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    おわり

    @owari33_fin

    基本的にアズリド/フロリド同軸🆚
    ここに上げたお話は、大幅に加筆してpixivに置いてます→pixiv https://www.pixiv.net/users/31202925

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    ミーティア3️⃣後編-14 『燻ぶる世界』

    「あ〜悪い、手が滑った」
     頭の上、二階階段の踊り場から、汚れた水と雑巾がオレめがけて降ってきた。オレが今着てるハーツラビュルのやたら派手な寮服は水浸しで、汚ねぇ水のせいで白い部分が茶色く汚れてた。
    「お前ら何やってんだよ!? トレイ先輩に言いつけんぞ!!」
    「リーチ先輩! 大丈夫ですか!?」
     オレの横に投げつけられたバケツの大きな音で、カニちゃんとサバちゃんが気づいてすっ飛んできた。
    「わりぃわりぃ、ちょ〜っと、手が滑ってさぁ……」
     ニヤッと笑うふざけた態度に、ザバちゃんが「こんなイジメみたいな腐ったことしてんじゃねぇよ」と静かにキレて、カニちゃんも「お前ら、寮長が手紙で書いてたの読んだんだろ!? フロイド先輩は悪くないって寮長が言ったんだから、もうこんな事すんのやめろって!」と怒ってる。
     カニちゃんの言葉に、オレにバケツの水ぶっかけた二人が顔見合わせてムッとした顔をした。
    「はぁ!? なんでお前らこいつの肩持ってんの? おかしくね??」
    「寮長がなんと言おうが、こいつのせいで寮長がいなくなったのは間違いないだろ……なのに、なんでお前、転寮なんかしてきてんの? 頭おかしいんじゃね??」
     もう行こうぜって、金魚ちゃんが付けた、ダイヤとスペードのデカめのマークが入ったトランプ兵は、怒りながらどっかに行っちまった。
    「フロイド先輩、とりあえず着替えて服洗いましょう?」
     カニちゃんがオレにそう言って気を使ってくるけど、オレはイイって断ってひとりで部屋に戻った。
     転寮して与えられたオレの部屋は、三年生と同じフロアの一人部屋だった。ウミガメくん曰く『二年用の二人部屋に空きがない上に、じきに三年に上がるから、先に三年用の部屋を使えばいい』との事だったが。どう考えても他の雑魚寮生に恨まれてるオレの事を考えてだ。
     寮内で揉め事を増やさないため……いや、それ以上に『フロイドは悪くない』と言った金魚ちゃんの気持ちを優先するためだろな。部屋も、ウミガメくんとハナダイくんのすぐ近く、オレにお礼参りするような寮生が現れても秒で対処できる位置をオレの部屋に決めた。
     チカチカするカラーリングの寮の廊下を抜け、部屋に戻ってもやたら赤い色が目に入って痛いぐらいだ。
     もう転寮して一ヶ月になっても、オレはどうにもハーツラビュルに慣れることがなかった。金魚ちゃんのような真っ赤な寮は、赤と黒と白を基調にやたらと派手な装いだ。金魚ちゃんの部屋に初めて踏み入ったあの最悪な夜、あのときには薄暗くて気づかなかった派手な色の天蓋が、ベッドに寝転んだオレの視界に広がる。
     オクタヴィネルとはチガウ、めちゃくちゃ派手なハーツラビュル……転寮して一週間は、薔薇の匂いと甘い菓子の匂いで鼻がバカになってた。今でも、胸焼けしそうな甘い匂いに、ミント強めのキャンディーを口いっぱい頬張りたくなる時がある。
     溜息ついたら、土臭い埃の混ざった匂いがして、さっきのバケツの汚ねぇ水を思い出す。ついでに、さっき頭の上に乗っかかってた雑巾もどこ拭いたんだよってぐらい汚く汚れていた。普段のオレなら、一瞬でこんな事してきた雑魚を絞め上げていたけど、今はどうにもそうする気になれない。
     この嫌がらせは、オレがあの事件後、ハーツラビュルに転寮してから毎日のように食らわされてる。それは、物を隠す、壊すなんて典型的なやつに始まって、影でヒソヒソ悪口言ったり、直接ぶん殴りに来たやつもいた。
     オレが人前で金魚ちゃんにあんな事をして、その後すぐにどっかに雲隠れした金魚ちゃん。寮の奴らは、金魚ちゃんが消えたのはオレのせいだって思ってる。それはオレも、オレのせいで金魚ちゃんが隠れなきゃいけなくなったと思ってる。
     あの日、無理やり金魚ちゃんを抱いたあの日、金魚ちゃんはずっとオレの稚魚だけは産みたくないと泣いていた。それだけ嫌だったくせに、金魚ちゃんは手紙でオレにありがとうと言って、自分の代わりに学校を卒業するようにって言ってきた。
     今のオレにとって、その金魚ちゃんの言葉が全てだ。その言葉を守るためだけに、ギリギリの気持ちを繋いで、オレは今ここにいる。金魚ちゃんのいない世界。日々色を失って、つまんなくて、苦しい。
     時計を見れば、一六時。今日はフラミンゴ当番の日だ。起き上がり、ペンをひと振りして体についたくせぇ水を窓の外に飛ばして、オレはチェストの中を漁る。ハーツラビュルに転寮したときに買い足したショッキングピンクのTシャツとパンツを着て小屋の前まで行けば、他の当番のやつはまだ来てなかった。
     またサボりやがったんかなって、オレはひとりで掃除を開始した。エサ箱洗ったり、小屋の中の水場をブラシで擦ってキレイにして、もちろん水も入れ替えた。半分ぐらい掃除が終わったところで、白いTシャツとジャージ着たやつが、慌てて小屋に入ってきた。
    「すまん! 当番なの忘れてた!!」
     今日の当番はオレ含めて五人、そのうちの三人がサボって、こいつだけは純粋に忘れてたみたいで、オレはちらっと見て「べつにぃ」って一言。そいつは、まだ掃除してない箇所をオレから聞いて、ブラシで掃除をし始めた。そいつは、オレに話しかけながら、遅れた言い訳をしてんだけど、それよかさぁ……
    「な〜んでオマエ、白Tなんて着てんの?」
     オレがそう言ったら、なんか急に慌てて「え!?」とか言ってんの。
    「『第249条:フラミンゴの餌やり当番はピンク色の服を着用すること……』金魚ちゃんがいねーからって、法律ルールやぶってんじゃねぇよ」
     たく……って舌打ちすれば、クローバーのスートの入ったトランプ兵は「リーチ、お前、ハートの女王の法律なんて覚えてんの?」ってオレのことバカにしてきた。
     ハートの女王の法律なんて、一年の頃から金魚ちゃんが度々口にしてた。寮生になる前から覚えてる法律なんてたくさんある。
    「はぁ? オマエさぁ、オレのことバカにしてんの?」
     イラッとなれば、「いや、以外だと思って」なんて、すっとぼけた顔してんの。
    「ミシマオコゼみたいな顔してんじゃねーよ」って言えば、ははっと笑ったクローバーのトランプ兵は「お前って、本当に寮長のこと好きなんだな」ってなんか笑ってんの。
     何分かりきったとこ言ってんのこいつって、オレの浮かべた変なもん見る顔に、そいつは、ははって笑って掃除を再開した。
     いつもなら、オレを邪険にするトランプ兵ばかりなのに、その変なトランプ兵は、掃除の合間合間にオレに『オレの知らない寮長してる金魚ちゃんの話』をして聞かせ、オレはほんの少しだけ、最悪な気分がマシになった。
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