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    あっきゅん

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    あっきゅん

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    ひがさんに捧ぐ

    リョータと三井の ECCE HOMO
    80歳のおばあちゃんによる修復ばりにキャラは原型をとどめていない、気がする

    この人を見よSide リョータ

       1

     どうしても嫌いなものがある。
     小学校高学年から中学生くらいの少年が、二、三人連れ立って、友人の名を呼ぶときの声。
     声変わりをしたばかりのような、気安くて親しげなその声を聞くと、耳を塞いでしまいたくなる。
     それに呼ばれて行ってしまう人は、「また」という言葉だけを残して、戻ってこないと知っているから。

    『ソータぁ』

     ソーちゃんだけじゃない。

    『みっちゃーん』

     また明日な、ってソーちゃんは言ったのに。
     またやろうぜ、ってあの人は言ったのに。

    「オレの名前を言ってみろ!」

     知らねえ。知らねえ、知らねえよ!
     バスケ上手い人としか知らなかったよ、あの時名乗らなかったじゃねえか。三連続、三発三中でスリーポイント決めた、きれいなフォームの上手い人。ディフェンスも上手くて、1ON1で全然抜けないのにそっちはオレに教える余裕まであった。
    『圧をかけろ圧を!』
     つい重なったんだ。『オレをやっつけるんだぞ!』って言ったソーちゃんと。

     なのに何だよ、そのザマは!
    『誰が期待してるって? このチビに』
     オレをチビだって言うなら。スポーツ選手がどんだけ上背欲しがると思ってんだよ。
    『バスケットは身長が大事なんじゃねーのか』
     そうだよ。だから、なのに、そっちは何だよ。タッパあるくせに何で今はバスケやってねえんだよ!

     殴り返す。血が飛ぶ。太い悲鳴が上がる。
    「三っちゃん!」
     何がみっちゃんだ。こいつらと、こんなことのために、バスケ辞めたのか。
    『ソータぁ』
     釣り友達なんかが、バスケより大事か。
     不良漫画のお約束みたいに薄っぺらいこいつらが、バスケより大事か。
     そんなもん選んだら、沈んで、帰ってこれねえんだよ!

     ――それとも、本当は。
     ――そんなものより、バスケに価値はねーのか。
     ――沈んで、帰ってこれなくても、そのほうがマシなんだろうか。

    (ゴミみてーだな……)

     ボコボコに殴られた顔は、痛いというより熱かった。
     その上に降り注ぐ雪は、汚くて、鬱陶しかった。

     湘北バスケ部は、ノリが合わない。
     前キャプテンは腐ってた。おかげでまともにパスを取れる奴もいない。三年が引退してキャプテンが変わっても、腐りきった空気に慣れた部員の実力はお話にもならなかった。ただただ赤木主将が空回りして、暑苦しいだけだ。
     ゴミみてーだ。あそこで、バスケとも言えないようなお遊びだけして、何になる。

     ――ああ、そうか。

    「沖縄が、見えたぜ……」
    「何考えてんの、あんた!」

     オレも、とっくに、沈んでいたんだ。


       2

     ――なんて、思ったりもしたけれど。
     沖縄に帰ってみて、それこそ水底に沈んだみたいに土砂降りの雨に降られてみると、オレはまだここにいるとはっきり自覚する。
     チームがダメでも、ソーちゃんがいなくても、あの人が堕ちてても、オレはバスケをやりたくてたまらない。オレだけでも。

     それに、別にオレだけでもないし。

    「三井、っていうんだってさ」

     見舞いやら授業のフォローやら面倒見のいいヤスは、ついでにあの人の名前とあの後の経緯も教えてくれた。
     オレはだいぶひどいケガを負わせていたらしく、あの人は結構な期間入院したとか。おかげで、暴力沙汰の処分はなんかうやむやになってしまった。停学処分があったところで、どっちにしろ両方ともそれより長い期間入院してたわけだし。
     1年の時からずっと不良グループとつるんでたっていう話を聞いても、もう何とも思わなかった。

    「バッカみてえ」

     オレのバッシュ蹴りやがって、あのヤロー。
     沈んだままがよけりゃずっとそうしてろ。こっちのがずっと良いのに、バカな奴。

     ――三井。それで、「三っちゃん」か。

     あの時の『みっちゃん』は、もうどこにもいない。少年の声に呼ばれて、バスケの世界から出て行った。オレの心の中に引っかかっていた姿も、上書きされて消える。

    『いつでも1ON1やってやるよ』

     あのロン毛ヤローは、それを嬉しいとも楽しいとも、ワクワクするとももう思わない。

    「……バカだな」

     オレは正しく、みっちゃん改め三井サンはマジでバカだった。
     学年上がっても突っかかってくる、マジもんのバカ。相手してらんねえ。なのにしつこく付きまとってくる。
     まだ皆学ラン着てる時期に一人だけ長袖シャツで、スポーツをとうにやめた薄っぺたい体で間抜けな歯抜け面をマスクで隠して。

    「なんだあんたも退院してたのか。――三井サン」

     ヤスから聞いた名前を呼べば、だいぶ薄れていたあの日の面影は完膚なきまでに置き換わる。

    「元気そうじゃねーか宮城、安心したぜ。安心して殴れるな」

     何ヶ月も経ってんのにしつけえ。そこまでオレに執着するとか気持ちワリイ。沈んどけよ、ソーちゃんと違ってどうとも思わねーからさ。

     オレには、あんたなんかより大事なものが――

    「アヤちゃん」

     思い浮かべた瞬間に、オレの女神が通りがかった。ただし男連れ。どういうこと⁉︎

    「なに、そいつはあっ」

     これが花道との出会いだった。振り返れば最悪。

    「コラ宮城……お前、相手を間違えてんじゃねーか」

     あ忘れてた。マジでもう無価値なんだよ、あんたはさ。

    「もういいじゃないすか……あんたらとは痛み分けってことで……うおっ」

     花道に蹴飛ばされて、三井サンの上に倒れ込む。
    『圧をかけろ圧を!』
     圧なんて何もねえ、薄っぺらい体は、簡単に地面に押し倒された。本当にどうでもいい。アヤちゃんの隣の男のほうが問題だ。

    「この……赤頭っ」

     勢い余って三井サンに肘が当たり、下の前歯1本追加で折ったのは、まあ、ちょっと悪かったかなと思う。

     でも、どうでもいい。オレにはもっと大事なもんがある。アヤちゃんのいるバスケ部。ノリが合わなくても、レベルが低くても、バスケ自体とアヤちゃんだけで価値がある。

    「ただいま」

     ただいま、オレの大事な場所。
     笑顔で出迎えてくれるのはボールとゴールとコートだけじゃない。

    「リョータ。もういいのか、体の方は?」
    「ああ」

     コートからオレを呼ぶその声は、オレにバスケを捨てさせて沈めることはない。

    「ヤス……1対1やろーぜ」

     1ON1の相手だって、もうオレには、別にいるんだ。


       3

     ――そう思ってたのにさ。

    「三井は……バスケ部なんだ」

     それを聞いて、一瞬、ヤスが殴られたことさえ忘れた。

    「三井サン……本当なのか…………?」

     少年の気安くて親しげな声に呼ばれて、守られない「また」の言葉を残して、バスケを捨てて沈んだんじゃなかったのか。
    『武石中の三井寿』――語られるその姿はまるでリトバスのソーちゃんみたいなバスケのスターで、薄れて消えたはずの姿が甦る。フリーとはいえ立て続けにスリーポイントを決めた、とんでもなくきれいなシュートフォーム。彼はそのまま、中学MVPになった――すごく、しっくりきた。

    「バスケがしたいです……」

     みっともなく泣き崩れる姿が重なる。ソーちゃんにじゃない。過去の『みっちゃん』にでもない。あの秘密基地の、自分にだ。オレはあそこで泣いて泣いて、古い雑誌とソーちゃんの赤いリストバンドを見つけて、わあわあ大泣きした。そこで、同じように思った。

     ――ソーちゃん。オレ、バスケがしたい。

     そして、三井サンは本当に戻ってきた。
     学外の不良まで率いて体育館を襲撃して、流血沙汰まで起こしておきながら、すげえ神経だ。

     校内での再会は不意打ちすぎた。

    「いっ⁉︎ 何すかその頭」

     髪を切った三井サンは、どこからどう見ても二度と会うことはないと思っていた『みっちゃん』だった。いや人相はだいぶガラが悪くなってたけど、あの時の白いTシャツと今の黒い学ランは真逆だったけど、でも同一人物でしかありえない。

    「まさか、戻る気とか」
    「うるせえ」

     一緒に部室に入って、同時に着替えて、並んで体育館に向かって――気まずいったらありゃしねー。話すこともねーし。ただ、三井サンは一言だけ、オレの目を見ずに言った。

    「オレはあきらめが悪いんだよ」

     何でそれオレに言う?
     体育館の入り口で、オレの横で深々と頭を下げた三井サンの姿には、マジかよ、と空前絶後に驚いた。人間、こんなことできるのか。あそこまでどうしようもなく沈みきっといて、浮かび上がってくることなんかできるのか。
     複雑な気分だった。
     ――じゃあ、ソーちゃんは、何で帰ってこないんだ。
     わかっていても認められないし、口にできない。
     だけど、三井サンの復帰を、オレは拒絶できなかった。

    「2年間のブランクを埋めるのは大変だろうが……がんばれよ三井……」

     木暮サン、声に出てる。

     パスッ、と音がして、ボールはきれいに入った。
     完璧なシュートフォーム。あの頃のままだ。

    「ディフェンスあめーよ、木暮」

     ブランクって何だっけ? と思ったのはオレだけじゃなかった。

    「何が2年のブランクだ、同情なんてするんじゃなかった」

     だから声に出てる。でも、そう言いつつ木暮サンは嬉しそうだ。2年ぶりに帰ってきてくれて嬉しい、と態度が言っていた。

     ――オレには、4年だ。

     思って、思わず首を振る。違う、消えたはずなのに。
     あんなことされて、水に流していいのかよ。オレ、チョロすぎじゃね?

    「フン、オレたちは許した覚えはねーぞ。オレたちは殴られたもんなヤス、な?」

     こればっかりは花道が正しい。

    「えっ。い……いや、ぼくはもう別に……」

     ヤス、おめーは優しすぎるぞ。
     花道やオレは殴り返したが、丁寧に出て行ってくれるよう頼んで殴られただけのヤスが許したら、他の奴らは誰ももう怒れねーじゃん。
     せめて、まったく何の落ち度もないヤスくらい怒ってくれねーと、困る。オレは、オレだけじゃ、もう突っ張れない。
     だってホラ、三井サン、ボール持って涙ぐんでる。やめてくれよ、頼むから。
     このまま、あの日の『みっちゃん』が復活したらどうしよう。ソーちゃんを重ねたくなんかないのに。ソーちゃんはこんな、グレて八つ当たりして後輩リンチするような奴じゃないんだから。

     でも、虚しい抵抗だった。いや何に抗ってんのか自分でもよくわかってなかったけど。
     インターハイ予選、初戦の三浦台戦はオレも三井サンもベンチスタートだった。

    「キミたちはケンカしたからおしおきです」

     ハイ、『宮城リョータ、ただ今戻りました。御迷惑をおかけしました』っつって早々に乱闘したのはオレです、安西先生。
     でも正当防衛だと思う。どう考えても。最初はガマンしたのに。
     正当防衛だろうが何だろうが暴力はダメっつーなら、何で赤木のダンナはいいんだ? 三井サンに、死にかねないほどのビンタ複数かましてたぞ?

    『宮城はパスができます』

     いや、いいんだけどね。赤木のダンナにペナルティを望んでるわけじゃない。
     ノリは合わなかったけど、去年は湘北で唯一、オレと同等のレベルのプレイヤーだった。
     赤木のダンナもベンチに下げろってんじゃなくて、オレを出せよ、ってことです安西先生。

     しばらく反省させられ、もうケンカはしないと約束して、やっとメンバーチェンジ。
     三浦台は、全然、まったく、大したことなかった。

    『宮城はパスができます』

     ――オウよ。

     5番と8番をまとめて抜いて、ブロックしてきた4番の横にワンバンして赤木のダンナにパス。ダンナはそのままダンクを決めた。

     もう一度5番を抜いて、ボールを狙ってきた7番の手が届く前に――

    『宮城はパスができます』

     チャラいと言われつつも、ダンナにそう言わしめた、背中からのノールックパス。その先には三井サンがいた。

     あの時とまったく変わらない、誰よりもきれいなフォームで放たれたボールは、ボードどころかリングにすら当たらずに真ん中に落ちて、パスッとネットだけを揺らした。

    「よォ――し」

     ダメだ、もう。
     怒れねーわ。嫌いにもなれねーわ。
     こんだけ、バスケできるんだもんこの人。
     チョロいわ、オレ。


       4

     とはいえダチになったわけじゃない。チームメイトとして、良好な関係ってだけ。
     そこで、何とか踏みとどまりたかった。なのに三井サンときたら。

     翔陽戦では、フリースロー3本とも決めるし。
     その後も、「宮城」なんて呼ぶからパスくれてやったら、てっきり中に切り込んでいくかと思ったのにそのままスリーポイント決めるし。オレのパスからのノータイムスリーポイントなんて、もう完璧『みっちゃん』じゃねーか。
     そこからお手本のようなきれいなフォームで、怒涛の4本連続スリーポイント。ここまでくると笑えた。

     それでもスリーだけの男だったら、ソーちゃんを重ねずに済んだのに。

    「あめーよ。3点だけじゃねーんだ、あの人は」

     海南戦の時にはもう、思い知っていた。頼りにするほどに。オレが、3点以外を期待してパスを出すほどに。
     三井サンは、スリーポイントが派手なだけで、実際はオールラウンダーだ。技術もセンスも抜群で、何でもできる。苦手なことがない。加えて184センチの長身、湘北スタメンじゃオレの次にチビだが、バスケ選手としても高校レベルなら決して低くはない。おまけに目端も利くし判断力も対応力もある。相手の動きを読む動体視力と経験知、ディフェンスを抜き去るドリブルテク、スティールにパスカット、フェイクの巧みさ、相手の力量を見定めて入らないシュートは放っておくこともできるしファウルをもらうのまで上手い。いや出来過ぎだろ、ソーちゃんかよ。スタミナが切れないうちは無敵だった。
     
     とどめに、世話焼き。

     海南戦後の練習で、安西先生の意を受けて、三井サンは花道に指導プレイをした。

    「お前はもっとゴール近くでボールもらわないとダメなんだよ桜木」
    「そんなドリブルで抜けると思ってんのか桜木」
    「リングはすぐそこだぞ そっからシュート狙ってみろ」

     どうしようもなく、昔を思い出す。

    『圧をかけろ圧を!』

     それよりさらに、昔のことまで。

    『簡単に背を向けるな! 自分でピンチ呼んどるんど!』

     ――違う。ソーちゃんじゃない。

     ソーちゃんはグレたりしねーし、後輩に因縁つけて暴力振るったりしねーし、人前でみっともなく泣き崩れたりしねーし。

     なのに三井サンは、それからも繰り返した。

    「よし、オレがディフェンスになってやるよ桜木」

     陵南戦の前日、花道の特訓に付き合って、ディフェンスに。

    「来い」

     インターハイ出場を決めた後、合宿前に、流川の頼みで1ON1を。

     ソーちゃんじゃない。ソーちゃんじゃない。ソーちゃんじゃないのに。
     三井サンは何度も思い出させる。

     ソーちゃんとオレの誕生日、アンナがケーキを切った。
    「ソーちゃん、何歳?」
    「……ハタチ」
     そう、ソーちゃんはオレより3歳上で、三井サンとも2歳離れてて、三井サンよりずっと大人だ。なのに――
    「生きてたらね」
     アンナの言葉に、口の中の甘さの塊が喉に詰まる。
     アンナは、ソーちゃんの死を理解していなかったアンナは、もうとっくに受け入れて前に進んでいた。オレは、三井サンのふとした姿にソーちゃんを思い出しては、ずっと振り切れないでいるのに。
     いたたまれなくなってリビングを出た。でも、アンナの声はよく通る。

    「ハタチかー。ずっと3歳差。とっくに追い越してるのにね」

     アンナは今、15歳だ。
     ソーちゃんがいなくなった時より、今のアンナのほうが年上なのか。

     自室に逃げて、インターハイ出発の準備をした。
     母ちゃんはその夜、ソーちゃんのミニバスのビデオを観てた。ソーちゃんが1試合で20得点決めたやつだ。

     手紙を、書いた。

    『母上様』

     何を伝えたいのかまとまらなくて、破っては書き直した。

    『ソーちゃんが立つはずだった場所に、明日オレが立つことになりました』

     それがどういうことなのか、立ってみなければきっと本当にはわからない。


       5

     そして迎えた山王戦。

    「引くなよ、宮城!」

    『簡単に背を向けるな!』
     ソーちゃんの声がかぶる。

     ――引かねーよ!

     振り切って攻める。
     前半は湘北リードで終えた。

     母ちゃんが観てたビデオ。20得点といえば、翔陽線の三井サンの得点も20点だった。
     山王戦での三井サンは、フラフラになりながらも、それをさらに上回る個人得点を上げた。
     そして、ソーちゃんが倒すって言ってた最強山王相手に、オレと、三井サンと、赤木のダンナと、流川と、花道で、勝った。

    『とっくに追い越してるのにね』

     アンナ、お前の言うことが正しいのかもしれない。
     だけど、お前みたいに受け入れて進めるかは別問題なわけで。オレはいつも、尻込みばっかりだ。

     でも――

    「山王って、どうだった?」
    「強かった」

     それ以上のことを、母ちゃんの前で、声に出して言えた。

    「……怖かった」

     母ちゃんに腕を揺すられて、手はもう安全地帯のポケットには戻れなくなった。ソーちゃんのリストバンドを、母ちゃんに渡す。

     怖いけど、先に進むしかない。
     オレは、切り込み隊長なんだから。

     家に帰ると、テーブルにソーちゃんの写真が飾られていた。
     あんなに大きかったのに、写っているのは12歳の子供だ。ソーちゃんはハタチにならねえ。12歳のままだ。

    『小学生?』

    「……あ」

     三井サンがオレの人生に現れた時。
     三井サンは、もうソーちゃんより年上だった。

     ――そうか。

    「ソーちゃん」

     母ちゃんもアンナもいない時に、写真に話しかける。

    「今は、オレがこの家のキャプテンだよ」

     アンナにお株を奪われそうだけど。
     いや、あいつはエースだ。流川にも負けないくらいの。

    「それから、最強山王を倒した、湘北のキャプテンにもなるんだ」

     だから、もう。
     重ねることはない。

     三井サンは、家のキャプテンだったソーちゃんじゃないし。
     ソーちゃんと違って時が動いているあの人は、もう『みっちゃん』でもない。
     少年の親しげな声に呼ばれて、沈んで――死んで、しまったソーちゃん。対照的に、どれほどみっともなくても、生きてバスケに戻ってきた。

     あの人は、三井寿だ。


    ————————————————————

    Side 三井


       1

     ――MVP、MVPって……オレには三井って名前があんだぞ……!

    「オレの名前を言ってみろ!」

     いつからだろう。
     バスケが好きで、バスケ部に入って、たくさん練習して、メキメキ上達した。
     中学生の頃にはもう、そこらの誰より上手かった。シュートは入るものだった。ディフェンスは、相手のなら抜くもので、自分のなら絶対に抜かせない。どのポジションだろうと、何でもできた。

     だけどそのせいで、周囲にとってオレ自身はいつの間にか透明になっていった。皆にとってオレは中学バスケのエースでスターで、そこにいるはずの三井寿には誰も目を向けていない気がした。オレを憧れの目で見る武石中のチームメイトやダチ。だけど奴らの視線はいつも微妙にオレからピントがズレて、オレじゃなくてバスケを見ている。
     
     バスケが好きで、バスケのない自分なんか考えられない。でもそれは、オレ自身がバスケと一心同体なわけじゃない。
     なあ、皆。オレが、バスケをしてるんだ。オレが、バスケを好きなんだ。シュートを投げる手は誰のものだ? ディフェンスを抜き去る脚は誰のものだ? 

     中3の年には武石中のキャプテンになって、自信満々のエースだなんて言われた。
     自信はあったさ、バスケの技術には。シュートも、ドリブルも、パスも、ブロックも、それだけ練習してきた。オレより強い奴は県内にはいないと見てとれるだけの目も鍛えられていた。
     だけど、オレ自身には――

    「このスーパースター三井がいる限り 武石中は絶対勝ァつ」

     本当に自分に自信がある奴は、自分のことをスーパースターなんて言わない。自分の名前を連呼する必要もない。
     どこかで、わかっていた。だけど必死で否定した。
     自分の名前を呼んでオレはここにいると叫ぶ一方、オレは自分をスターと称し主役と称し、周囲の視線のピントの合うところに自分から入っていくようになった。周りがオレを見るんじゃなくて、オレが周りの見るように合わせていった。
     それでいいのかと、時折湧き上がる不安にも、気づいていないフリをした。

     でも。いや、だから。

    「最後まで……希望を捨てちゃいかん。あきらめたらそこで試合終了だよ」

     その人だけは、オレと一体化したバスケじゃなく、オレ自身をまっすぐ見てくれた。
     その時ボールを持っていたのはオレじゃなくてその人で、自信満々のスターなら絶対に思わないような『もうダメだ』というオレの内心を見抜いて、鼓舞してくれた。

     だから安西先生のいる湘北に進学した。海南や陵南のスカウトを蹴るなんてもったいないと言われたが、MVPの肩書きしか見てない奴らに用はなかった。

     だけど、名前が通りすぎていたオレは、安西先生の湘北バスケ部でもやっぱり『MVP』だった。

    『MVP相手によくやってるぜ』
    『MVPに勝ったらジュースおごってやるぞ』

     そこには赤木がいた。オレよりよっぽど体格に恵まれたプレイヤー。技術はまだまだだったが、そんなもん練習すりゃ何とでもなることはオレが一番よく知ってる。
     皆が赤木を見ていて、オレは赤木のための咬ませ犬か当て馬だった。まだオレのほうが強かったけど、皆、MVPでも何でもない赤木を見ていた。安西先生さえ。

     それでもその視線を引き戻す自信はあったんだ。あのケガさえなければ。

     学生スポーツの時間は短い。焦った。治ったと思ってまたケガをした。
     短い時間の中で、オレが一歩も進んでいないうちに、赤木はドンドン上達した。インターハイ予選の時には、まだゼンゼン未完成だったが、皆が赤木を見てた。オレのことは、もう、MVPとしてすら誰も見なかった。

     もう、バスケに自分を重ね合わせることすら、できなかった。


       2

     バスケに触れていないと、時は速い。
     コートに立てば40分はあんなに長いのに、1年があっという間だった。

     赤木は、バスケ部で頭角を表し始めた。恵まれた体躯に技術が追いつき始め、何よりストイックにトレーニングに励む姿勢がブレない。それを、オレは悪評として伝え聞いた。悪口は広まるのが早く、聞こうとしなくても耳に入ってくる。赤木についていけない奴のほうが多く、湘北バスケ部はどんどん数を減らしていった。
     それでも、抜ける奴の傍ら、入る奴もいる。

    「期待してるからだよ。赤木さんは、誰よりもリョータのことを」

     体育館から出てきた2人の1年がバスケ部だというのは、持ち物を見ればわかった。
     どっちも、チビだった。

     あいつらは、MVPじゃなく、赤木を見た。赤木には、体格があった。
     その赤木は、こいつを見ている。こいつには体格すらない。

    「誰が期待してるって? このチビに。バスケットは身長が大事なんじゃねーのか」

     皮肉なことに、オレはバスケ部に行かなくなってから背が伸びた。赤木ほどじゃねえが、世間一般にはかなりの長身だし、バスケの世界でも高校レベルなら悪くない部類だろう。
     だが、今さらそれに何の意味もねえ。

    「おいロン毛! いつでも1ON1やってやるよ。そのかわりお前、負けたらボーズな!」

     ――1ON1だと

     内臓の内側が、一瞬、全部冷たい岩になったみたいだった。
     不良グループにタンカ切るのに出るセリフじゃねえ。あいつは、知ってるのか。元MVPを。その上で、勝ってやるとでも言ってるのか。

     ――潰す。

     絶対に、潰してやる。
     赤木のような身長もないくせに。赤木と違って年下のくせに。そんな奴にまで、このオレが!

    「オレの名前を言ってみろ!」


       3

     宮城はオレの歯を折って、しばらく入院した。
     だけどあいつはまっすぐバスケ部に戻ろうとした。

     ――許せねえ。

     何もかも、許せねえ。オレは、ここにいるのに。

    「ここは大事な場所なんだ」

     なら、ブッ潰してやる。

    「帰ってください。お願いします」

     宮城の隣にいたチビもだ。『期待してるからだよ』――誰が期待してるって? 誰に、期待してるって?

    「てめーらいいかげんにしろよ……オレをやりたいんならオレにこい 面倒くせーことしなくても勝負してやるぞ ああ ビビってんのか三井」

     宮城は、オレを見ていたが、そこに映るのはオレじゃない。名前を呼んでいてさえ、宮城の目に映るのは、何かどうでもいい存在だった。あるのはマネージャーへの揶揄やもう1人のチビがやられたことの怒りで、オレはただの的。当て馬や噛ませ犬ですらねえ。

    『不良マンガかよ。本当にあるんだ、こーゆーの』
    『もういいじゃないすか……あんたらとは痛み分けってことで』

     オレを前にした宮城はどれだけ脅したって平気な顔をしている。こいつはオレのことなんかどうでもいい。誰も彼も、オレ自身のことなんてどうでもいい。

     ――ふざけるな、くそ! ふざけるな、ふざけるな オレは、ここにいるんだ

     どっちの、誰のなんてわからないくらい血を流した。
     その果てに、木暮が進み出た。

    「三井は……バスケ部なんだ」

     それを聞いた宮城が、初めて、オレ自身を見た。

    「三井サン……本当なのか…………?」

     ――どういう、ことだよ。

    『いつでも1ON1やってやるよ!』

     オレが武石中の三井寿だって、知ってたからあんなセリフが出てきたんじゃねーのかよ?
     期待の新人だったんだろ。ならまさか、高校からバスケ始めたわけじゃねーだろ。1学年しか違わねえのに、県下ナンバーワンでも記憶にも残らねーのか。

    「三井サン」

     MVPじゃなくて、オレの名前を呼んでいるのに。
     2年前は、それを求めていたはずなのに。
     宮城の声が痛烈に突き刺さった。

    「宮城」

     3年前の中学MVPを知りもしない宮城。オレのことなんて眼中にない宮城。

    「いちばん過去にこだわってんのは、アンタだろ……」

     ――うるせえ! うるせえ、うるせえ

     だって、オレの今にはなにもねえ。それでどうして、過去にこだわらずにいられるんだ。しがみつくには虚しい過去でも、他にどうすればいいって言うんだ。
     誰かに、MVPでないオレ自身を見てほしかった。
     だけど、MVPでないオレ自身に、何の価値もなかった。今のオレには何もねえ。宮城お前が一番、今のオレなんて無価値でどうでもいいって態度だったくせに、そのお前がそう言うのかよ

     ――だけど、わかってる。

    『三っちゃん』

     オレの周りには、徳男たちがずっといた。どんなにヤバいことでもオレのために手を貸してくれる、バスケなんて関係ない、オレ自身のダチだ。
     今あるそれに価値を見出だせないのは、何もないと思ってしまうのは。オレが結局、バスケと一緒にある自分を見てほしいと思うからだ。MVPじゃない三井寿自身は、それでもバスケをする三井寿でないといけなかった。

     バスケをするオレ。バスケを好きなオレ。それが、三井寿だ。

    「バスケがしたいです……」


       4

     意地もプライドも捨てて、髪を切ってバスケ部に戻ると決めた。
     だが、不安だらけだった。受け入れてもらえるかどうかというのもあるが、オレ自身の内面の問題もあった。
     MVPとして見られることが嫌だったが、バスケプレイヤーではありたい。
     かといって、元MVPにしがみついたり、キャプテンなりエースなりの称号に寄っかかったら同じことだ。
     でも、じゃあ、オレは何だ? バスケと共にある、ということだけは2年かけてようやくわかった。だけど、それだけじゃあまりにも漠然としすぎてる。そこが曖昧なままじゃ、結局2年前までのように、周囲の見るように自分を合わせるだけだ。そしてその末路は、無理が来てケガでぶっ倒れることだと思い知っている。

     まとまらない考えのまま部室に向かっていた復帰初日、最初に会ったのは宮城だった。

    「いっ 何すかその頭 まさか、戻る気とか」

     飛び跳ねんばかりの驚愕、宮城の癖っ毛も大げさに揺れる。
     ふと、脈絡もなく、4年ほど前にストリートバスケのコートで会った小学生を思い出した。1人でずっと練習してたから、オレから声かけて1ON1の相手をした。
     あの小学生はすぐに背を向けていなくなってしまったから、ほんの短い時間だった。1回ボールを落としただけで、あいつはすぐやめた。

    『もうあきらめんのか』

     オレが声をかけても、あいつは振り向かなかった。

    『うっせ』
    「うるせえ」

     あの時の小学生は、もうバスケをやめているかもしれない。
     でも、オレはあきらめねーぞ。

    『あきらめたらそこで試合終了だよ』

     バスケをするオレ自身にMVP以外の価値があるとしたら。周囲がどう見ようと、透明にならないでいられる、空っぽじゃないオレ自身の姿は。

    「オレはあきらめが悪いんだよ」

     あきらめないこと。それしかない。


       5

     オレは、意外なほど早く許されてしまった。
     一番酷い目に遭わせた宮城は、普通にパスをくれる。いや普通じゃねえ、めちゃくちゃいいパスだ。
     オレがそれでスリーポイントを決めたら、素直に称賛してくれる。

    「すげーな、おい」
    「本当に入れるもんな……」

     恵まれすぎだろ、オレは。
     今、宮城の目に映るオレは、出来過ぎだった。宮城は別に元MVPを見ていない。オレを見ている。まだ時折、やはり焦点が揺らぐことはあったが、すぐにその瞳の中でオレの見てほしいオレの姿が像を結ぶ。

     ――オレが、あのままバスケ部に残っていたら、宮城は最初からオレをこんなふうに見てくれたのか?

     それとも、元MVPの先輩として出会ったら、やはり宮城もそんなふうにしか見てくれなかったんだろうか。

     答えは明らかだった。

    「あめーよ。3点だけじゃねーんだ、あの人は」

     宮城にとってオレは、MVPシューターってだけじゃねえ。ドリブルで抜く技術も、コース取りのための目と判断力も、いつだってちゃんとオレ自身を見ていた。ポイントガードの習性だろうか。宮城は人をきちんと見て、勝手なイメージではなくそいつ個人の強み、弱み、ありのままの姿をあぶり出す。
     思い知るにつけ後悔しかない。ずっと欲しかったものは、遅くとも宮城が入部してきた1年前には手に入るはずだったのに。なぜオレはあんなムダな時間を過ごしてしまったのか。
     宮城は、中学の時の、三っちゃん三っちゃんと持ち上げるばかりの奴らとは全然違った。

     ただ、その宮城も時々、オレを見る視線が一瞬ブレることがあった。本当に一瞬で、すぐ戻るから、別に気にはならなかったけど。どだい、他人を完璧に理解するなんて無理なことだし。
     それに、その一瞬のピントのズレも、インターハイが終わってからはなくなった。
     目の上のタンコブだの、オレの時代だの言いながら、宮城はオレに個別メニューを用意してしごいた。

    「冬の選抜に行けるのは1チームだけ。翔陽、陵南、海南、全ーっ部倒してこの湘北が行くのよ! ってことだから、三井サン誰よりも強くなってよ」
    「すげーこと言うなあ」

     オレには2年もブランクがあってスタミナはゴミ虫レベルなのに、ずっとトレーニングを続けてきた他校の強豪プレイヤーに勝てと言う。それが、発破をかける誇張表現でも何でもないとわかったから、オレもなかなかうんと言えなかった。時間はあと数ヶ月しかなく、その間にもブランクのなかった他校の奴らだってトレーニングを重ねてくる。
     だが、宮城は軽く鼻で笑った。

    「あのさ、三井サン忘れてない?」
    「何を」
    「オレ、インターハイは予選からずっと、アンタのせいでお仕置きベンチスタートだった初戦三浦台を除いてフル出場。アンタと流川がスタミナ切れを起こし、花道が退場しまくり、赤木のダンナがケガしても、オレはずーっとフル出場」
    「自慢かよ」
    「オレも、アンタほどじゃないにしろ、ブランク明けだったんだよ」

     呼吸を、忘れた。
     そうだ。こいつはオレのせいで長く入院する羽目になって、数ヶ月バスケから離れていた。
     宮城を見返すと、呆れたような顔とまともに目が合った。

    「2年がどれほど重いもんか知らねーけどさ。でもアンタ、インターハイ予選から本戦までの間に、ちゃんとスタミナ増えてはいたじゃん。翔陽戦では途中リタイアで陵南戦ではぶっ倒れ、でも豊玉戦はフル出場で平気な顔してたじゃねーか。山王戦だって、ヘバりまくってたけど、フル出場で得点重ねるくらいのエネルギーは残ってたろ。冬までまだ時間はあるんだ。花道みたいな天性の化け物スタミナとは言わねーけど、オレくらいのスタミナは絶対つく」

     発破をかける誇張表現なんかじゃねえ。実体験に裏打ちされた、現実的な見通しだ。
     それだけに、こみ上がってくるものを抑えきれない。

     宮城は続ける。

    「それに、三井サン気づいてる?」
    「何にだよ……」
    「翔陽も山王も、アンタを抑え込むには、消耗させてガス欠に追い込むしかなかったんだ。てゆーか、バテてもスリー決めまくってたじゃねーか」

    『いくら山王といえど、三井寿は怖いと見える……』

    「でも、アンタは3点だけの人じゃねーんだから、スリーポイントばっかり見せてたらせっかくの他のテクニックがもったいねーぞ。止めることも抜くことも走ることもできなくなっても、スリーポイント入れられるのは見事だけどさ。オレは、あんたの他のも見てみたい。……マンツーマンの、ディフェンスとか。赤木のダンナが抜けて、今の湘北じゃアンタ、タッパあるほうなんだから」

     もうオレを、元MVPとして見る奴は少ない。だけどその代わりに、スリーポイントの三井、と見られるようになった気がする。それは、結局同じことだ。オレには三井寿って名前があるのに。
     ――言ってみろ。オレは誰なんだよ?
     宮城は絶対に、その答えを間違えない。

    「絶対にあきらめない男なんだろ。3年前は、牧も藤真も差し置いて、アンタがナンバーワンだったんだろ。今の三井サンはもう十分あの頃を超えてるって、安西先生のお墨付きだ。じゃあさ、少なくとも神奈川の3年の誰にも、アンタは負けるなよ。言っとくけど、インターハイ予選の神奈川県大会MVPの牧は、アンタと同じ184センチだぜ」

     宮城はまっすぐオレを見てくれるのに、オレのほうが直視できなかった。

    「牧のマッチアップは宮城、オメーじゃねーか……」

     ずっと欲しかったものは、もうここにある。だから、オレは勝てる。
     オレは本当に、キャプテンに恵まれた。

    「――何をすればいい、キャプテン?」

    「ロードワーク。ただし、膝に負担かけすぎちゃ本末転倒だから、海に出て砂浜走れよ。あと、ヤスが水泳部に話つけてきてくれた。プールが開いている間は、水泳部に混じってとにかく泳いでこい。マネージャーは忙しいんだから、トレーニングの記録とかは自分でやれよ、最年長」
    「砂浜ランはともかく、プールは部活の時間しかできねーぞ? バスケの練習どうすんだよ」
    「ヤスが申請して、朝5時から体育館使えることになってるぜ」

     オイ、早朝から1人でやれってか。部活の時間は1人でアウェーで黙々泳げってか。

    「鬼キャプめ」
    「次は勝ちにこいよって、言われたから。約束……はしてないけど、勝ちに行くって決めた。そのためなら鬼にもなるさ」
    「何だ、それ。牧とか藤真とそんな話してたのか? あ、それとも彩子?」

     宮城は笑って、しばらく答えなかった。

     ――オレの名前を言ってみろ!

     拳に訴えてそう迫る必要はもうない。宮城は絶妙なパスのように、欲しい答えをくれる。

    「いや、三井サン」
    「何だよ?」

     呼びかけられたと思ったのに、宮城は含みのある笑い方をしただけで踵を返して行ってしまった。何なんだ。

     まあ、いいか。

     ――オレは誰だ?

     あきらめなければ、その答えを見失うことはない。万一わからなくなってしまっても、宮城が答えを知っている。

    「ロードワークでも何でもやってやるぜ」

     オレは、キャプテンの指示通り、砂浜を駆けた。
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