窓辺の蝶窓辺に一羽の黒い蝶々が止まる。
ぼんやりとした視界にそれを収めていれば羽をひらりと瞬かせた。
午前から午後に移り変わる瞬間の穏やかな日光が蝶を照らし、その輪郭を羽の内の模様と共に透かしていく
柔らかい光に透かされた羽の内は黄、緑、青、赤の色が浮き上がり燐光していた。
窓辺の蝶に金色の誰かの影が重なる、指先を近付ければ存外それは逃げる事は無く爪先に触れそうな距離まで
「騎士様?」
不意に呼ばれた愛称は慣れ親しんだものだ
声の方に目を向ければ白い衣服に目を隠す黒い布に一瞬だけ網膜が焼かれる
目を細めたのを気付かれていないと良いのだが
「日向ぼっこですか?」
「ああ、そんな所や」
蝶はこちらに近付くと俺の指先に気付いたのだろう覗き込むように体を屈め「まあ」と微笑んだ
「珍しい時期の蝶々ですねぇ、お天気に誘われたのかしら」
くすくすと笑う、薄く紅を引いた口元が動く
蝶の羽の赤い色が視界の端に映る
気付けば腕を伸ばし、その白い輪郭を掴む
呆気に取られた顔のまま引き寄せ、笑んでいた口を自分のそれを重ねる。
すぐに離し顔を見る、白い頬に化粧のそれでない紅が灯る
蝶は嬉しそうに口元を綻ばせ、俺の胸に手を添えた
「ああ、騎士様。もう一度」
その要望のままにもう一度引き寄せて唇を重ねる。
火照っていく体を搔き抱いて目を隠す布に指先を掛けて解いていく
潤んだ青い瞳に苛立ちに似た、何かを感じしかしそれを掻き消すように細い体を壁に押し付ける
火照る熱が体に宿っていた。
窓辺の蝶は気付けば飛び去って行った。