無垢なる誘惑人間の欲の儘ならなさよ。下手に知性がある分、本能に忠実なだけの獣よりよほど厄介だ。
アビスと恋人関係になってから二ヶ月ほどが経過した。泊まりでトランプをするなどはそのままに、アベルと目が合えばやんわりはにかむ。アビスの、たがいちがいの瞳が眩しげに細められるのがアベルは気に入りで、その眼差しが向けられるだけで心が満たされた。しかし眠りに就く際の無防備さには日に日に苛まれ、どうしたものかとひとり悩んでいる。
全幅の信頼を裏切る真似はしたくない。ただでさえ長いこと彼を道具呼ばわりしていた上に、アビスはアベルのためならその身を投げ出すことを厭わないのだ。かける言葉をひとつ間違えば望まない展開に陥いるだろう。アベルが求めるのは一方的な蹂躙ではなく、対等な立場での密事だ。
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