とあるよる 雪が窓を叩いて、部屋の温度に触れてとろりと溶けていく様をベッドから眺めていた。
雪境の冬は尚もって寒さが厳しくなるが、暖かい寝室でふたり、布団にくるまって過ごすにはちょうどいい。
長い夜を過ごすための上手い誘い文句も思い付かないので、「今日は冷えるので」だの「暖炉の薪がもったいないから」と理由をつけては度々旦那様の懐に潜り込んでいた。
そして、今夜も同じように。
「これって、フェリーン特有の癖なんですかねえ」
すっぽり腕の中に収まりつつ、顔を伺う。
表情は彫刻のように端正で、閉じたまつげの影が濃く長く頬に落ちている。
それなのに聞こえるのは、猫丸出しのゴロゴロと喉を鳴らす音。
思わず吹き出してしまうのをこらえて顎下をくすぐってみると、耳がひくひく動いて、また気持ち良さそうに喉が鳴った。
無防備で少し幼い動きに少年時代の彼の面影を感じて、そっと髪を鋤いて撫でる。数時間前に乾かしてやった髪はさらりと滑って、上等な石鹸の香りがした。
「…明日の朝御飯はどうしましょうか」
―起きていたとしても、お前が作るならなんでもいいと言いそうだけれど―返ってくるのは気の抜けた音色だけだ。
代わりに小さな雪豹がみぃ、と声をあげた。寂しいのか寝床を抜け出して来たらしく、続けて鳴き声があがる。
かわいい盛りだけれど、ベッドにあげてしまうと鋭い爪でシーツが駄目になってしまいかねない。ベッドの端をよじ登ってくる彼を、ひょいと拾い上げる。
「こらこら、こっちは僕たちの寝床ですからね」
抱き上げたまましばらく撫でていると、鳴き声はどんどんか細くなって、やがて寝息に変わる。しばらく丸くなったふわふわの毛玉を堪能してから、ベッドを降りた。
足音を立てないよう、そうっと籠に戻して、毛布をかける。
「……クーリエ」
「すみません、起こしましたか」
「…寒い」
ベッドに戻ると、大きな雪豹が目を覚まして待っていた。
会話になっているか定かではない眠たげな返事に苦笑して、空けていた場所に急いで戻れば、布団の中で大きな尻尾がにゅるりと巻き付いてくる。
引き寄せられて逞ましい胸元に顔を埋める。寝起きの高い温度に、冷えてしまった鼻先を擦り寄せた。
何処にも行きませんよ、と言う代わりに手を握ると満足したのか、また瞼を下ろしていく。
「――おやすみなさい」
しんしんと積もる白い音と、雪豹たちの寝息だけが聞こえるなか、僕は静かに意識を夜の底に手放した。