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    やじるししも

    @yazirusi_ue

    やじるしうえのしもいやつ、つまりやじるししもってわけですね やかましいわ

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    やじるししも

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    https://t.co/mr22ks40Zk の続編の予定。
    🍣に狂った🦑ちゃんの話その2。続編ですが時系列順には前回の小説より一年程前です。これと、あともう一本続編的なスシウナの幸せな頃を書いて🍣狂いの🦑ちゃんにまつわる小説は終わりだと思います。擬人化要素はあまりないです。

    ガールAの華麗なる転落 『── 一月前に行方不明になったウナはんはまだみつからんようや。何か知っとるヒトがおったら警察に──』
     バンカラ地方の顔、すりみ連合リーダーの声がジュースを読み上げる。マンタローの支えるモニタには、行方不明のガールの画像が映し出されている。
     薄めの紫色でぱっつんに切り揃えられたゲソ、美しい灰色の瞳、長いまつ毛、和やかな笑顔。彼女の名前はウナ。最強と噂されるトッププレイヤーの一人であり、名誉も地位もありながら彼女が一月前に失踪した。
     バンカラジオを眺めるヒトビトは不安さのなかに少しの興奮を交えて好き勝手妄想を囁き合う。なんでも、ウナは一緒に暮らしていたガールと喧嘩したから失踪したとか、チームメイトとの恋愛が原因で失踪したとか、否定するものがいない噂は加速度的に膨れ上がる。
     人気者だった彼女の失踪は、いささか退屈だった混沌の街にとって、旬のエンタメだった。

     そんな様子がいやに耳についたのか、そのイカガールは激しい嫌悪感を露わにする。
     古い扉がギィとひとりでに開き、ガールを中へ誘う。ガールは短く乱雑に切られたゲソを揺らし、躊躇いなく足を踏み入れた。
     薄暗い室内には怪しげな雰囲気が漂っている。汚染された潮の香りが漂うなか、ガールは自分のロッカーへ向かう。着替えてカウンターへ行くと、そこにあるクマの置物が突然喋り出した。
    『...よくきたね、ウナくん』
     それを聞いたガールは嫌そうな顔をして吐き捨てた。
    「ウナと呼ぶな」
    『おや......それはすまなかった』
     クマの置物は本当にすまなそうに謝った。振りだろうが。ウナ、と呼ばれた長いまつ毛と灰色の美しい目のガールは短いゲソをしている。
     置物をしばらく睨め付けるが、無駄を悟ったのか目線を外してため息をついた。
    「どっか空いてるシフトない?」
    『今すじこで一人募集しているようだね...... 2時間後ぐらいになるがアラマキに二枠ある』
    「すじこ2時間行ってそのあとアラマキ行く」
    『わかった、手配しよう......。だが、時には休息も大事だからね』
     低い声がそう囁いたものだから、ガールは少し笑ってしまった。ガールがこのクマの木彫りとしばらく付き合って分かったことは、この温厚な態度は全てアルバイターを働かさし続けるためにとっているだけだということだった。だからガールは優しくのばされたその手を振り払った。
    「思ってもないこと言うなクソクマ」
    『雇用主に向かってきみは...』
     木彫りのクマは苦笑した。この木彫りのクマはクマサンと呼ばれ、まごうことなきこのクマサン商会の長であった。
    『きみ、きみと呼び続けるのも不便だ。ウナ、あだ名をつけても?』
    「どうでもいい。ウナと呼ぶなカスクマ」
    『ではキイロと呼ばせてもらおうか。きみは黄色いツナギを着ているからね』
    「そう」

     それから、ウナはキイロになった。

    ガールAの華麗なる転落

     キイロは一月前にクマサン商会にやってきてから、それはそれはよく働いた。
     クマサンのことをカスクマと貶し厭いながらも、毎日朝から晩までずっと鮭だけをしばき続けていた。キイロは一月前からずっとバイトしかしていない。最初は全くダメダメだったが、一月もすればメキメキと上達し、キケマ周回も難なくこなすほどになっていた。その上達の速度は異常なほどだった。
    『きみの上達には目を見張るものがあるね...期待しているよ』
     クマサンは珍しく喜色をあらわにしてキイロをほめそやした。キイロは虚を突かれたようだったが、照れくさそうにしたのを隠すように短く鼻で笑ってあしらった。それから、思い出したようにクマサンに尋ねる。
    「ねえクマ、もうそろそろあたしのスシ返してくれてもいいでしょ? 金イクラめちゃ稼いだよあたし」
    『ああ...そのことだが。きみのスシにはシールが貼ってあっただろう?』
    「...そうだけど、それが何」
    『誰かがシールを剥がしてしまったようでね......きみのスシがどれかわからなくなってしまったんだ』
    「は?」
     キイロは人生で一番低い声を出した。クマサンの行為はキイロにとって背信であり、一番許しがたいものだった。キイロの声にも動じず、クマサンは淡々と告げる。
    『謝罪しよう。こちらの不手際だ』
    「このっ......!」
     キイロは苛立ちを隠せないようで、クマサンの置物の載っている箱を蹴った。がこん、と案外大きな音が響き、アルバイターたちがこちらを向く。しかし頭に血が上ったキイロはそれにも気づかないようで、支離滅裂な言葉でクマサンを責めたて始めた。
     お前はやはり信用できない、スシを返してくれ、商会にあるスシを全部持たせろ。あたしのスシを返してくれ、あの子を傷つけたのはあたしのせいじゃなくてお前のせいだ──。
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    hiromu_mix

    DONEアイスクリームパレット:ラムレーズン(淡い思い出 / 異物 / 背伸びをする)
    あの日、大人になりたかったから部屋に備え付けの戸棚の引き出しを開けると、救急セットや常備薬に混ざって、奥の方。それだけぽつんと異物みたいに、封を切った煙草の箱がコロンと置いてあって、俺は、こんなとこにあったんだなと苦笑した。以前は鞄の奥底に仕舞い込んでいたが、うっかり見つかったらヤバいかも、とさすがに持ち歩かなくなった。それを持っていてもいい年になった今、懐かしい気持ちで俺はそれを見つめ、手に取った。中身はすっかり湿気って、きっともう吸えないだろうけど。
    買ったのは18歳の終わり。勇気を出して封を切ったのは19歳の時。煙草を吸うという行為は、それまでいわゆる悪いことをしようと思ったことのなかった俺に、後ろめたい、という感情を思い知らせた。誰にも見つからないように。部屋のベランダで隠れるように身を潜めて深夜、そっと火をつけた。ファットガムが吸うのを見てると、簡単に付く火がなかなかつかなくて――吸わないと付かないということを知ったのはそれからだいぶ後だった――何度も100円ライターを擦って、やっと煙が緩く経ち上ったときにはホッとした。けど、一気に吸い込んで咽て、俺の煙草デビューは三口吸って終わり。口の中に広がる味が苦くて、胸のあたりがむかむかして、最悪な気分。それに、吸ったらもしかして自分も少しは大人になれんじゃねえかなって期待もむなしく、吸ったところで俺は何も変わらなかった。いくら背伸びしたところでファットガムみたいに、なれるわけもなかった。同じ銘柄の煙草の香りのおかげで、ほんの少し、纏う匂いが彼と同じになっただけで。
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