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    氷輪(ひょうりん)

    @hyorin_handmade

    夢の話がしたい人。とっくの昔に成人済み
    現在は金カム沼ですが、ホームは無双沼。
    二次創作一覧(https://nanos.jp/hyorindrops/page/12/)
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    金カ夢ark
    有古くん、誕生日おめでとう。
    半日クオリティで申し訳ないけど、祝福の気持ちは沢山沢山詰め込んでおいたよ。
    そのうち加筆訂正すると思いますので、いろいろ目をつぶってください
    菊田さんがでしゃばってるけど、気にしないでください

    #有古力松誕生祭2023
    #金カ夢
    aimingForTheGoldenHelix
    ##有古力松

    わがままひとつ今日は俺の誕生日。それを知っていた上司の菊田さんが、食事に誘ってくれた。定時を少し過ぎてから菊田さんと一緒に会社を出る。
    よく行く店に入り、いつものように注文を済ませた。

    「有古、誕生日おめでとう」

    乾杯、と菊田さんが掲げたグラスに自分のグラスを軽く合わせる。明日も仕事なのでそれほど飲めないが、まだまだ暑い日が続くなかで仕事終わりの一杯はうまい。
    料理も運ばれてきて箸をつけたところで、

    「遅くなりました」

    とよく知る明るい声が響いた。驚いて個室の入り口を見れば、予想通りの人物が靴を脱いでいる。
    彼女が来るなんて聞いてない。
    慌てて菊田さんを見るが、菊田さんは俺の視線に気づいていないのか、彼女を俺の隣に座らせておしぼりを渡している。

    「有古くん、誕生日なんだって?おめでとう」
    「あ、あぁ……ありがとう」
    「今日、菊田さんから聞いたから、プレゼント用意してないの。今度ね」
    「気持ちだけで十分だ」
    「私があげたいの」

    何がいいかな、と呟いている彼女から、正面の菊田さんに視線を動かせば、頬杖をついてニヤニヤと笑っていた。
    この人、確信犯だ。
    俺の気持ちを菊田さんに教えたことはないはずなのに、何でこの人は知っているのか。
    思わず睨み付けるが、菊田さんは全く気にする様子はない。
    やがて彼女の飲み物が運ばれてきて、改めて乾杯とグラスを合わせた。

    しばらくは料理を食べながら、話に花を咲かせていた。といっても、主に喋るのは菊田さんと彼女で、俺は聞き役だ。これは出会った頃から変わらない。
    菊田さんの話に笑う彼女を見て、俺も同じように彼女を笑わせる事が出来るだろうかと、ふと考えてしまった。俺は決してお喋りな方ではない。冗談を言う質でもない。仕事の話ならどうにかなるが、こういった席で何を話していいのかよく分からない。
    きっとつまらない男だと思われているんだろうな。
    せっかく誕生日を祝ってもらっているというのに、少し気分が沈んでしまった。

    「有古くん、酔っちゃった?大丈夫?」

    隣の彼女が心配そうに下から覗き込んできた。急に近付いてきた彼女に驚くも、大丈夫だと返す。本当?と尚も心配そうな彼女に大丈夫だと繰り返した。

    「お、唐揚げ残ってるな。もらうぞ」

    するとそこへ菊田さんの声が響いた。

    「あ、それ私が取っておいたやつ」

    彼女が慌ててそう言うが、すでに唐揚げは菊田さんの口の中。彼女が唐揚げが好きで、好きなものは取っておくのを知っているはずなのに。

    「お前なぁ、好きだからって取っておくのもいいけど、放置してたら横からかっさわられちまうぞ。なぁ、有古」

    意味ありげな視線を寄越す菊田さんに、はぁ、とだけ返事を返した。
    それは……俺への言葉なのだろう。誰かに彼女を取られてもいいのか、と。
    取られたくはない。でもどうしても一歩が踏み出せない。
    そこへ電子音が響いた。

    「あ、電話だ」

    そう言って菊田さんが席を外す。

    「もう、菊田さん、ひどいよね。私が唐揚げ好きなの知ってるのに」

    唇を尖らせる彼女をまぁまぁと宥めながら、改めて誰にも渡したくないと思う。せめて何きっかけがほしい。彼女を誘えるきっかけが。
    やがて菊田さんが戻ってきたが、

    「悪い、弟から呼び出された」

    そう言ってお開きになってしまった。
    会計は、菊田さんが持ってくれるというので、彼女と二人してお礼をいう。

    「有古、駅まで送ってやれよ」
    「もちろんです」
    「誕生日なのに、ごめんね」

    じゃあ、と手を振って先に歩き出した菊田さんを見送り、彼女と並んで駅に向かう。すると俺の携帯からメッセージ受信の音が聞こえた。こんな時間に誰かと、彼女に断りを入れてから見てみると、先程別れた菊田さんからだった。

    [誕生日なんだから、一つくらいわがまま言っても許されるんじゃないかな]

    誕生日おめでとうのメッセージの下に、そう書かれている。
    誕生日のわがまま……。いいのだろうか。
    でもこれはいいきっかけになるのではないだろうか。このままでは誰かに彼女を取られてしまうかもしれない。だから……。

    「どうしたの?急ぎの仕事とか?」

    携帯を見たまま動かない俺を、彼女は心配そうに見上げてきた。

    「いや、なんでもない、大丈夫だ」

    そう言って携帯をしまうと、俺は彼女に向き合った。

    「誕生日のプレゼント、くれるっていったよな」
    「え?うん。何かほしいものあるの?」

    楽しそうな、期待に満ちた表情で見上げてくる彼女に、俺は拳を握りしめ、呼吸を整える。

    「一つだけ、誕生日のわがままを聞いてほしい」
    「なぁに?」
    「俺と……」

    続いた言葉に、彼女は真っ赤な顔で頷いてくれた。


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