言葉にうまくできないけれど――しあわせの音が聞こえた。
それはどんな音だ?って、ぽかぽかした春の陽だまりのような笑顔で聞かれた。今この瞬間にも、その音が鳴り響いてた。あたしが今まで生きてきた中で覚えてきた言葉の中で、当てはまる音はいくつかぽぽんって浮かんだ。でも、口に出したらそれはなんだか違う気がして、それがなんでだかよくわからない。だから、それをそのまま伝えた。そうしたら、ふわふわした空気を纏ってまた司くんは笑った。
「ああ、わかる気がする」
あたしは自分の胸に手のひらを当てて、心臓の高鳴りを感じていた。司くんが、わかってくれたことがこんなにも嬉しいなんて。
「司くん、またしあわせの音が聞こえたよ」
「そうか」
どちらからともなく顔を近づけて、あたしと司くんの影はひとつになった。
おしまい