サファイアブルーの断片□ヤコウの入水描写
人は海から産まれ、やがて海に還るという。
それなら
カプセルから生まれたオレたちホムンクルスは
果たして海に還れるのだろうか?
ざぱ
オレたちホムンクルスは死ねない
でも、分子レベルに溶けてしまったとしたらどうだろう
海に漂う粒子となってもなお、死ぬことはできないのだろうか それとも、海と一体化して意志を持ち続ける不思議な存在となるのだろうか
オレの記憶も 罪も全部 溶けてしまったとしたら
痛い…
(隙間だらけの身体に塩水が染み込んでいく)
(でも、歩け)
これは、結局何も果たせなかった自分に課した罰と
死ねないオレ自身への救いなのだから
□時系列過去へ
車椅子に座った所長を囲むように、超探偵たちが復活祝いパーティを楽しんでいる様子
ユ「すみません!遅くなりました!」
ヤコウ「お、ナンバーワン…じゃなくて、ユーマ」
ユ「はい。ユーマ=ココヘッドです。所長!お久しぶりです」
ヤ「みんな揃ったな。君たちに、伝えておきたいことがあるんだ」
ヤ「…あの事は、マコトがもみ消して不問にしてくれたらしい」
!空気が変わる
ヤ「ウエスカ博士も、他のホムンクルスと同じように生き返っていて、事件当時の記憶もはっきりしている。ただ、あの時、誰に刺されたかは見ておらず、殺し屋に殺されたと思っているようだ」
ヤ「博士は、これまでの数々の罪が暴かれ、現在は服役しているそうだ。
オレがしたことは、なかったのと同じになったんだよ。自分の罪が消えたことは、本来喜ぶべき所なのかもしれないが、そうも行かないよな」複雑で悲しそうな顔をする
ヤ「…君たちにも迷惑かけて本当に悪かったな」
ユ「迷惑なんて」
ユ「思ってないですよ…!今はただ、所長がいてくれて本当に良かったと…そう思ってます」
ヒコ「そうだよ、オイラたちが所長にまた会えて喜ばない訳がないよな!」
ハララ「同感だ」
フブキ「所長、おかえりなさい!」
ヴィ(…)
ヤコウ「ありがとな。やっぱり、あの頃と変わらないな、お前たちは」
ヒコ「おいおい、成長してないっていうのかよ」
フブキ「所長もまだお若いです!」
ヒコ「だから所長は成長してないんだって!あと元から若くもねーし…ってあれ?でも実際産まれたのはオイラ達がカナイ区に来た何年か前だから…実は年下!?」
ハララ「成長しないとは言うが、その身体ではまるで老人のようじゃないか。いつ完治するんだ」脚を指しながら
ヤ「あー…これは立ち入り禁止区域で転落した時の骨折が癒着して、ぐちゃぐちゃになっちゃったみたいなんだ はは…見苦しくてごめんな 再生直後はまだ身体が不安定だから、しばらくしたら手術を受けさせてもらえるそうだ」
フブキ「たしか…演舞をしてはいけないんでしたっけ?」
ヒコ「塩分に弱いから接種するな、だろ!」
ハララ「復活したばかりの細胞が形を保てなくなる恐れがある為、今夜の食事も味付けが薄めになっていると聞いている。浸透圧の高いものに触るのも極力控えるべきだそうだ」
ヤ「折角集まったのに、みんなにもこんな薄味の食事で我慢してもらって悪いな…」
ヴィ「まあ、私は別に食べないから関係ないよ…」
ヤ「ヴィヴィアも相変わらずだなー…流石にちょっとは食べなって!お前さんはオレと違って栄養も要るし成長するんだから…」
□解散後それぞれの部屋に戻る
ホテル自室のユーマ
窓から外を眺めている
久しぶりにヤコウ探偵事務所の元メンバーとも会えて、久しぶりにユーマとして過ごした
マコトから聞いていた通り、所長は前と変わらず、術後の後遺症も少ないみたいだ。
あとは身体が治れば大丈夫そうかな
波打ち際の音が聞こえる
(心地いい…)
(人影?)
近くに、車椅子
ハッ
反射的に外へ駆け出していた
間に合え
(どうして)
浸透圧の高いものに触れるのも
(どうしてまた何も言わずに)
海に出る
「所長!ヤコウ所長!」
騒ぎを聞いて出てくる
ハララ「どうした、ユーマ!」
ユ「さっき、人影が海の中に入っていくのを見ました!」
ヒコ「それ、ほんとに所長だったのかよ!」
ハララ「分かった、僕は先に所長の部屋を見てくる」
>ダメだ、見つからない<
…遺影?
これは、ただの自殺ではない 心中なんだ
フブキ「ユーマさん、所長は居ませんでした…どこにも」
ユ「ボクが見つけたのも、これだけです」ビチャビチャになりながら一緒に抱えて入った遺影を持ってくる
決意したかのように正面見る
「ハララさん…お願いです」
「ボクと能力共有してください」
自殺とは自分を相手取った殺人だ。つまり、所長が本当に死んでしまったなら、過去視が使えるということになる。そして、過去視の光景ーー所長が死んだ瞬間は、第一発見者のボクが見た風景のどこかと重なるはずだ
ハララ「分かった」
ぎゅ…
ハララ「視えなかったな」
ユ「そうですね」
ハララ「所長はまだ生きているという事だ。捜索を続けよう」
ヴィ「所長は」
ヴィ「生きていると呼べる状態にあるか怪しいんじゃないかな」
ユ「ヴィヴィアさん!?いつから」
ハララ「霊体で何か見たのか」
ヴィ「いや、私は初めから生身でここにいたよ…フブキ君、お願いがあるんだ。今から可能な限り時を戻してほしい。そして…窓から過去の”私”に呼びかけてくれるかな。海の方に向かって」
ハララ「…!まさか」
ヴィ「説明は…めんどうだけど、後でするよ。今は時間がないから」
フブキ「分かりました、時を戻します…!」
時戻し
フブキ「ヴィヴィアさん!!」
!?
「戻ってきました!聞こえますか!」
「助けてください!所長が!」
海に飛び込む ザパ
(望まない復活を遂げ、憔悴しきった所長とその懇願を聞いて、それで所長が楽になるならと考えていた。私だって生きているということの辛さは痛いほど感じている。それが永遠となれば尚更だ)
(でも、フブキ君を通じて過去の自分が警鐘を鳴らしている きっと所長の望む結果にはならなかったということだ)
ずぶ濡れの所長を抱き上げたヴィ
あとから合流するみんな
(そして、私も心のどこかでは所長に生きていて欲しいと願っていたんだ。これは私の身勝手なエゴかもしれないけれど)
□しばらく後
所長以外が集まっている
ハララ「なるほど、時を戻す前のヴィヴィアは僕たちが駆け付けた時には慌てて身を隠したというわけか」
ヴィ「まあフブキ君の話していた状況的にそうだろうね…」
ヴィ「私は…所長に入水するのを手伝ってほしいと言われて、波打ち際まで車椅子を押したよ。所長を車椅子から下ろして、あとは彼がおぼつかない足取りで黒い波の中に消えていくのを見届けていた…その途中でフブキ君に声をかけられて、このままでは未来の自分が後悔することを知ったというところかな」
ハララ「所長が事故のせいで脚を悪くしたと言うのも嘘だな。恐らく彼は意志を持って崖から何度も落下し続けていたんだろう。死ねない体を持て余して」
ユ「所長がそこまでして死にたかったなんて…」
ヒコ「そんなに不安なら言ってくれればいいのによ〜 あーっもうオイラ達でなんとかしてやれねーのかな」
ヴィ「これは」
「私が所長から預かっていた遺書だよ」
遺書
探偵事務所メンバーへの謝罪
新婚の色んな初めてを経験した妻との日常、その後の絶望の日や、ボディーガードとしての役目を果たせなかったことによる罪の意識、最後にせめて役目を果たしてから死のうと思ったことが書かれている
事務所のみんなと過ごした日々は楽しかったが、既にその時から死ぬことは決めていた 少しでも一緒にいられてよかった
と言ったことが書かれていた
ハララ「これを見る限り、ウエスカ博士殺しのだいぶ前から罪の意識に苛まれていたようだな」
ユ「もしかして、所長はマコトの計らいとウエスカ博士の復活によって、
奥さんとの約束が果たせなかっただけでなく、その贖罪としての自分の行いすら消えてなかったことになるのを恐れているんじゃないでしょうか…」
ヒコ「全く、殺人を犯すこと自体が罪滅ぼしだなんておかしな話だぜ」
フブキ「でも、わたくしも所長の気持ちは分かります。時を戻す前のわたくしの行動は、たとえそれがどんなに大きな決断であろうとも全て無かったことになってしまいますから。」
「ですが、それが無駄だなんて思ったことはありません。だって、冒険した記憶はいつだってわたくしの中に残り続けます!」
「お嬢の冒険とはちょっとちげーと思うけどよ…つまり、所長は自分がウエスカ博士を殺したことと、自分が死んだことを無かったことにしたく無いんだよな?だったら、オイラたちが覚えてるじゃねーか。というか、どう頑張ったって忘れられないぜ」
電話
ユ「マコトから電話だ。ちょっと席を外すよ」
「…ヤコウ所長の意識が戻ったみたいだ」
□病院
「ヤコウさん、大丈夫ですか!?ボクのこと、分かりますか!」
「大丈夫だ、ユーマ。全く、我ながらホムンクルスの再生能力はすごいな…なんて」
「!よかった…」
「遺書をみんなで読みました。ボクたちは、所長の行いを忘れるはずがありません。でも、知ってしまってからなお、隠蔽することを受け入れる決断をしました。これでボクたちも共犯です。
…所長と違って永遠に背負い続けることはできないけど、それでもボクたちが生きている限りは、ヤコウ所長の罪を一緒に背負い続けたいんです」
目を見開く
すこし微笑む
「はは…元とはいえ、世界探偵機構のナンバーワンがそんな堂々と犯罪の隠蔽を宣言するもんじゃないだろ…なんていうか、お人よしなところも変わってなくて安心したよ」
「オレが蘇生治療を受けて、最初に気がついた時、誰もいなくてさ。
彼女はもういないのに、なんでオレなんかが生きていて、しかも生き続けないといけないんだなんて、1人でずっと考えこんでしまっていた」
「でも、こうして見舞いに来てくれるお前たちがいるんだもんな。」
「ありがとう。改めて、これからもよろしくな」
「所長!」「もちろんだぜ」「ああ」「ぜひ!」「はい」
暗転
ページ開け
□
ED ヴィと2人
「オレ、嬉しかったんだよ あの時」
「あの時?」「お前が助けてくれた時だよ」
「…助けるなら、もっと早く止めるべきでした。私は車椅子を押したので、立派な自殺幇助です。」
「それはオレが頼んだことだろ、お前が気に病む必要はないさ」
「でもまあ、死にたいって気持ちを理解してくれそうなお前に車椅子を任せたつもりだったけどさ、今思えばそれもただの口実だったのかもしれない」
「?」
「実は、こうなることを期待してた、ってとこかな」
「私は…」
回想
フブキ「ヴィヴィアさん!」
(私は所長を引き止めるのを躊躇っていた、少なくとも一回は見捨てたはずだ。それなのに、今更こんな)
「私も、所長がいてくれて嬉しいです」
ずるい人だ、本当に