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    比良/エン(堕ちてきた後)

    しっとり甘め。
    露天風呂でのひととき。

    ⁑type-9⁑

     疲れた。
     珍しく先輩がぽつりとこぼす。
    「大丈夫ですか?」
     露天風呂の広い湯船に身を浸し顔の半分まで沈め息なのか返事なのかぶくぶくと水泡を残したあと、たぷんっと頭まで沈まれる。子供のような行動に本当に珍しいなとゆらゆらと水中で揺れる金色の髪を見ること1分。
    更にそこから30を数えても揺蕩う金の髪は水中からあがってこず、さすがにおかしいと脇の下から手をいれ身体を引き上げる。
    「先輩っ!」
    「なんだ、どうした?」
     力を込めたら折れてしまいそうな華奢な腕に薄い身体、それを引き寄せると先輩は小首を傾げきょとんとした顔。
    「それはこちらの台詞です!」
    「?」
     本気でわかっていない顔で顔にはりつく髪をかきあげてこちらの言葉を待っている先輩に、もやっともいらっともつかない感情が湧く。だがまずは理由を伺うのが先だ、もしかしたら崇高な理由があるかもしれない。
    「今、何をされていたのですか?」
    「息がどのくらい続くかしてただけだが?」
     躊躇いすらなくさらっとさも当たり前のように言う先輩に、一度は抑えた感情がぶり返す。
    「くっだ……もとい、子供ですかっ‼︎」
    「おい、今くだらないと言おうとしたな」
    「くだらなくないとでも⁉︎」
    「……」
     ぐっと黙り込んで反論が無いので畳み掛ける。
    「疲れたと言ったきり水に沈んで浮かんでこない、それを心配しないはずが無いではありませんか! 物騒極まりない!」
    「ぐ……だが、己は設定された死以外では死な」
    「心情の問題です!」
     普段なら先輩の言葉を遮ることはしないしある程度のことは肯定する、だが駄目な事は駄目だと言うのがバディであり右腕だ。
    「……一度先輩を失っている私の心がわからないはずは無いですよね?」
     感情が先走りすぎているのを鎮めるために目を瞑る。
    設定のことは知っていてもあの日突然先輩が居なくなった恐怖は2年経った今でも目の前を真っ暗にさせる。
    何度夢に見たか、いつも手は届かない、闇に飲み込まれ堕ちていく先輩に気付けない、毎回先輩は亡くなってしまう。地獄のような悪夢。
    悪夢は私の都合だが、それでも心情として先程のは物騒なことに変わりはない。
    「姪御さんが見ても心配されますよ。まあ、入浴中に入ってはこられないでしょうが」
     黙ったまま吐息すら聞こえず、言い過ぎたかと語気をやわらげ姪御さんのことを出してワンクッション。
    しかしそれでも反応が無いので薄目で様子を伺うと、ついぞ見たことがないほどに項垂れた先輩がいた。しょんぼりを体現したように力なく水面を見つめている、表情は直接は見えないもののバツの悪そうな力ない目許と口にする言葉がみつからないのか薄く開いたままの唇が水面に映っているのから分かる。
    恐怖から思わず自制を忘れて捲し立ててしまったがここまでの顔をさせたかったわけじゃない、
    「……先ぱ」
    「悪かった」
    私が呼び終わるより前に掠れた先輩の声がかぶせてくる。
    「お前の言う通り浅慮だった、すまない」
    「せんりょ?」
    「……浅はかだった。お前にそんな顔をさせたかったわけじゃない」
     どういう意味か分からず復唱したら先輩は噛み砕いた言葉に変えてくださる、しかしそんな顔というのは私の方が言いたい。
    どんな顔をしているのかわからず水面を見て息を飲む、全く自覚がなかった、視界が歪むのは湯気のせいだと思っていたのに。
    「あ、え? これは違います、大丈夫で」
    「己に嘘を吐くのか?」
     凛とした声に遮られる。
    「いえ、あの、自分でも何故か分からないのです。いつから泣いてました?」
     ずっと掴んでいた先輩の腕から手を離しお湯で顔を洗って、まるで他人事のように逆に聞く。
    「いつ……心情の問題と言っている時からだな」
     沈黙の時間をあわせたらまあまあ前な気がする、恥ずかしい。
    「それは……なんというか失礼しました」
    「お前が謝る必要は無いだろ、己のせいだ。何か己にできることはあるか?」
     今日の処刑は普段よりも人数を増やしていらしたから精神的にも疲れているからこその先程の言葉とらしくもない子供じみた行動だっただろうに、それでも私を気にかけてくださる。
    「大丈夫です……いえ、そうですね、手を握っていてくださると安心します」
    「わかった」
     すっとお湯をかいて隣に座り差し出される手は小さい、しかし重ねた私の手を握り込む力は優しさに満ちていて心が落ち着く。先輩はここにいるのだと信じられる。
    「先輩、好きです」
     先輩はこの小さな手に大きく重いものをたくさん持っている、私ではそれを代われない。でもこれから先も現世の時のように支えていきたい。この尊敬する愛しい人を。
     まあ泣いたばかりでは格好もつかないから言えないが、先輩には筒抜けなのか優しく笑われた。
    「ああ、己も愛してるぞ」

    -END-

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