ミルギル──髭モジャマッチョ。
ギルダスを表す言葉としてこれ以上相応しいものはないだろうとミルディンは密かに思っている。顔から察しの通りギルダスは鎧の下も毛むくじゃらで、命名したカノープスとは大違いだ。単純に言うと女性にモテるような見た目ではない。本人も気にはしているようで、過去に一度「背毛を剃ってくれ」と頼まれたことがある。ミルディンが揶揄うとギルダスはそれ以来頼むことは無くなったが、何度か背中に切り傷をつけていたのを目撃したことがある。それもまたミルディンが「戦以外で背中に傷を負うなんて、ギルダスは物好きですね」と揶揄ったのでそれ以降ギルダスはムダ毛処理を諦めたようだった。
「──やっぱりさ、男ってのは逞しくねえといけねえよなぁ。女にはそれが分かんンねぇのかな、──ったくよ」
そう言って酒を煽るギルダスは開き直ったように見せて何とも見苦しいものである。なのでこれまたミルディンが
「いつまでもくよくよ悩むなら、貴方はよく女性の気持ちが分かるんじゃないですか?巷の娘よりギルダス、貴方の方がよほど女々しいですよ」
──と、毒を吐いたのである。髭のいたるところに泡をつけたギルダスが掴みかかってきたので、これ幸いとばかりにミルディンは唇を奪ってやったのだった。さすがに初めてではあるまいと思っていたし、酒の勢いに任せても許されると思ったのだ。無論、その後ギルダスに殴られることも想定内だったが。
殴られた頬をさすると髭がざりざりした。あまりにも高い声で名を呼んでくる女性が多いために、わざと生やした無精髭だ。しかし女性からの評判はミルディンの期待を裏切り、ワイルドでステキ♡と好評で、これがまたギルダスの怒りを買うのだった。
(全く、人の気も知らないで)
貴方の真似をして生やしたんですよ、と言ったらギルダスはどんな顔をするだろうか。
「お前、変わった趣味してンな」
口をへの字にしてカノープスが言う。どこで知ったか、あるいは本人から聞いたか。
「有翼人でありながら人間の込み入った事情に首を突っ込む貴方の方が変わった趣味をお持ちなのでは?」
「好きで関わってるんじゃねェよ」
「そうですか。──ギルダスから聞いたのですか?」
カノープスは頷いた。
「旦那、どうしよう。女にモテねえのにミルディンに迫られちまった〜、──ってナヨナヨして相談にきたぜ。都合のいい時だけ人生の先輩として頼ってきやがる」
「羨ましい限りですよ」
「迷惑してンだよ、こっちは」
俺だって同性愛は分かんねェよ、とカノープスは腕を組んでブツブツ文句を言っている。結構な時間絡まれたようだ。
「──とにかく、年下のお前に言うのもなんだが、あんまり困らせてやるなよ」
「困っているからいいんですよ」
「──は?」
「だって、貴方に相談するほどギルダスは私のことを考えているということでしょう?こうでもしないと、彼の眼中にありませんから」
「い、意味分かんねえ」
「好きな子ほどいじめたくなる、というヤツですよ」
ミルディンの表情はいつもと変わらない。だからこそ余計にカノープスはゾッとして、これ以上深く立ち入らないようにしようと思った。明らかに引いているカノープスにミルディンはさらに付け加える。
「──例えば、ギルダスと連れションに行ったとしましょう。そこで彼は私のモノを見てこう言うでしょう。色男はイチモツも立派なのかと。それに対して私は、貴方がお望みであれば排尿が済んだ貴方のものを咥えて差し上げてもいいですよ、と返すことができる。そのくらいギルダスに夢中なんですよ、──今の私は」