ベツレヘムの星 「好き」のすれ違いがようやく解決して三年が経った。
諸々の不安から「グエルの傍にいること」に依存していた節のあるラウダも、それだけあれば精神的に落ち着く。こと仕事に限って言えば、信頼することとあれこれ心配せず放任することは似ている。ジェターク家の御曹司から共同CEOという立場になって、何とはなく一緒にいることが減った。お互い多忙であるし、立場上どちらかが休みである時はどちらかが働いているのが基本であるし、そもそもグエルが宇宙で、ラウダが地球で仕事をすることが多いのもあって、週に一度の電話報告が二人を繋ぐ唯一のよすがになりつつある。その内容も、ほとんどが事務連絡か健康の確認で、五分もすれば「また」とどちらともなく切ってしまうようなものだ。
それに、一抹のさみしさを抱えていないといえば、嘘になる。
今となっては唯一の家族。グエル・ジェタークにとって彼の成長は喜ばしいことであるし、そう思っているからこそあの時みたく安全な場所に隔離するのではなく、足りないところは補い合って、支え合って、結果的に離れて暮らすことにも同意した。だけど同じくらい、グエルが決めたこと、ラウダが決めたこと、これが最善であるのだとはいっても、今まで当たり前に傍にいて、半身のように思っていた存在が遠ざかっていくのは、寄る辺ない虚しさを感じてしまう。傍にいてほしい、コロニーでも夜は冷える。最後に顔を見たのはいつだっただろうか? そんなことをつらつらと考えていたので、
「クリスマスの前後は二人揃って休暇がとれそうだけど、そちらに帰ってもいい?」
そう言われたときに、二つ返事で「ああ」とうなずいてしまったのは、不可抗力であるということにしておいていただきたい。
冷静に考えると何故最高責任者が二人して休みをとれるのか。グエルが父の時代から仕えている秘書にぽつりとこぼしたところ、なんでもラウダがダメもとで頼んできたので、役員たちが全力で二人のスケジュールを整え、ついにはクリスマス周辺の予定にぽっかりと穴をあけることに成功したらしい。「普段頑張っているCEOのためです」と微笑まれてしまえば、勝手なことをするなだとかそれまでの計画はどうするんだとかいろいろある言うべきことを全て振り払い、「ありがとう」とだけ返すほかないのった。
「わざわざ迎えに来てくれたんだ」
「ああ、久しぶり」
「久しぶり、兄さん」
ラウダが来るまでの日を指折り数えて、ようやくその日が来た。
軌道エレベーターの発着口まで行くと、彼はグエルの記憶にある姿よりやや大人びて見える笑い方で手を振った。「少し痩せた?」「気のせいじゃないか」なんて他愛もない雑談をしながら、用意させていた自動操縦のタクシーに乗る。暖房こそあるが、足元は少し冷えて、下がり切った体温にはやや堪えた。
このままかつて暮らしていたあの家に向かい、そこでこの長くて短い冬休みを過ごす予定だ。しばらく帰っていないが、ハウスキーパーに頼んだから埃は積もっていないだろうし、小さなパーティーくらいならできる程度の食糧の備蓄だってあるだろう、たぶんおそらく。準備を頼んでおけばよかったと今更後悔するが、それだけグエルは浮かれていたのだ。
アド・ステラに宗教は基本的に存在しない。聖書のみことばも、そのほとんどは残されていない。多くのイベントはどちらかといえば、年中行事の一環として位置づけられている。その中でもクリスマスはどこか、特別な気配をまとっている。
ここぞとばかりに天候管理システムが雪を散らし、街路樹にはイルミネーションの準備がなされ、その他さまざまな飾りつけがあちこちに見えて、コロニー全体が、にわかにざわめいている。無機質なビルばかりのオフィス街から、そこに働くものが住む高級住宅街の一角に入り、植物園や博物館のある区域、小さな噴水のある公園、巨大なモミの木の隣を通り過ぎたあたりで、不意にラウダがグエルの肩にからだを預けてきた。一瞬どきりと心臓が跳ねたのを誤魔化すように「どうした?」と尋ねてみると、ラウダはグエルをじっと見上げて、ぱっと無邪気な笑みを浮かべてみせる。
「あのクリスマスツリー、まだあったんだと思って」
「さっきのか?」
「小さいころ、父さんと一緒に見に行ったでしょう?」
「ああ」
目を閉じて、回想する。そういえばラウダがジェターク家に来たばかりの頃、クリスマスにはこのモミの木の下にあそびにきたっけ。プレゼントみたいにリボンがかけられて、無数のオーナメントできらきら輝く、うんと高い木の天辺に、ぴかぴか星が煌めいていて。子ども心に楽しかったのを覚えている。グエルの頬に、癖の強い髪がふわふわとこすりつけられて、少しだけくすぐったい。
「懐かしい。兄さんがあのお星さまとってってお願いしてた」
「あれは父さんに構ってほしくって。そうしたらラウダがツリーに昇ろうとしたから焦った」
「兄さんの役に立ちたかったんだ。あの時からずっと」
「そうか」
寄せられた頭をくしゃくしゃと撫でる。ラウダが気持ちよさげに目を細めた。
微かな揺れと共に、車が進む。
星には手が届かないものだ。しんしんと降る雪は音を吸収し、世界がまるで、ふたりきりになってしまったような錯覚に陥る。嫌でも、思い出す。何も知らずに無邪気に甘えていた時代があった。もう二度と取り返せない幸せがあった。それを悔やんでも仕方がない、サンタクロースの正体を知らない頃には戻れない、もう二人とも大人になってしまったし、父はグエルが手にかけてしまった。星には手が届かないものだ。目を閉じる。以前ふと気になって調べたことを思い出す。クリスマスツリーの意味、モミの木は冬枯れのない常緑樹、その意味は、『永遠の命』__
「ぁ、」
ひゅう、と唐突に息を吸う。くちびるから漏れた音に肩がびくりと震え、喉に触れる。皮膚の下の醜悪の震えは、グエルの意志に反して蠢いている。気持ちわるい。心臓がいやに跳ね上がる。だめだ、もうトラウマは克服したものだとおもっていたのに。また。頭の奥がぞっとするような悍ましい光景と、最期に聞いた優しい声で埋め尽くされて、罪悪感と後悔とそれ以上の恐怖で吐き気が湧いてくる。息を吸うたびに鼻の奥がつんと酸っぱい。
咄嗟にくちびるを押さえて顔をあおくしていると、それに気づいたらしいラウダが、グエルに柔らかな体温をもたれさせたまま、ぎゅっと抱きしめて、背を叩いてくれた。とん、とん、とん。三回。穏やかなリズム。「大丈夫だよ」と囁かれた言葉は、普段より少し低くて、優しい。少しずつ脈拍がおちついてくる。
許されている。
安心するにおいだ。グエルがラウダのからだにすりすりと身を寄せると、いつの間にかぎゅっと握り込んでいた拳をそっと撫でて、取って、ラウダはこちらを見つめてきた。
「力を抜いて。爪のあとが残ってしまう」
「……うん」
幼い声で答える。
ふと触れ合った脚をどちらともなく絡めれば、お互いの体温が伝わって、ようやくほっとあたたまった気がした。
しばらくもしないうちに車が止まった。微かな音と共に扉が開く。
扉に近かったラウダが先にふわりと降り立って、離れていく体温が、やけに名残惜しい。思わずグエルが腕を伸ばすと、ラウダは小さく笑って、こちらに向けて手をさしのべてくれた。
エスコート、だなんて、グエルにとってもラウダにとっても、柄じゃない。だけどもグエルは、そっと手のひらを重ねた。どこかぎこちない動きで腰のあたりに腕を回して支えられると、少しの緊張と可笑しさで、肺の奥から込み上げた笑い声が、白い息になって吐き出された。
「なんだかラウダ、王子さまみたいだな」
「あなたにとっての王子さまになれたら、嬉しい」
「どういう意味だ?」
芝生も石畳も、うすく雪化粧を纏っている。二人分の足跡が、懐かしい家に向かって伸びていく。
ラウダはグエルの疑問には答えず、ただ少しだけ肩を揺らした。そのまま、扉を押す。蝶番が錆びついてギイギイと軋むぐらいは覚悟したが、存外抵抗なく開いた。少しだけ首を傾げる。すんと鼻を鳴らすと、胸がほっと温まるような、何故だか安心するような、そんなふるさとのにおい__に混じって、何やら慣れない香りがすることに、グエルはすぐに気づいた。
はっと、目を見開く。おそるおそる中を見回す。もう時間が遅くなってきた、窓から微かに雪明かりがさしこむ以外は真っ暗で、辛うじて足元と、ラウダのひとみがきらきら輝いているのが見えるばかり。ラウダが靴をそろえる。ついでに扉の内鍵をかける。がちゃん、という音がやけに耳の奥で響いた。ラウダがグエルの手をとったまま、ゆっくりと誘導するように歩き出す。フローリングの床を踏むと、ひた、と冷たい感触があって、恐怖、というより不安があり、グエルは思わずラウダの腕にしがみつく。
「なあ、ラウダ……」
「兄さん、少し寒いね。火をいれよう」
「待て、照明は、」
「大丈夫」
有無を言わせぬ口調で遮られ、そのままリビングへ。多少目はいい方だが、人並み以上に夜目が利くわけでもない。ひやりと冷えた空気、灰色と黒に沈んだ世界で、つないだ手のぬくもり以外は、全てが曖昧だ。あれはたぶんソファ、机、窓、テレビモニター、それから__
……あれは?
ラウダが小さな暖炉の傍に向かうと、しゅ、とマッチを擦る。薪も着火剤も用意していないのに、と思うより先に、小さなちいさな火種は、赤煉瓦の中に消えていった。ほんの一瞬、世界からあかりが消える。思わずラウダの手を強く握った、ところで。
ぱち、
ぱちぱちぱち__
暖炉に熱が灯ると同時に、闇の中にろうそくのような光があらわれる。それはぶわ、と波のように部屋全体に広がり、数秒のうちに視界が橙色のやわらかな光につつまれる。突然の眩しさに咄嗟に目を閉じて、それから、開いて。
「ぁ……」
眼前に、グエルの背とおよそおなじ高さのクリスマスツリーがあった。
ふら、と近づく。触れてみる。合成樹脂製の葉が柔らかく皮膚を刺した。硝子製のカラフルなオーナメント、リボンで飾られた金色のベル、あちこちにつるされたキャンディ・ケイン、雪を模したらしい綿やモール、LEDが中に仕込まれているらしい蝋燭型の電飾。熱源感知でも仕込んであったのだろうか、なんて夢のない種明かしを、常のグエルならば思いつくなのに、頭にすらのぼってこない。唖然とくちびるを半開きにしていると、隣にいたラウダがグエルの腕に抱き着いて、弾けるように笑ってみせた。
「サプライズ! ばれてるかもっておもったけど、成功してよかった」
「ラウダ、お前いつの間に!」
「ハウスキーパーに準備を頼むことのできる立場にいるのは、兄さんだけじゃないってこと。よろこんでくれたかな」
「……とても。ラウダ、お前は魔法使いみたいだな」
一旦驚愕の波が通り過ぎてしまえば、次は胸の奥からふつふつと幸せが湧いてきて、口許がへにゃりと変に緩んでしまいそうになったので、グエルは素直にラウダにハグをすることを選択した。抱き合っているうちに少しずつあたたまってきた室内が、二人の間にぬくもりを灯す。ラウダがグエルの背に手を回し、頬と頬をぺとりとくっつけてきた。なんだか幼いやり取りに、また笑いがこみあげてくる。最低限兄としての意地というやつを守るために、ラウダの肩口に顔をうずめると、ラウダは、嬉しそうにグエルの髪を梳いた。
「地下のワイナリーにはシャトー・ラトゥールの赤が、冷蔵庫にはいちごのたっぷりのったケーキが入ってる。でも、せっかくだからチキンは兄さんが焼いたのがいいなっておもって、下味だけついてるのを用意してもらった」
「もちろん。俺でよければいくらでも」
「ふふ、やった……あ、そうだ、さいごの仕上げがあった」
「うん?」
ラウダがグエルの腕の拘束からするりと抜け出すと、とたとたとカーペットを踏みしめて、どこかに駆け足で去っていく。しかしそれを名残惜しく思う前に、彼は真っ白い布でくるまれた何かを手に取って、こちらにやってきた。
はい、と手渡されて、グエルは少し困惑する。そんなグエルの混乱もすぐに理解したのか、ラウダがグエルの手に自身の手を重ねて、そっと撫でた。手の甲をくるくる指先で弄られると、さらりとした皮膚の感触をやけに鮮明に感じて、くすぐったさに、グエルは少しだけ目を細める。
「クリスマスプレゼント。開けてみて」
「わ、わかった」
ラウダの指から逃れるように、あわててプレゼントの包みを開く。シルクの布のひやりとした感触が、グエルの体温をまとってするすりとおちていき、ラウダが微笑み、グエルが目を見開き、そうして、中から現れたのは__
「少し小さいけれど、とってきたよ」
__クリスマスツリーの、天辺の星。
くちびるが半開きになる、指先が震える、鼓動が、どくどくと早くなる。胸の奥からぶわりと何か温かいものが広がってきて、グエルはそれの表面を撫でる。自分はいま、よろこんでいるのだと、認識するのに、たっぷり深呼吸三回ぶんの時間を要した。手のひらの中にある金色が、暖炉の光を反射してきらきらと輝いた。
鼻の奥がつんとする。ラウダが慌てたように、「兄さん、泣いてるの!? 大丈夫、気に障ったかな……」なんてグエルの背を撫でるから、ようやく自分が泣いていることを理解した。背を撫でてくれるラウダに、なんとか微笑みかける。星を抱いたまま、抱きしめる。
「ううん、嬉しいんだ。すっごく。ありがとう、ラウダ」
「そっか。よかった。それにね兄さん、泣くときに涙を流せるのはいい兆候だよ」
「泣いたのか」
ラウダは答えなかった。そのままグエルの手を導いて、クリスマスツリーに触れさせる。
あの時夢見たほど大きくない。少し背伸びをすれば、あれほど願った天辺に手が届いた。このツリーは小さいし、グエルは大きくなってしまった。なのにどうしてだろう、こんなに嬉しい。さく、と軽い音がして、八芒星のツリートップが飾られた。
「これ、ベツレヘムの星なんだって」
不意にラウダが呟いた。グエルはぱちぱちと瞬きをして、記憶を精査する。ベツレヘムの星__確か、旧紀年法の時代の宗教のひとつ、その導き手がうまれたとき、ひと際明るく輝いた星、であったっけ。グエルもよく知っているわけではない。ラウダが祈るようにグエルの手と己の手を重ねて、輝く星を撫でる。
「僕が彼だとしたら、兄さんは僕にとってベツレヘムの星だね。あなたに抱きしめられたとき、僕はうまれたんだ」
「なんだそれ。口説いているつもりか」
「そうだよ」
からかうようにいえば、真っ直ぐに見つめ返されて、グエルは一瞬、当惑する。重ねられていた指先が、今度は指と指の間に絡まってくる。ラウダの頬が赤く上気しているのは、たぶん、上がってきた室温のせいではない、と思う。
「うん。そうだよ、口説いてる。兄さんのこと、好きだから」
心臓がどくりと跳ねる。
わざわざこの日を選んで、グエルに内緒でロマンティックなシチュエーションを用意して、慎重に、迷うように、探るように告げられた言葉の意味が、一般的に何にあたるのか、わからないほど愚かではない。だけどもしグエルの予想が正しければ、それは、禁忌である。決して許されてはいけない、聖書に禁じられた行為である。
だのに、どうしてだろう。
拒絶しなければなのに、嫌じゃない。
ありえない、と理性は拒絶するのに。グエルの本能は、「この先」に手を伸ばすことを望んでしまっている。勇気を出して踏み出してくれたラウダを、手放しで祝福したくなる。ラウダの顔がすいと近づいてきて眼前にまで迫る、お互いの睫毛が触れ合うのではないかというほどの距離、吐き出す息の熱すら伝わる、喉が、こくり、小さく鳴った。
「なあ兄さん。今やってる大きなプロジェクトが終わったら、また一緒に暮らしたり、仕事したりしたいの、だめ、かな」
「いいのか。不便かもしれないぞ?」
「それでも」
「家事の手間が増えるし」
「構わない」
「……勘違いしてしまうかもしれない」
「それが僕の思ってる勘違いと同じなら、嬉しい」
重なった指先が、微かに震えているらしいことに、グエルはようやく気付いた。
グエルはしばらく硬直する。言葉が出てこない。正確には言いたいことが、言わなければならないことがたくさんあるのに、そのどれもが音になってくれない。わからない。だけども、確かにこれは、この、感情は。
ラウダが気まずそうに眼を反らして顔を遠ざけ、「やっぱり、冗談__」とくちびるを開く。グエルはくるりと手のひらを返し、ラウダと指を絡めて手をつなぎ直すと、そのまま空いていたもう片手でラウダの背を抱きしめた。ラウダが、目を見開く。そうだ、この目だ。グエルは眩しく目を細める。この瞳の金色だ、とようやく腑に落ちた。
「俺にとってもお前は、ベツレヘムの星だよ。俺が死にそうになるたびに輝いて、生かしてくれる。支えてくれる。何度でも復活することができる、お前のおかげだ」
「……兄さ、」
「愛してる、と」
言っても、いいだろうか。
言い切る前に、影が重なる。グエルは半ば反射的に、目を閉じた。ファーストキスはレモン味なんていうが、あれは大嘘だ。微かにひやりとして冷たい冬の気配と、ややかさついた感触と、少しだけ香水のにおいがする以外、無味である。離れがたくてラウダの背に腕を回すと、ラウダはグエルの後頭部に指先を添えて、髪を梳くように撫でた。いつもよりやや乱雑な手つきだ。心音が近い。ずっとどこか遠くにいた気がするラウダが、ようやくここに戻ってきた気がした。
どれくらいそうしていただろう。先に顔を離したのはラウダだった。押さえきれずに零したとばかりの笑顔は、グエルの記憶にあるのと同じ姿だ。一瞬の静寂。ラウダの口が「ごめん」と動こうとしたので、「謝るのはなしだ」と先んじて釘を刺しておく。ラウダが顔どころか耳まで真っ赤にさせて、グエルの肩に顔を埋めた。微かに湿り気を感じる。とん、とん、とん。三回、抱きしめて軽く背を叩きながら、「嬉しいのか」とグエルが尋ねると、ラウダは微かに鼻にかかった声で、うん、と頷いた。
ラウダが顔をあげる。はにかんで、こちらを見つめる。その笑い方は、グエルが知る彼の姿と相違ない。
「……夢でも嘘でもない、んだよね。愛してるって、そういう意味で、いいんだよね?」
「疑い深い」
「この恋はいけないことで、僕達兄弟だし、だから、その、ふられるとおもってた」
「そうか。ところで、まだ俺は答えを聞いていないぞ? お前は、どうなんだ」
「うん、えっと」
ラウダはまごまごとしばらくくちびるを動かす。エスコートしてくれた王子さまでも、サプライズをくれた魔法使いでもない、ただの弟で、だからこそ愛おしい、グエルのラウダが、そこにいる。
「兄さん、僕。あなたとすれ違って戦ったあの日から、あなたにクリスマスツリーの星をとってあげたいとおもったあの日から、初めて会って、抱きしめてくれたあの瞬間から、ずっと、ずっと前から、あなたのこと」
__愛してる。
ようやく、星が手に入った気がした。