目覚めて隣は不在 腕に抱いて眠ったはずなのに、目覚めたら
ベッドにひとりきり。置き手紙のひとつなくメールさえ寄越さない素っ気なさは相変わらずで、それを残念に思う反面どこか安堵を覚える軽薄な自分もいる。
ここが見慣れた自分の部屋なら「なんて夢だ」と自己嫌悪に頭を抱えられるが、趣味じゃないピンクの壁紙がケバケバしく現実を突きつけてくる。ゴミ箱の薄膜の残骸が、シーツに染みた体液の匂いと残り香が──もう一人居たことをお節介にも俺に囁き教えた。
「……せっかちな奴だ」
チェックアウトまでまだ数時間。だらだら過ごすには長く出るには早い。
彼は日が昇る前に、白み出したあやふやな夜のうちに決まって姿を消す。激しく求め合った夜の熱が燻っているのに、淡い夢のように儚く煙のようにすり抜けてしまう。
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