鬼切くんと看病の話頼光が体調を崩して寝込んでいる姿は、いつもの威厳ある彼とは全く違って見えた。
鬼切は、いつもは毅然としている頼光が今は明らかに不調であることを感じ取り、不安を覚えた。
しかし、何をどうすればいいのか、彼は全く知らなかった。
普段は静かで二人だけの部屋も、今日はざわざわとしており、頼光に仕える女房たちがせっせと看病をしている。
鬼切はその様子をじっと見つめながら、どうにもできず、ただ隅にじっと座っていた。
彼女たちが布を湿らせたり、薬を準備したりするのを観察していたが、頼光は彼女たちにぞんざいに声をかけ、早々に追い返してしまった。
「もういい。これ以上は無用だ」
家に対する不信感がある彼は、普段から女房たちが自室に入ることすら嫌っていた。
かしましい女房たちが去った後、ようやく部屋はいつもの静けさを取り戻した。
鬼切は、頼光が落ち着いた様子を見て少しほっとしたが、彼自身はどうすればいいのか分からず戸惑っていた。
女房たちがやっていたことを思い出し、鬼切は見様見真似で看病を試みることにした。
まずは、布を濡らして頼光の顔に乗せようとした。
しかし、全然絞りきれずボタボタと雫を垂らした布が頼光の顔に張り付き、頼光は思わず顔をしかめた。
「……鬼切、これでは溺れてしまう」
頼光は鬼切の不器用な心遣いを感じ取り、微かに笑みを浮かべた。そして、彼に優しく教えた。
「水に浸した布はもう少し、絞るものだ」
鬼切は頼光の言葉を受け、布を思い切り絞り直した。
だが今度は、しっかり絞られた布はカラカラになってしまい、頼光の額に乗せると冷たさが全く感じられなかった。
「これは……また違うな」
頼光は苦笑しながら、鬼切にもう少し加減を教えた。
鬼切は何度も試行錯誤を繰り返し、ようやく適切な湿り具合の布を作ることができた。
頼光の額にそっとそれを置き、鬼切は慎重に見守った。
ようやく様になったその動きに、頼光は安堵の息をついた。
「うん……それでいい」
鬼切は頼光の役に立てたことで誇らしげに胸を張り、まだ何かできることはないかと気になっていた。
彼は頼光に尋ねた。
「他に、私にできることはありませんか?」
頼光は疲れた目を閉じたまま、少し間を置いてから静かに答えた。
「いや……いつも通り、そこにいろ。それで十分だ」
「はい、ご主人様」
鬼切は頼光の言葉を聞き、しっかりと返事をした。
そして、背筋を伸ばし、毅然とした姿勢で頼光の隣に座った。
部屋は再び静かになり、鬼切の優しい心遣いが、頼光の疲れた身体に少しずつ安らぎを与えていた。