あなたと海の底でダンスを遠い夏の日。
きらきらと光る水辺で小さな手の持ち主と内緒話しをした。
その時はまだ僕のほうが背が高くて、小さな両手で丸を作った口元に身をかがめた。
膝まで浸かった水がちゃぷりと鳴って、足元はひんやりと冷たいのに背中はじりじりと焼かれてとても影が濃かったことを覚えている。
ひみつだよ、と言われたあの日から僕は彼の手綱になった。
あなたと海の底でダンスを
さらりとした乾いた風が吹いていく。
山から下りた春風は通りの桜並木を撫でてマツバの部屋までたくさんの花びらを運んできていた。
カントー地方は春。
萌黄が芽吹き息吹が噴出す季節。
マツバは自室に寝転がりながら裏手にあるやしろの森の気配がさざめいているのを夢うつつに聞いていた。
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