桜の蕾が膨らみ始める頃、我がフォルモーント学園の卒業式は執り行われていた。
大勢の見送られる生徒と見送る生徒が間隔の狭いパイプ椅子に座る中、ネロ・ターナーは見送る生徒側で卒業証書を受け取る卒業生をぼんやりと眺めていた。進学校、芸能校、不良校の合併は今でも奇妙なものに思える時があるが、文化祭を初め様々な行事を通して各校間の溝は徐々に埋まりつつあった。
そのおかげか、卒業生の中には聞いたことのある名前や、見知った顔がちらほらあった。その中でも特に、思い出深い生徒の姿が壇上に上がると、ネロの視線はネロ自身も気づかぬうちに上げられていた。
「ファウスト・ラウィーニア」
「はい」と、彼女の意外にもはっきりとよく通る返事が体育館に響いた。普段と変わらない丈のスカートを靡かせ、学長の前まで進む。あまり見られたくないのか、顔を長く癖のある前髪で隠し、腰まで伸ばしたロングヘアはまとめずにいるくせに、背筋はまっすぐ伸びていた。
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