソ映画、二度と見んなっつってんだよ」
    「…………はー?」
     言った側から、おもくそ好き映画を否定されたんだが。
    「はーー??」
     失意と怒りのまま首を傾げる。ツーと涙が出てきた。ちょっと、ちょっと待って。感情に理解が追いついてこない。
    「お前、そんなに俺が嫌いか?」
    「…………うるせえ優しさだ」
    「や、優しさ?これが?確かに優しさの形ってそれぞれだけどさ、あの、」
    「黙れ、とにかく見るな。見たら折る」
     言いながら、膝で何かを折る仕草をする糸師。バキッと真っ二つになるBlu-rayディスクよろしく、バキッと背骨から真っ二つになる自分を想像して、気付けばブンブンと頷いていた。
     ────すみません、ジャック様。
     脳内で懺悔する。俺は、自分可愛さにこの悪魔に屈しました。俺にもうあなたを崇拝する資格はありません。
     得と言われぬ敗北感と共に、ジャック様の偶像が確かに死にゆくのが分かった。ポロポロと涙を溢しながら、俺はされるがままにソファに投げ飛ばされていた。

     結局その後も、俺は糸師を殴れなかったしブロックもお気持ちもできなかった。さらに言えば、次の週もあいつの家で普通に鑑賞会をした。
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    bororonb

    DOODLE【急募】日i本の至i宝からの引き抜きへの対処法の番外編。🍵が居ない間の🚹の話。モブ目線なので、モブが出しゃばります。


    A.周りも本人も、心の底から必要としていないから
    友達も彼女もできない理由 広瀬という少年が転入してきた。
     そんな噂が届いた日の昼休み、俺はチャイムが鳴ると同時に隣のクラスまで駆けつけた。
     『広瀬久作』。その名前は、界隈では有名だった。界隈というのは当然、この地区でバレーボールをしている、俺たちのような小学生男児のコミュニティである。彼は所謂スター選手と呼ばれる存在だった。けれどもチームを全国まで導いた絶対的エースにして、本人はその功績を鼻にかけるような様子がない。下級生の分と自分の分、合計3つのエナメルバッグをブラブラぶさらげながら真顔で闊歩するような素朴さは、下手に尊大に振る舞うよりも却って周囲の関心を引いた。
     試合会場のトイレで広瀬とバッティングしたとあれば、「トイレに広瀬いた」「広瀬ウンコするの!?」「うんこじゃねぇよ馬鹿。広瀬がうんこするはずねぇだろ」「いや広瀬もうんこはするだろ」「広瀬が!?」「それより広瀬、花柄のハンカチ使ってたぞ」「広瀬が!?」と、チーム中が広瀬の話題一色になる。それほどに、俺たちバレーボール男児は広瀬という男に興味しんしんだった。
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