菊田さんと重陽の話食事も終わり、ソファーに座りなんとなくテレビを見ていると、
「今日は重陽なんですよ」
そう言って彼女が何かを運んできた。ローテーブルに並べられたのは、菊の花びらが浮かんだお猪口。徳利もガラス製で、その中にも菊の花が入っているという凝りようだ。
「へぇ、なかなか風流だな」
でしょう?とニコニコとしている彼女を見ながら酒を口に含むと、仄かに菊の香りがしたような気がする。
「無病息災や不老長寿を願ってたらしいですよ」
「でもまだ菊の花にはちと早ぇよなぁ」
「旧暦ならちょうどいいのかもしれないですね」
お猪口が空けば、彼女が注いでくれる。徳利から注いだ酒は花を漬けてあったからか、菊の香りが先程よりも感じられた。
あまり酒に強くない彼女は、ちびりちびりと舐めるように飲んでいる。苦手なら無理に飲まなきゃいいのに、同じものを楽しみたいって言われたら止める理由はない。
「栗の節句とも言われてるらしいから、栗ご飯用意すればよかったですね」
「栗もまだ早ぇだろ」
「じゃあ、マロングラッセでも買ってくればよかったですね」
「それは……鶴見さんなら喜ぶと思うぞ」
確かに、と二人で笑い合う。
徳利の中身は半分以上なくなったが、まだお猪口半分しか飲んでないのに、彼女の顔はだいぶ赤くなってきていた。
「ほら、もうおしまいだ」
彼女の手からお猪口を取り上げると、彼女は不満そうに唇を尖らせた。
「まだ残ってます」
ほろ酔いで、上目遣いで見上げてくるのは反則だろう。
「なら、ここにも“菊”の付くものがあるが」
どうする?と耳元で囁けば、一拍おいて更に顔を赤くした彼女。オヤジ臭い、なんてぼそりと呟くが、腰に回した手を振りほどく気配はない。
「オヤジで結構」
そう笑うと、彼女の唇を塞いだ。