秋月「月がでっかい」
新しい景趣を入手した主はいつも一番に僕を呼ぶ。風流だから歌仙さんが喜ぶと思って、なんて言って。いつからだったか、一面に広がる季節の花よりも主の反応を見る方が愉しみになっていた。主が端末に指を滑らせると周りの空気がすぐさま変化する。朝も夜も四季も瞬きの間に切り替わった。様々な花の匂い、風、日差しや月光も、虫の声だって心を動かすものだけれど、きみが目を輝かせて嬉しそうにはしゃぐのを見逃したくない。それで今日も僕は主を見つめたままでいるうちに外の景色が変わった。月が大きいことにそんなに驚くとは。普段の暮らしは忙しなく、空を眺める余暇すらもないのだろうか。ここは僕が教えてあげるべきだろう。数多くの歌に詠まれているように。秋は乾いた空気でくっきりと月が見える。そのおかげで普段よりも大きく美しく見えるのだと……。
振り返った歌仙兼定も「はぁ なんだあの月は‼ 大きすぎるだろう‼」と大きな声を出したのでした。
〈終わり〉