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    SDefbs222

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    ##仙越

    下ろした髪 腰を掛けたベッドに、足だけ床に残して体を預ける。まだダルさと、腹の奥の異物感が残る体をマットレスは優しく支えてくれた。自分のものではない香りに思わず顔を埋める。
     しばらく突っ伏していたが、風呂上がり特有のポカポカした体温と適度な疲労感が眠気を誘う。重くなった瞼が落ち切らないように、横たわったまま首だけ動かした。窓から差し込む月明かりにのみ照らされた天井をぼうと見上げる。そのまま風呂場から聞こえるシャワーの音を聞きながら、音の主の戻りを待っていた。
     いつの間にかドライヤーに入れ替わっていた生活音が止まる。
     足音が近づくドアを眺めて待っていれば、風呂上がりの仙道が部屋に戻ってきた。部屋に入ると同時に目が合って、少し驚いた様子もあったがすぐに微笑まれた。
    「寝てて良かったのに」
    「んー」
     曖昧なうなり声で返事をする。「水とかいる?」と聞かれたが首を横に振った。頷いた仙道はそのまま、使ったままにされていた物を片し始める。その姿を眺めながら、前々から思っていたことを何気なく言葉にした。
    「お前って、髪下ろしてると本当印象違うよな」
     風呂上がりの仙道には普段のツンツン頭は見る影もない。癖のない髪が丸いフォルムを作り、下ろされた前髪は彫りの深い顔に影を落としていた。アイドルにいそうな、品とあどけなさのある髪型だ。
    「あんま見んなよ」
     仙道は恥ずかしそうに手で頭への視線を遮る。
    「やだね」
    「おい」
     わざと意地悪く反応すると仙道は太い眉毛を歪ませ苦笑した。
    「何がそんな嫌なんだよ」
    「だってさ、前髪下ろしてると俺、子供っぽく見えるじゃん」
     口を尖らせながら自分の前髪を見上げる仙道に、
    「いーじゃねーか。可愛いぜ」
     揶揄うように答える。
    「そういうのやめろよ」
     困ったようにくしゃりと笑う仙道に釣られて俺も声を上げて笑った。
    「俺はこだわり持ってあの髪型にしてるんです」
    「分かってるよ」
     どんなに激しい試合の後も崩れないハリネズミヘアは入学当初から仙道のトレードマークだ。理由もなく下ろして登校したら、学校中がざわめくだろう。俺だって合宿で初めて髪を下ろした姿を見たときには随分と驚いたのだから。
    「……そういやさ、俺、お前が髪下ろしてるの見るまで、立ててるのは癖もあんのかと思ってたんだよな」
    「あー、たまに言われる」
     髪が硬いとか、上に向かっていく癖があるとかで髪を立てている同級生はいる。しかし何も手を加えていない仙道のそれは、重力に従い、緩やかな弧を描いて素直に下りていた。
    「毎朝セット頑張ってんのよ」
     櫛で前髪を上げるポーズをした仙道は、床に落ちていたゴムの包装の最後の一つを拾い、ゴミ箱に捨てた。
     仙道の髪がどうセットされているのか触って確かめようとする人間は、俺が見る限りでもちょくちょくいる。そして毎度断られているのも知っている。仙道にとって、それだけ髪型は大切なものなのだろう。
    「…………」
     その武装のようなセットが取れた、無防備な髪の毛を見つめる。年相応の幼さが出るストレートヘアの彼を見せてもらえる人間はどれだけいるのだろう。
    「そんなに気になる?」
     振り向いた仙道が見下ろしてきた。視線を隠すつもりはなかったが、反応を返されるとつい身構えてしまう。
    「触ってみる? 思ったより硬くはないぜ」
     髪の毛束を摘みながらされた仙道の提案はやけに特別に聞こえた。
    「いいのか?」
    「いいよ、越野なら」
     余裕のある笑みに逆にこちらが緊張してしまう。そんなことは気にも留めていない仙道が腰を掛けたことで、ベッドが沈む。俺も両手で体を起こし、仙道と並ぶように座り直した。
    「ほら」
     こちらに顔を向ける仙道は、触れられるのを待つように俺の瞳を覗き込んでいた。
     ゆっくりと、手を伸ばした。
     前髪を梳かすように指を通す。なるほど。コシはあるが柔らかく、指の通りも良い。数度整えるように梳いたあとは、頭の横っ側に移り、毛並みに沿って撫でる。サラサラの髪は触り心地が良かった。そのまま後頭部に手を回し、指の腹で頭を撫でる。人の髪や頭に触れる経験なんてそうないから、全部、いつもコイツにされてるのの受け売りだった。
    「…………」
     最初はこちらを見ていた仙道だったが、今はむず痒そうに視線を床に落としている。抵抗はしないものの、引き結ばれた唇は時折食むように動いていた。
    「……どう?」
     薄暗い部屋では顔がよく見えない。黙ったままの仙道の反応に困り、声をかけると流石に顔を上げた。うすら赤らんで戸惑いも隠せていない仙道の上目遣いと目が合い、撫でる手が止まる。目を泳がせる仙道は照れを隠すようにハハと笑い声をこぼした。
    「……親にももうこんなことされねーけどさ」
     そう言いながら、頭に回したままの俺の手を引き寄せ、熱を持った頬をくっつけた。
    「うん。結構いいもんだな」
     目を細めて嬉しそうに微笑む仙道は、まるで甘える子供のようだった。普段の大人びて見える彼が見せない顔に、一瞬で胸が掴まれる。
    「……これくらい、いつだってしてやるよ」
    「ありがと」
     頬を摺り寄せたまま笑みをこぼす仙道に愛おしさが押し寄せ、胸がキュッとなる。熱いのは仙道の頬なのか、俺の手なのか、もはや分からない。だけどこの行為が俺にだけ許されたことなのは分かる。
    「ん」
     まだ赤みのある頬を親指で撫でながら、俺は仙道の心の柔いところにも触れられた気がしていた。
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