則宗さんと話そうのコーナー「ちょっとよろしいですか?一文字則宗さん、お話があります」
何の変哲もない安い座敷椅子が何故か彼が座ると高級品に見えてくる。扇子を扇いでいるからだろうか、などとどうでもいい思考を追い払い審神者は真面目な声音で話す。
「最近やけに清光をからかうじゃないですか。目に余ります。控えてくださいよ」
「んん?つい、正面から言い返してくる態度にはしゃいでしまってな」
はぁ、と審神者は返事だかため息だかわからない声を出す。この刀はふわふわとしてあちこちに跳ねている山吹色の髪と同じで性格も捕らえ所がない。暇にしているならばと仕事を任せてみれば、すっかり終わらせたうえで神出鬼没にあちこち顔を出しているのだから審神者はむしろ落ち着かない。急に現れるものだから南泉と一緒に驚いて飛び退きそうになる。
「どうも元監査官や元調査員に遠慮している気があるな」
思いつく限りの小言を審神者は言っていたが途切れた途端、逆に痛いところを突かれてしまった。山姥切長義などもなまじ仕事が出来るだけに、いつ「不可」などと言われて渡した書類を突き返されるか心配になっている。なんとなく審神者は政府から来た刀には評価される側という意識が抜けないのだった。
「上に立つ者として、舐められてはいかんぞ」
扇子を閉じてこちらを指す。その拍子に髪が揺れて隠れていた左目がちらりと覗いて審神者はぞくりとした。
「何が言いたいんですか?」
「此処へ来てもう半年も経つだろう。僕だってお前さんの刀だぞ。僕のことも、則宗と呼ぶべきじゃあないか?」
もっともらしいことを言っているが審神者はどうも釈然としない。
「坊主達は呼び捨てているのに随分他人行儀じゃないか」
「今は私がお説教をしています。話が終わるまで黙って聞いたらどうなんですか。則宗!」
不機嫌そうに怒ってみせた審神者は小声で「……さん」と付け足した。
「うははははは、言えたじゃないか!」
心底愉快そうに笑っている一文字則宗につられて笑いそうになる。審神者はこの刀が苦手だ。気がつけば相手のペースに飲まれてしまう。そしてそれが心地良いと感じてしまうのも、苦手だった。