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    benocka

    @benocka

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    benocka

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    メロイの過去の備忘録として書きました(建前)
    過去の冴えないメロイとリビンくんで絡んでくんねえかな〜!(本音)
    という話です。勢いで書いてあんまり直してないから矛盾や誤字あるかも。所詮夢なのでねってことで……。
    いつもの如くちゃいたん宅のリビンくんお借りしました〜いつもお世話になってます🙇🏻‍♀️‪‪

    あー、でも似た名前の花の花言葉は知ってる。それは何とも不可思議で長い夢であった。

    「あれ…メロりんどこ行っちゃったんだろ」
    見所のないような目立たない街の一角で、リビンは迷子になっていた。メロイと隣に並び一緒に歩いていた気がするのだが、辺りには不鮮明な顔の人々しかいない。
    リビンはまさかこれを夢だとは気付かなかった。
    キョロキョロと辺りを見回す。
    「メロりーん。メロり…メロイくーん。どこー?」
    そう遠くへは行ってない気がするから、声を出して呼んでみると、反響するような、篭っているような不思議な響き方をした。
    「よ…呼ばれてる?」
    案外すぐに聞き覚えのある声がしたものの、姿は見えない。
    「あれ、メロりんいるの?どこ?」
    「め、めろりん…?ってもしかして俺の事ですか」
    「あ!メロ……あれ?」
    物陰からおずおずと出てきた男は、確かによく見た髪色と声をしているが、いつも接している彼とは姿も態度も別人のようであった。
    「…………タスちん変装してないよね?」
    「え、誰スかそれ…メロイくんて呼ばれた気がしたんですけど」
    「………………え。あれ。…カリュ・メロイくん?」
    「……は、い。……スマセン、知り合いでしたっけ…人の名前覚えるの苦手で…。…苗字まで知ってる知り合いいたか…?」
    訝しげに首を傾げた男は、林檎のような赤毛を目が覆われるほど長く垂らし、低くトーンの変わらない声でモソモソ喋った。
    メロイの名前は他で聞いた事がないため、どうやら「メロりん」で合っているようだが、様子がいつもと違いすぎている。
    一言で言えば「芋っぽい」。
    ジーパンに仕舞い込まれているチェックのシャツは似合っていなくて、いつもと比べ姿勢も良くない。身だしなみを気にしている感じがあまりないように見えた。
    「あれ…俺達一緒に歩いてた…よね?そんなカッコしてなかったよね…?さては俺ン事からかってる?」
    「え、いや…」
    「…いや、メロりんそんな事してきてもおかしかないからな…。ふーん?……『初めまして』、俺はリビン。ティアロン・リビンだよ。リビンくんて呼んで。オニーサン今いくつ?」
    「え。えと…はあ。今?22歳…」
    「エッ同い年設定…?あ、いや、何でもない。俺も22!よろしくね、メロりん」
    メロイが初対面の振りをしてからかっているだけだと結論づけたリビンは、からかいに乗ることにして明るく自己紹介をした。
    なんだか懐かしい感じがしてちょっと面白い。
    …からかうにしても、演技が上手すぎやしないだろうか?それに、見た目も年齢も変える必要はないのでは?
    そんな事が一瞬頭をよぎったが、手を引いて歩き始める時にはとっくに霧散していた。


    ◾︎


    「メロりんはさ、何して遊ぶのが好き?」
    「遊ぶ…うーん。…本読むくらいしか趣味ないんだよね」
    「え、トランプとかは?よくやってるじゃ…やってる人いるじゃん」
    「んー…トランプのルールあんまり知らないし…忙しくてやる相手いないから」
    「えー。忙しいって、普段何してるの?」
    「両親の手伝い。食堂やってるんだ。夜は酒場にもなるからそんなに自由時間なくて。あ、ここ」
    そんな話をしながら歩いているうちに、こじんまりとした食堂に辿り着いた。そこそこ賑わっているようで、食器のぶつかる音、肉の焼き上がるような音と共に腹の空く匂いが漂っている。
    入口はスイングドアになっており、その向こうでは赤髪の女性がせっせと給仕をしていた。
    キィ、と開けると彼女がぱっとこちらを振り向く。
    「あ、お帰りメロイ。休みなのに悪いんだけどちょっと入ってくれる?何だか忙しくなっちゃって」
    「うん」
    「…お隣は?お友達?どうぞいらっしゃい」
    「あ…お、お邪魔します…。……ね、もしかしてメロりんのお母様…?」
    「そう。ごめん、ちょっと手伝ってくるから、適当に座ってて」
    流れるように席につかされたリビンは、きょとんと店内を見渡した。
    優しい照明の下に、4、5人くらいの客が囲う円卓が並んでいる。メニューはバラエティ豊かで、名称は分からないが様々な料理がテーブルに置かれていた。
    赤くツヤツヤなポニーテールを揺らす女性──メロイの母親は、髪色は彼と同じだが瞳は深い青色だ。それでいてまつ毛の生え方は彼っぽい。
    柔らかな雰囲気の美人であった。
    「…でもあんま似てないな」
    賑やかな店内で一人ポチンと呟く。
    こうなるとお父様も拝見したい所だが、それらしき姿は見えなかった。
    「リビンくん牛乳飲める?」
    「あ。いただきます」
    コップに並々注いだ牛乳を出され見上げると、湯気の立つパスタと2人分の食器を盆に乗せて持つメロイが立っていた。
    ふと澄んだ赤い瞳と「目が合う」。
    「わ、バンダナしてる!エプロンかっこよ!」
    「ありがとう…?まあ飲食業だしね」
    「…ふふ、ちゃんとメロりんの目の色だ」
    「…何言ってんの?まあいいや。父さんがまかない作ってくれたんだけど、一緒に食べる?てか食べて。友達連れてきたって母さんが言っちゃったんだ。こんなん食べきれん」
    「わぁ…確かにボリューミー…。ってお父様いらっしゃる!?」
    「?厨房にいるよ。…ただきまーす」
    それならもしかしたらチラリとでも見られるだろうか。どんな人だろうか。
    ソワソワしだしたリビンを他所に、メロイは自分の分のパスタをよそい、黙々と口にしていた。慌てて自分の分も貰って、いただきますと小さく口にしてからもそもそ食べる。
    粉チーズのかかったボロネーゼ。船のコック達が作るものとは違いつつ、これもまたいくらでも食べたくなるような味わいであった。
    「んわ、うま!」
    「はは、良かった。父さんに伝えとくよ」
    あ。今日初めて笑った顔見た気がする。
    やはりいつもと同じ笑顔だと思いながら食べ進めていると、いつの間に食べ終わったのかメロイが席を立つ。
    「ご馳走様。俺手伝ってくるね。食べ終わったらそのまま置いといていいから」
    「ング、お、お代」
    「まかないだからサービス。落ち着いたら戻るけど、時間もしアレだったら帰っちゃっていいからね」
    「ま、待つよ。メロりんが働いてるとこ見たい。頑張って」
    「…変なの」
    食べ終えた食器を持ち、厨房へ入っていった。
    料理の受け渡しの為か背の高いカウンターのようになっていて、厨房の中の様子が少しだけ見える。
    手早く食器を洗って、中の誰かとやり取りをしていた。
    「…わ…あれお父様…だよね…!?に、似てる…若パパ…」
    中で話をしている相手の男性は、瞳の色も目鼻立ちもメロイとそっくりだった。バンダナに仕舞われた髪色こそアッシュグレーで、本人とは違い口元にほくろがあるものの、彼がもう少し歳をとればこうだろうかという精悍な顔立ちである。
    「パパ似なんだ」
    指示を受けたのかメロイは出来上がった料理皿をテーブルに運んでいった。コックではなくウェイターらしい。戻り際に注文を聞いたりしており、随分慣れている。
    「なんか落ち着くな…フア〜ァ…」
    満腹感と程よい雑音で、何となく眠くなり欠伸が出る。
    メロりん待つ間だけ、少しだけうたた寝させてもらおう。
    少しだけ。
    …メロりん初対面の時あんなぶっきらぼうだったっけ…。


    ◾︎



    「最近上手くいってないんだ」
    メロイの沈んだ声にハッと目が覚めた。
    場面が転換し、二人は川の見える土手に並んで座っている。夢の中では一年が経っている。
    リビンはつい先程まで食堂にいたのをあまり知覚すること無く、気落ちする友人の様子を見た。
    「上手くいってないって…食堂のこと?」
    「食堂も、両親も。なんかお互いによそよそしくっていうか、ギクシャクしてて。そんな雰囲気だからお客さん寄り付かなくなってるっぽい」
    「…そ、か…」
    そういえばいつだったか、メロイの両親は二人ともそれぞれ不倫をして離婚になったと聞いた気がする。
    家庭が上手くいっていないせいで経営に陰りが見え、またそのせいで家庭内の雰囲気が悪くなる。
    そんな悪循環の果て、その結果だったのだろうか。
    「俺が頑張んないとね」
    前髪に隠れた目は何を見ているか分からない。
    独り言のように言った横顔を見て、ふとリビンはようやく自分が彼の過去を夢にでも見ているのではないかと感じた。
    メロイの生い立ちをこんなに詳細に聞かされた事は無い。されど妙にリアルで、本当にこれが過去の彼なのではないかと思ってしまう。
    「…ま、そんな事は置いといてさ。聞いてよ。最近…たまに来てくれる女の人とさ…なんかいい感じかもしれなくて」
    「エッ!?も、もしかしてこ、恋バナ…!?どどどんな人?」
    急な展開にリビンは思わず乗り出して聞いた。
    メロイが恥ずかしげに語るのは、ブランカという女性の話だった。
    年上で余裕があって、たまに悪戯っぽく笑う顔がかわゆいブロンドのレディ。
    『ねえ坊や、一緒に酔わない?』
    と。
    酒場として店を開けたものの、客入りが良くない夜だった。その日は両親に店番を任され、メロイは一人であった。
    初めての誘い文句に戸惑ったが、ひと瓶のラムを二人で空にし、客のほぼいない店内でクスクス笑いあったのが初めの出会いだそうだ。
    それから別に進展したわけではない。時々ふらりと彼女がやってきては酒を飲み交わすだけの関係。
    背中まで伸びる金髪が身動ぎの度に煌めいていたのを、よく覚えている。
    「ほへー…なんか…オトナな付き合い方って感じする…」
    「まさか!何話せばいいか分かんないんだ。初めてなんだよこの歳になって…恋、なんて」
    片手で顔を覆い、チラと見えた耳は赤い。
    「…メロりんから昔の恋バナって聞いた事なかったよな…?」
    「え?何?」
    「何でもないよん」
    リビンはこの恋の結末は知らない。ただ、陸に置いてきた彼女がいるとかいう話を聞いた事は無い。そのような女性の話をされたことも無い。
    海賊である事で飛び火しないように大事にしているのか、それとも。
    「…お付き合いとか…できたらいいなって、思う」
    「…そだね、頑張れ!」
    小さくはにかむ顔を見て、まさか無粋な事は言うまい。
    それよりもこうして、悩みを打ち明けてくれる事の方が、リビンは大事に思えた。「初対面」よりもずっと仲良くなったという事だ。
    「また話聞かせてよ」


    ◾︎


    次の場面。
    二人は公園のベンチに腰掛けコーラを飲んでいた。
    夢の中ではメロイの初恋の打ち明けからさらに一年経っていた。
    夢であるが故に、例によってリビンは場面転換に気付かなかった。ああもう一年経ったな、というだけ。
    「リビンくん」
    「なーに?」
    「良い話と悪い話、どっち先聞きたい?」
    「わ!出たそれ!劇で見たことあるやつ!…じゃあ…悪い話?」
    「悪い話ね。離婚する事になった」
    「……ぁ…え、と……」
    そうあっけらかんと告げられ、リビンは咄嗟に反応できなかった。
    離婚。あの両親の離婚か。
    結末を知っていただけに、どう返事をすればいいのかが分からない。
    「………」
    「なんかさ。不倫してたんだって。どっちも。笑えるっしょ」
    「……えと…いや……」
    「…笑ってよ。……どうしてなんだろう。母さんも父さんもさ、そんな事するような人達じゃなかった筈なのに……」
    「………」
    自嘲気味に溢れた言葉をただ聞いてやる事しか出来ないのが歯がゆかった。
    すん、と鼻を吸う音がしてちらりと横顔を見るが、相変わらず目元が隠れていて表情が読めない。
    「……ごめん、なんて声かければいいのか…」
    「…いや、いい。大丈夫。聞いてほしいだけだから…」
    「…うん…」
    「……両親のこと、どっちも尊敬してて好きだったんだ。父さんはかっこいいし、母さんも気配り上手で…なのに、二人ともそんな事になって。……俺の事、どっちが引き取るとかって話になったけど……なんかもう、気持ち悪くなっちゃって……一人で生きようって」
    「……そ、っか……」
    「正式に決まるまではまだあの店離れる訳にはいかないんだけどね。二人ともほっぽって俺に押し付けようとしてんじゃないかな…。ウケんね」
    「………」
    メロイがコーラの瓶をあおり、少しだけ目が覗き見えた。
    涙は滲んでいなかった。
    暫しの沈黙。
    「…でさ。こっから良い話というか…や、悪い話と釣り合ってないかもなんだけど…」
    「う、うん。何かあったの?」
    「その。ぶ、ブランカさんが付き合ってくれる事になって…」
    「…え!ほんと!?おめでとう!!」
    「あ、ありがとう……まああの、全然そんな場合じゃないとは思うんだけど……えへ……」
    「ううん、いいじゃん!え、え、どんな流れでお付き合いを…?」
    いつかのように照れながらも、少しずつ語ってくれる話をウンウンと聞く。
    夜にまたやってきたブランカは、落ち込んでいたメロイの話を一晩中聞いてくれたそう。
    その晩はまた一人で店番をしていたが、雨もあり早めに閉めてしまおうと思っていた矢先である。
    いつものようにカウンター越しにぽつぽつと話をし、時折酒で口を潤す。
    メロイが悩みに言葉を詰まらせる度ワインを注いでやり、募る苦しみをアルコールに浸してはとりとめのない話をした。
    早閉めと言えど店を閉める頃にはクテクテになってしまっていたが、その日は両親は帰って来なかった。
    片付けと掃除をしながら、どうせ二人別々に不倫してんだと零した口を、紅色の唇で不意に塞がれる。
    「ワーッ!!キャーッ!?えファーストキス!?ファーストキス!?レモン味した!?」
    「あああうるさい!!騒ぐな!!ここまで言わなきゃよかったマジでクソッ!!」
    「キャッキャッ」
    …そして。
    『慰めてあげましょうか』
    首元まで真っ赤になって座り込んでしまったメロイの顎に手をかけ、ニッコリ微笑みそう言った。
    クテクテの頭では何が起きているのか、何を言われているのか分からず、はくはくと口を開けたり閉じたりするしかなかった。
    それ以降は記憶が無く、店のカウンターで酔い潰れていた所を明け方父親にしばかれたそうな。
    「…多分そういう事はしてない…と、思う…けど、その次会った時にさ」
    数日経ち、街で偶然会った時。
    『ちゃんとお付き合いしてからでないとお嫌かしら。坊や初めてだものね』
    何を話せばいいか分からなくなったメロイに、クスクス笑いかけた。
    可愛い。一緒に居たら楽しそうだから付き合ってみない?と。
    「……へぇー…なんかこう…すっげーお姉様って感じだね…」
    「うん…なんか色々信じられない」
    ぽやんと頬に手を当て思いに耽けるメロイを見ながら、リビンもコーラを飲んだ。
    初恋成就をめでたいと思う反面、なんだか少し心配になる付き合い方な気もする。
    どうしても遊ばれてしまっているように思えてしまうのだ。
    だが自分も恋愛経験が豊富なわけではないから、アドバイスのしようもない。何となしに胸騒ぎがするのを抑えられずにいる。
    「おめでとう」
    「ありがとう」
    どうか泣いてほしくないな、とはにかむ顔に思う。
    大切な友人の幸せを願わずにはいられなかった。


    ◾︎


    「メロり……メロイくん、どうしたの」
    夢の場面転換。リビンはいつの間にか息を切らせ彼を探していた。
    辿り着いたのは月が見える石橋の上。
    アブサンの瓶を片手に、ぼーっと空を見上げるメロイがいた。口が僅かに開いていて、時折しゃっくりをする。
    「アハハ!リビンくんだ!久しぶりじゃん!アハハハ!」
    「えちょ、酒臭!!大丈夫!?どんだけ飲んでんの!?」
    「なにが?アハハリビンくん肩に妖精みたいの乗ってるよ」
    「は、え何?何見えてんの…?ねえ、何かあったの?何があったの」
    メロイの両親の離婚が決まり、初恋成就の話を聞いてからまた一年後であった。
    よく見ると瓶の中はほとんど空で、十中八九幻覚を見ているのだろう。
    「ねえ、バカだったんだよ俺、どうしよう、アハハ」
    「ちょ落ち着いて、とりあえず座ろ、ね」
    「ブランカさんに捨てられたんだ」
    「………っね、座ろう。落ち着いて話そうよ」
    「アッハハハ!みーんなおしまい!」
    「おしまいじゃないから。…よいしょ」
    奇しくも船員である時の彼がするのと全く同じ高笑いを耳にしながら、川に落ちないように座らせる。妖精にでも釣られて足を踏み外してもおかしくない。
    熱い体を正面から支えてやると、メロイは酒瓶を投げ捨てリビンの体をかき抱いた。
    「わ」
    「リビンくん、ねえ聞いてよ、酷いんだ。父さんと母さんの不倫、あの女のせいなんだ」
    「……え?」
    「父さんがあいつに誑かされて、あいつの連れの男が母さんを誑かしてたって。俺たちの店…土地とか狙ってたんだって。ぜぇんぶ取られた」
    「………そんな」
    「最後になんて言ってきたかわかる?『坊やはもう用済みなの。じゃあね』って。気付いたら乗っ取られてて。取り返したかったけど怖い人達に囲まれてね、どうにも出来なくなっちゃった」
    「…………」
    笑いながら零す声がだんだん湿っぽくなっていき、最後には鼻をすする音がした。
    いつかの時は泣いてはいなかったが、今はどうか。
    顔を見て慰めたくて、体を離す。
    髪がよれ赤の瞳が覗く。
    口元は笑みを形作りながら、その赤い両の目からは滂沱の涙が溢れていた。
    かつて見た事のないような泣き顔に、憐憫と、女達に対しての怒りを覚え、再度メロイの体を抱き締める。
    抱き返す手は涙とアルコールで酷く震えていた。
    「グス。ねえリビンくん、俺の人生ってなんなのかなぁ。なんでこんなことになっちゃったんかなぁ。家族も恋人もどっちもなくなっちゃった。俺が悪かったのかなぁ。大事にしたかった店もなくなっちゃった」
    「メロイくんが悪いことなんてなんにも無いよ」
    「…アッハハ!なんかもうわかんないし死んじゃおかな!アハハハ!」
    「君が死ぬくらいなら俺がその女殺してあげるよ」
    「……好きだったんだ。すきだったんだよ。本当に、好きだった…。き、きいで…ズビ。さいごの時できれいで…ハハ…ふふ…うう……うー………」
    あいつだとかあの女だとか言っていたのに、喋るうちに大事な人のような話し方になっていた。
    この一年間、幸せな交際をしていたのだろう。今のメロイには憎みきれなかったのだ。
    そして、いくつもの宝物が突然無くなってしまった巨大な喪失感も、今の彼には御しきれなかった。
    リビンに縋るように抱き締める間、彼はどんな夢を見ていたか。ブランカの幻影かもしれないし、そうでないかもしれない。彼にも分かっていないだろう。
    「おれ、つよくなる。あとかしこくなって…あとかっこよくなる。かっこよくなってさ、あの人みたいにいろんな人といろいろ遊んでたらさ、あの人のこと忘れられるかなぁ。こんな気持ちも…無くなる、方法…分かるかなぁ…」
    「……………………」
    呂律の回らない口からとろとろ吐き出された言葉に、リビンはただ彼の背中を撫でた。
    そのうち眠ってしまったメロイをおぶって、リビンはどこかへ向かった。
    あの食堂に行こうとしたのか、船に連れていこうとしたか。
    どこかは分からなかったが、今すぐ連れて行かないといけないと思ったのだ。


    ◾︎


    …………。
    「リビンくーんいつまで寝てんのー?」
    「…………フォッ!?」
    リビンは目を覚ました。夢から覚め、目の前にいるメロイは船上の格好──スカーフにシャツ、シンプルなベスト──だった。
    遊んでいるうちに昼寝をし始め、夕飯の時間になったから起こしていたのだ。
    メロイは自分をまじまじと見つめてくるリビンに首を傾げながら、少しついた寝癖を整えてやる。
    「なんか難しい顔してるけど変な夢でも見た?」
    「……いや……」
    実の所、夢の記憶は些か朧気である。彼の両親の顔も思い出せないし、橋の上で話していたことも途切れ途切れにしか覚えていない。
    だが、一つだけ鮮明に覚えているものがあった。
    「メロりん」
    「なーに」
    「……ブランカって女の人、知ってる?」
    その名前を口にした途端、髪を撫でていたメロイの手が止まる。
    動物が何かを見つけたような、こちらを見据える目に思わず閉口する。
    そのまま少し間が空いて、不意にメロイは笑った。

    「知らない。そんなアバズレ」




    終わり
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