海棠また落つる微雨の時 ◇
前世 修羅¹は人の世の寂寞²を笑い
今生 仏陀³は六道⁴に落ち灼(や)かれる
もし草木が恋情の苦さを知らなければ
身を転じて何を哭こう 愛恨とは蕭索⁵たり
海棠の花は逆らうことなくまた落ち 貴方はそれを嘆いた
南柯の夢⁶の如く儚い貴方をどうすればよいのだろう
雪に覆われた長階は果てなく続き 虔誠⁷に祈りを捧ぐ
幾世の糾葛⁸を換(か)うる幸得たらばと
かつて三千の石階は語らず
聚散離合⁹は幾世にわたり
記憶は曲折を経て 深く明明と刻まれる
開く花は憂いを忘れさせ 落ちる花は愁いを誘う
誰がまたこの地に留まろうか
心頭には見えずとも眉頭に上る¹⁰
輪回する幾世の執念
往事¹¹は問わず 愛憎は論ぜず
人間¹²は忽(たちま)ち雪に満ちる
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