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    おわり

    @owari33_fin

    アズリドとフロリドをぶつけてバチらせて、三人の感情をぐちゃぐちゃにして泣かせたい

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    おわり

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    『それは、終焉という名のミーティア』 リドル視点
    フロリド・アズリド同軸 男性妊娠

    キミは始まりのミーティア 前編 1 それは、まるでボクに拾われるのを待っていたかのように、目の前に転がっていた。

     週に一度、ボクの健康ためという名目で行われる数十分程度の公園の散歩は、先を歩くお母様の後ろを付いて歩くだけという簡素なものだった。
     けれど、机の上に積み上げられた参考書や、実践魔法の訓練、社交のために必要な礼儀作法やダンスと、挙げればきりがない勉強漬けのボクにとっては、ただ歩くだけであっても勉強から離れられる時間は、毎週の楽しみだった。
     もちろん勉強が嫌いなわけではない、ただあの息が詰まる様な部屋から出たかっただけなんだと、今になって思う。
     そしてその日の散歩もいつもと変わりなく、鳥のさえずりや、木々が揺れ葉が擦れ合い立つ音を聞きながら、ボクは緑の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。この数十分だけは、あの時のように約束を破って失わない様、大切にしなければならない。
     ふと視線を向けた先に、それは落ちていた。
     キラリと光るガラスのように透き通った赤い石を、しゃがみこんで拾えば、手のひらがじわりとあたたかい。このきれいな石は、何なんだろう? 割れたガラスの破片か、宝石か……正体を見極めるようにしげしげと見つめる。
    「リドル何してるの、早く来なさい」
    「……はい、お母様」
     お母様の声が突然聞こえて、ボクの肩はびくりと跳ねた。
     振り返ったお母様は、眉間に皺を寄せボクの指先に付いた土汚れを不潔そうに見た。怒られると思ったボクは、咄嗟にキレイな小石を元あった場所に捨て置く。
     まだ幼い子供のように分別無く、小石を拾ったことを気づかれていないだろうか? と、額に汗が浮かび、ボクの体は赤く塗られたお母様の顔を想像しこわばった。
     けれどお母様は声を荒げる事なく、金色のなめらかな糸でバラの刺繍が施された真っ白いハンカチで、ボクの指先を拭う。キレイなハンカチが土で汚れると、自分がしでかした幼稚な行為を咎められた気がして、罪悪感で胸が一杯になった。
    「土なんて触ったら手が汚れるでしょう? 不潔なことはしないで」
    「はい、お母様」
     ボクは、お母様から注がれた視線に耐えられず、うなずくふりをして地面を見つめた。そんなボクの浅はかで卑怯な考えをお見通しだったお母様は、小さく溜息をつき、ハンカチを鞄にしまうとボクに背を向け歩き出す。



     孤独に蹲るボクに、歪に赤く燃える石が願いを問う。

     汝は何を願うのかと。

     ボクはただ、頭を垂れて祈った。

     どうか、ボクに素敵であたたかな家族を……

     赤い石は、ボクの願いを聞き届け、

     ボクの頭上に、数多の星を落とす夢を繰り返し見せた——





     * * *

     家族のことを思い出すのは、いつも胸が傷んだ。
     記憶の中のお母様の顔は、いつだって赤か黒に塗りつぶされ、ボクは実際のお母様がどんな顔をしていたのか、分からないことに気がついた。
     机に立てかけ、いつも見ているはずの写真の中では、ミドルスクール卒業の際に近所の写真館で撮影し、今より少し幼く見えるボクの隣、同じ赤毛でよく似た顔つきのお母様が無機質な表情で写真に写っている。
     毎日見ているはずなのに、ボクにはどうしても、そのお母様の顔を思い出すことが困難だった。
     ボクの記憶の中のお母様は、長いスカートの裾を揺らして歩く後ろ姿か、四角くカットされた靴先だけ。
     子供の時からあれだけ側にいて何度も見てきたはずなのに、ふとその顔が出てこない時、ボクは本当にお母様との関係が希薄だと思い知らされる。
     ボクは何も知らない。お母様がボクにしてくださった事は全てを覚えているのに、お母様の事は何も分からないかった。どんなものが好きで、何に関心があるのか……親子なのにそういった事を一切知らない。それが酷く寂しい事に思えた。
     産まれてから一度もお会いしたことのないお父様に至っては、研究論文の内容と、そこに添えられた紹介写真が全てだった。婿養子でお母様と結婚したものの、夫婦別姓で苗字も違う写真の中の白衣の人物が、本当に自分の父親なのか現実味がない。
     ナイトレイブンカレッジに入学して、四六時中、年の近い彼らと接していると、会話の節々から自分の家族関係が異質なことが分かり、尚の事胸がざわついた。
     ボクは魔法医術士という尊い仕事に心血を注ぎ、ルールに忠実に生きるお母様を心から尊敬している。お父様に関しても、魔法医学や魔法薬学の歴史に一石を投じる革新的な論文を書かれていて、生まれてこの方一度も会ったことがなくとも、その経歴はボクをとても誇らしくさせた。
     ボクの両親は、本当に素晴らしい尊敬に値する人たちだ。だからこそボクは、お母様とお父様が胸をはれるような子供でありたいと思っている。
     しかしそれとは別に、どうしようもなく寂しい時がある。その寂しさを埋める方法をボクは知らない。教えてもらったことがない。ボクには家族というものが分からないのだから。
     なのに、唐突に引かれた強引な腕に、その高揚感に、ボクは長年ずっと空いたままだったその穴を、気まぐれなキミの熱で埋められたんだ。

    「ほら行こう、金魚ちゃん!」

     笑顔のキミに手を引かれて、青いケーキを食べに連れ出された瞬間……手のひらの熱が伝わり、目の前が広がったように思えた。

     腹立たしい出会いから、積み重なっていくキミとの思い出。
     キミが押し付けてきたインクも、誕生日にいらないからと渡してきたブックバンドも、最初は追い回されて腹が立って怒っていたボクなのに、いつからそれを不快に思わなくなったんだろう?
     思い出そうとするといつも、ボクの頭上遥か彼方から、流星が落ちる。何度も繰り返し、決してあの時の願いを忘れぬように、赤い石がボクにみせる夢……
     あぁ……あの石は、呪石だったんだ。


     * * *

     震える瞼を押し上げて、ボクは目を覚ました。
     まだ頭がぼんやりしたボクは、青白い光に包まれた部屋の革張りの硬いベッドに寝かされていた。独特の冷たさが肌に伝わり、少し不安になる。
    「リドル・ローズハートさん、おはよう! 兄さん、リドル・ローズハートさんが目を覚ましたよ」
     自動ドアが開いた方に首を動かすと、イデア先輩がタブレットを手に近づいてきた。その目線はいつも以上に落ち着きがない。
    「あー……リドル氏、身体の方はその……大丈夫?」
     声を出そうとすると、喉が引っかかり咳き込んでしまった。二人がボクに心配する声を掛けたのを手で静止しながら、オルトから受け取ったペットボトルの中の水を口に含み飲み込む。これだけの動作も億劫だ。
     カラカラに干からびた喉を水で潤して、何度か咳を繰り返すと幾分声が出やすくなった。
    「イデア先輩にオルト……どうしてボクは、イグニハイドに……?」
     学園内でこれほど魔法エネルギー工学の設備が揃っているのはイグニハイドに他ならない。だが自分がどうしてここにいるんだろうか? 頭も身体も痛くてボンヤリする、極度の疲労感に目を閉じるとすぐさま眠ってしまいそうだった。
     自分の身体に貼られた無数の魔導電極パッド、壁にいくつも埋め込まれた大型モニターに映し出されたそれは、ボクの魔力波形のようだ。
     イデア先輩をぼんやりと見上げると、普段の彼にしては見慣れない表情で、ベッドに寝転ぶボクを見下ろしている。
    「リドル氏、過去に誰かに呪いをかけられたとか、呪石みたいなのに触った事ない?」
     唐突な質問に、ボクは頭をひねる。呪いに呪石、ボクの人生に馴染みのないはずの言葉に、先程見た夢を思い出した。
     そうだあれは、夢ではなく実際現実にあったことだ。
    「子供の頃、呪石とは知らずに、触れた可能性があります……」
     やっぱりと呟いたイデア先輩は、モニターに映されたボクの魔力波形に被さるように伸びた〝何か〟を表示する。それは血管のように体中に張り巡らされた魔力に張り付く様に伸び、腹の中で空洞を作っている。その形はどう見ても、女性のお腹の中にある子宮そのものだった。
    「な……んで」
     ゾッとしてお腹を抑えると、イデア先輩の居心地の悪そうな視線が肌に刺さる。
    「リドル氏が呪いに何を願ったのかは知らないけど、子供の時に願った呪いが不発のまま消えること無く、身体に巣食ってたみたいだね。それが先日の呪石加工の授業で別の呪いと結びついて、使えるフロイド氏を巻き込んだってとこかな」
     イデア先輩がアイツの名前を呼んで、意識が飛ぶ寸前の光景がフラッシュバックした。
     フロイドにぶつけられた暴力的な熱と快楽と痛みを思い出し、ヒュッと喉が鳴り、何もしていなくとも身体から汗が吹き出す。息が出来ない。苦しくてはくはくと呼吸を繰り返すと、それを見ていたイデア先輩がオルトを呼んだ。
    『バイタルに異常発生、心拍数血圧共に上昇、ノルアドレナリン量の過剰分泌を確認しました。これより対処行動を行います』
     プレシジョン・ギアのオルトの手が伸びて、ボクの身体に注射針を刺した。少しすると、心拍数が通常に戻り、呼吸もずいぶん落ち着いてきた。
    「フロイドは……?」
     ぐったりとベッドに身を横たえ、ボクはあいつがどうなったのかとイデア先輩に尋ねた。
    「部屋で自粛。今、学園長や先生たち、トレイ氏やアズール氏なんかと、この件に関してフロイド氏の処分をどうするか話してるはずだよ」
     処分と聞いてボクの心が大きく跳ねた。
     あの時、ボクにあんな事をしでかし「稚魚を産んで」と言ったフロイドは、性器の高ぶりとは真逆の、今まで見たことが無いほど青い顔色をしていた。
     ダラダラと彼の額から流れ落ちる汗、何かを振り切ろうと頭を振る仕草。第三者からのなんらかしらの干渉を受けていることは明白だった。
     そしてその第三者は、ボクにかかっていた呪いのせいだ。
    (ボクが、悪いんじゃないか……!)
    「イデア先輩、先生たちはどこで話しているんですか?」
     起き上がり痛む頭を我慢しながら、体中に付けられた魔導電極パッドのコードを引っ張り剥がす。
    「え!? もしかしてリドル氏、行くつもりなの?」
    「もちろんです。当事者であるボクがいないのに、フロイドの処分を決めるなんて間違っている」
     急いで部屋を出ようとしたら、今までに聞いたことのない声の大きさで叫ぶイデア先輩に「待ってリドル氏!」とストップをかけられた。
    「リドル氏は今や、学園の噂の的ですので……そんな格好で出ていったら拙者にまで非ぬ噂が立ちますゆえ」
     そんな格好と言われて自分の今の服装を見ると、検査着として身につけていた貫頭衣のような服装は、着丈も短く、左右腰横で結ばれた紐を解けば簡単に裸になれるようなデザインだった。さすがにこの服装でうろつくのは常識を疑われる。
    「はい、リドル・ローズハートさん。兄さんに変な容疑が向かないように、ちゃーんと服を着てね」
     少し咎めるような口調のオルトから制服を渡され、すまないありがとうとボクは制服を受け取った。機材の影で着替えていると、フロイドに噛まれた内腿の歯型や、掴まれた指型の赤黒い痣がちらりと見えた。
     それを極力見ないように、未だに重だるい体に無理打ってきっちりと制服を着込む。反射する透明ボードにちらりと映るボクの顔は青白く、酷い顔をしている。
     両手で顔をおおい、数回ゆっくりと呼吸をする。お母様に課せられた訓練を思い出せば、まだ耐えられる疲労のはずだ。魔力を最小限に押さえて身体強化の魔法を使う。よし、これなら大丈夫だ、ボクはまだ動ける。
    「イデア先輩、オルト、ボクはこれで失礼します」
     今度こそ退出しようとすると、イデア先輩に「ちょっと待って」と、再度止められた。
    「寮と校舎突っ切るなんて目立つでしょ……ちょっと一緒に来て」
     確かに言われていることは正しい、何か策があるのだろうかと、イデア先輩の後を着いていくと、すぐ横の彼の部屋に招かれた。その中央には、転移用の貴重なスクロールが置かれてあった。
    「学園長からリドル氏の事を考えて貸し出されたの。ウチに来るのも、誰にも見られてないから安心して」
     自分の事を考えてくれた事に素直に感謝すると、イデア先輩は変なものを見る顔で「別に」と口にして転移魔法陣を発動させた。
     転移した先は、学園長室の扉の前だった。
     ノックを二回、ドアの前で「学園長、リドル・ローズハートです」と名乗り入室許可を待つ。
     ボクの声に、室内がざわめくのが分かる。今すぐに飛び込みたい衝動を抑えて息を吐くと、学園長が「ローズハートくん、どうぞ」と入室を許可した。
     失礼しますとドアを開けると、学園長や先生方を筆頭に、トレイやアズールたちもこの場に呼ばれていた
    「ローズハートくん、もう身体は大丈夫なんですか?」
    「はい、問題ありません。ところで学園長、今回の集まりがフロイドの処分に関してと聞いたのですが、当事者であるボクの意見が最優先されるべきではないのですか?」
    「それは一理あります……ローズハートくんは、彼にどういった処罰を求めますか?」
    「彼に処罰は求めません、フロイドは被害者なんです」
     この場の全員が当然のように、ボクがフロイドを重く罰すると思っていたようだ。それなのに彼を庇護するような事を言ったせいで、みんなして耳を疑っている。
    「それは……どういう意味ですか?」と学園長がボクに問う。
    「フロイドがボクにこの様な行為を働いたのは、本人の意志ではなく、ボクが幼少期に知らずと受けていた呪いのせいです」
    「それは僕が説明するから、オルトあっちの壁に投影して」
    「はーい、兄さん!」
     オルトにより映し出された画像は、先程ラボで見たばかりの画像だ。最初に魔力波形を見せ、そこに重ねるようにボクの身体に巣食う呪いを映し出した。その異質な形に、この場にいた全員が絶句する。
    「今現在、リドル氏の身体の中は、呪いが隅々まで伸びて本人の魔力に張り付くように巣食ってる。解呪できない原因は、それなりに長い年月をかけてリドル氏の身体に同化して鳴りを潜めてたことと、昇華することで解呪されるタイプの呪いだから。これはS.T.Y.Xで検査したときにも可視化出来なかったな……」
     イデア先輩の説明に、ボクは俯く。皆の視線が、壁に投影された画像と、ボクの腹部を見比べ絶句しているのを感じるからだ。
    「これは……しかもこの空洞は」
    「ローズハート……お前は一体、呪いに何を願ったんだ」
     絞り出すように「……父と母がいる幸せな家庭です」と答えれば、先生方はそれが一体どうしてこんな事になったんだと、大きくため息を付き頭を抱えていた。そんな事、ボクが聞きたいぐらいだ。
    「呪いへの願いは歪むものだ、大方ローズハート本人が子を成して家族を作れば願いを成就できると考えたんだろう」
    「そんな馬鹿な……」
    「それが呪いに願うと言う事だ、そしてその分の代償もきっちり払わされる」
     その場にいた全員が再度ため息を付いて頭を抱えた。
    「呪石研究所の関係者なら……解呪できるんだろうか?」とトレイン先生がつぶやく。
     呪石研究所とは、その名の通り呪石の呪いや、そこから生じる魔力などを有効活用出来ないか研究している機関だ。呪石に関する論文も、ほとんどがこの研究機関の職員の手によって書かれている。
     それほどの機関なら、何か良い解呪方法を知っているかも知れない、みんなが一瞬希望を見い出したが、イデア先輩だけは否定的だった。
    「いやいや、無理でしょ。解呪を名目に、リドル氏を隔離して腹を開いて散々研究したあとに、『どうにもできませんでしたー』とかなんとか言ってムリヤリ子供を産ませて、その子供ごとモルモットにしかねませんぞ」
     モルモットという発言に驚くボクたちを尻目に、フヒヒと意地悪く笑ったイデア先輩は、すぐさまストンと表情を消した。
    「あそこは、表立っては健全なフリをしてるけど、呪石に関して見境がない。追い呪いマシマシでリドル氏に呪子を何度も産ませて、ゴア表現待ったなしのグロい実験に使われるなんてこともあるかもね」
     血の気が引く話に、想像したらからっぽの胃が逆流しそうだ。青い顔をしていたら、トレイがすぐさま席を立ち、ボクの背をさすってくれた。
    「まぁ、あの機関なら、もしかしたらもうとっくにリドル氏の存在に気づいて、攫う算段ぐらい付けてるかもね……だからさぁ、さっさと解呪したほうがいいよ。解呪方法は分かってるんでしょ?」
     イデア先輩の言う通り、ボクだけじゃない、ここにいる全員が解呪方法を知っていた。呪石の呪いは願いを叶えば解ける。つまり、ボクが妊娠して子供を産めば呪いが解けるということだ。
     男である自分が子を産んで親になるなんて、現実味の無い事など想像すらできない。なのに、青い顔をしたフロイドが、それでも嬉しそうに「オレの稚魚産んで」とボクに言ったあの光景が頭の中でリフレインしたが、それは次の言葉で無惨にも砕かれた。
    「だからさぁ、拙者もこんな事言いたくないでござるが、リドル氏はさっさと妊娠して堕ろしたほうがいいよ」
    「え……?」イデア先輩の言葉に、ボクは弾かれた様に顔を上げると、イデア先輩の奇妙なものを見る目とかち合った。
    「え……ってリドル氏、産んだら育てるつもりだったの?」
     産む産まないを考える前に、ボクには授かった子供を堕胎するという発想がなかった。呆れ返ったイデア先輩は、聞き分けのない子供に言い聞かせるように言葉を続ける。
    「あのねぇリドル氏、母体が呪いを受けていた場合、受胎した時点で一〇〇パーセント子供も呪いを受けて産まれるってのは常識でしょ?」
     リドル氏の優秀な頭なら、それぐらい分かるだろ? と皮肉めいた言葉に、トレイが「でも、産まれてみないことにはわからないんじゃないのか?」と、ボクを庇う様に意見した。
    「いやいや、男が呪いで子供を産めるようになるって時点でどう考えてもおかしいのに、どうしてまともに産まれてくると思えるんですかぁ? まず人の形で産まれて来れるかすらわからないのに? それこそ、臓器や生命維持に必須の器官を欠損した、人の形をしてない子供が産まれて、苦しみながら目の前で衰弱死するのを見届けなきゃだめになるかもよ? そんな地獄を見たいの? そもそもさぁ、わざわざ産んだ子供にそんな地獄を味合わせたいの?」
     イデア先輩の口から捲し立てるように出る正論に、ボクはとうとう耐えられなくなってその場に蹲った。バカにされても仕方ない、これは考え無しだったボクの落ち度だ。
    「イデアさん、その辺にしておきませんか? リドルさんもまだ気持ちの整理がつかない中で、その様に現実を突きつけられても簡単に受け入れられないでしょう」
     アズールが、イデア先輩を止めに入った。イデア先輩は「僕だってこんな役回りしたくないって……」と言って、学園長の机の上にボクの検査結果と転移魔法陣のスクロールを置いて、オルトに「帰るよ」と言った。
    「うん、兄さん……リドル・ローズハートさん、元気だしてね」 
     イデア先輩は、部屋を出る直前「胸糞悪、だから呪いは嫌なんだよ」と吐き捨てる様に呟いて、振り返ること無くオルトとともに部屋を出た。
     部屋の中は重苦しい空気に満たされ、それを振り払うように学園長が咳払いを一つ付く。
    「ローズハートくん、呪石の呪いを昇華させるまで、自室で過ごすようにしてください。勿論、呪いのせいとはいえ、あなたにあの様な行為を働いたリーチくんとは接触しないように。それ以外にも、他の生徒との接触も控えてください。またあの様な事が起こるのは、学園側としても断じて看過できることではありません。分かりましたか?」
     学園長に念を押され、ボクはトレイに支えられ立ち上がり、小さく頷いた。
    「先生方、そしてアーシェングロットくん、リーチくんの処分に関しては、ローズハートくんの意を汲んで不問とします。ただし、二週間は部屋で自粛するようにと伝えてください。それでは今日はこれで解散です」
     先生は口々にボクに話しかけて、何か力になれることがあるなら相談にのると言ってくれた。だが今は、考えることが多すぎて、頭どころか心がぐちゃぐちゃで何も言葉がでてこない。
     そんなボクを察してかトレイは少し声色を明るくして「寮に戻ろう」と、先生から手渡された転移魔法陣の描かれたスクロールを広げようとしたが、それを使う前に、学園長がボクに話しかけた。
    「ローズハートくん、候補になる相手がいるならそれでも構いませんが、いないようでしたらお金を払って外部から人を呼ぶことになると思います。その際はあなたのお母様とも良く相談して決めてください」
     お母様の名前を出されて、ボクは余計に言葉に詰まった。
     呪石に知らず触れて呪われ、男のくせに同級生に公衆の面前で犯されて、お腹の中に疑似子宮が出来て、解呪するには男なのに男に孕ませてもらって妊娠し、最後はそこまでして授かった子供を自ら殺さなくてはならない。
     あまりにも酷い現実に、足元から崩れ落ちそうだ。
     ボクは先生方に退出の挨拶や、この場にいたアズールのことなど頭から抜け落ちて、トレイと共に転移魔法陣でハーツラビュルの自室にまで戻った。
    「リドル、なにか食べたいものはあるか?」
     部屋に戻って開口一番、トレイがボクを気遣って聞いてきたが、あいにく食事に口をつけるほどの気力がなかった。
    「今はいいや……トレイにも皆にも心配かけたね。ボクは大丈夫、今日はもうこのまま寝るよ」
     ボクの作り笑いに気づいたトレイが、困った表情で笑う。
    「リドル、こんな時にどんな言葉をかければいいのか、正直のところ俺には全くわからないんだ。でも困ったことがや聞いて欲しい事があるなら、俺もケイトも何でも聞く。だから一人で抱え込んで無理だけはしないでくれ」
    「ありがとう、トレイ。ケイトにもお礼を言っておいておくれよ。きっと、あんなところを見せてしまって、驚いていただろうから」
     無様な所を見せてしまって本当にすまないよと言えば、そうじゃなくてと言葉を濁し、トレイは額を抑えた。
     こんな風に悩ませてしまったのは、全て自分のせいだ。
    「それじゃあトレイ、おやすみ」
     強引にトレイを部屋から追い出し扉を閉め、おぼつかない足取りでベッドに倒れこむ。フロイドとの行為で未だにじくじくと痛む体の中を意識すると、悔しくて仕方なかった。
     過去の愚かな行為が、こんなにもたくさんの人に迷惑をかけて、取り返しの付かない傷を作った。
     目を閉じると、今まで見たことがないぐらい酷い顔をし、自分を押し倒したフロイドの顔を思い出す。本心では嫌だと拒絶していただろう彼にあの様な行為をさせてしまったのは愚かな自分の責任だ。
     ボクは、フロイドに好意を抱いていた。
     入学式の日、ボクの事を公衆の面前で馬鹿にし、ずっとからかってきた彼が苦手で仕方なかったのに。ある日彼の不器用な愛情表現に気づいた時、ボクは心底驚いて、その後思わず笑ってしまった。
     そして、金魚ちゃんと、ボクのことを淡水魚の名前で呼んで、楽しそうに笑う彼の表情に心動いた時は、自分でも嘘だと、恥ずかしくて叫びたくなった。
     そして彼が、ボクの手を引いてあの青いケーキの元に強引に連れて行った時、キミの強引さにボクは初めて目の前が開けるような自由を知った。
     あれからずっと、ボクの中でフロイドは特別だった。
     なのに、ボクはそんな君を苦しめた。
     あんな酷い顔をさせてしまった。
     それなのに……稚魚を産んでくれと言われた時、ボクの心の何処かがフロイドの苦しみを無視して歓喜した。それがボクは許せなかった。呪いで無意識にフロイドを操って、彼に望まないことをさせた。それは謝っても決して許さる事ではない。
    「どうしてこんなッ……!!」
     ベッドに拳を叩きつけ、忌々しげに付いた悪態は、誰の耳にも届くこと無く、暗闇の中に消えていった。
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    Replies from the creator

    おわり

    PAST今現在、恋愛感情なんか微塵もないアズリドとフロリドの未来の子供がやってきてなんやかんやのクソ冒頭
    並行世界チャイルド それは、授業中の出来事だった。
     グラウンドの上。辺りが急に暗くなり、さらに大きな穴が空いた。雷鳴轟かせる穴。その口から吐き出された二つの塊が、このとんでもない事件の発端になるとは、この時はまだ誰も知る由もなかった。

     * * *

     授業中、慌てたゴーストがリドルを教室まで呼びに来た。緊急だと言われ、急いで学園長室まで向かうと、その扉の前でアズールとフロイドと出会った。
     苦手な同級生と、胡散臭い同級生兼同じ寮長である二人を見て、リドルは自然と眉を顰めた。
    「あー! 金魚ちゃんだぁ〜!! なになに、金魚ちゃんもマンタせんせぇに呼ばれたの?」
    「僕たちも先ほど緊急の知らせを受けて来たんです」
     この組み合わせなら自分ではなくジェイドが呼ばれるべきなのでは? とリドルは思った。どう考えても、二人と一緒に呼ばれた理由が分からない。こんな所で立っていても仕方ない、コンコンとドアをノックすれば、学園長室からバタバタと走り回る音が聞こえた。中からは、やめなさい! と言う声や、甲高い子供の声と泣き喚く声が聞こえた。
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