キスミークイック『今日はキスの日』
SNSのトップニュースに乗る文字を武捨海斗は
興味なさげにスクロールした
休憩時間の暇つぶしにと何気なく開いたが
ページを捲れど捲れどカップルがどんなシュチュエーションでキスをするのか、付き合ってどれくらいでするのか、etc
今背後に部下が立ったら
とりあえず技をかけて一切の記憶を消し去らなきゃいけなくなる内容ばかりだった
「隊長ー今日はもう上がっていいって副隊長、g」
「なっっ、なんすかっっなんなんすか」
ギブギブと腕を叩く部下を解放すれば普段の数倍シワの寄った眉間に
ひぃと情けない声を出された
「俺の背後に立つんじゃねぇよ」
「いや、どこの13っすか」
油断も隙もありゃしない
若干八つ当たり紛いな溜息を吐きながら乱暴にスマホをポケットへと捩じ込んだ
あいつもキスの日だからってはしゃぐたまじゃねぇだろ
⿴⿻⿸
「いらっしゃーい」
深夜クローズの1時間前
他に客の居ないいつもの店内に足を踏み入れれば
蒼月がグラスを磨きながら出迎えた
「いつもの」
「あぁ」
「はーいよ、あ、その前にさこれ飲まない」
「」
そう目の前に出されたカクテルグラスに首を傾げた
「ちょい苦めなんだけどさっぱりするからさ」
サービスだというその酒を飲めば
ベースがスコッチなのだろう舌に転がる特有の甘みとそれを追うようにオレンジとハーブの香りが広がった
「ど」
「ん、うまい」
「そりゃ良かった
今日にピッタリな酒飲ませたくてさー」
「今日に」
ペラペラとカクテルのベースやらアレンジやらを喋る蒼月の顔は薄暗い店内でも分かる程赤く染まっている
こいつの口数が異様に多くなる時は何かを誤魔化す時だと最近わかって来たことだ
「蒼月」
「な、なに」
「今日はやけに饒舌だな」
「そりゃ、お客さんと居ますしー」
誤魔化すようにキッチンへ下がろうとする蒼月の腕をカウンター越しに掴めば軽くこちらに引き寄せる
「酒の名前くらい教えろよ、マスターさん」
キスミークイック
早くキスして