貴方だけ「加奈ちゃん、来て来て」
そう言って、京はちょいちょいと手招きをする。加奈は未だに慣れず、少し頬を赤らめておずおずと近づく。座っている京の、曲げている両足の間に滑り込むように腰を下ろすと、包まれるように両腕に捕らわれた。平熱の心地よい温かさが背中越しに伝わる。
「あは、かわいい〜」
癒される〜、と言いながら加奈の首に顔を埋めてくる。くすぐったさと照れで、加奈はもっと赤面した。
「ちょっと恥ずかしいんですけど」
「え、そう?そんな風には見えないけど」
「これ楽しいですか?」
「うん、めっちゃ楽しい。加奈ちゃんかわいいし」
そうですか、と加奈はそっぽを向く。本当は加奈だって京から求められて嬉しいのである。一緒に生活しているというのに、未だに素直になれない部分がある。少しツンとした態度でいる加奈に、京が言った。
「加奈ちゃんは俺にこうされて嫌?」
「い、嫌じゃないですけど」
もっと顔を京から背ける。
「嬉しくて、ただ恥ずかしいだけで」
そう言った瞬間、加奈は自分の顔が今一番赤くて熱いと感じた。京はそれを見逃さずに、
「ほんと?よかった〜!ほんとに嫌だったら無理強いしてごめんって思ってたからさ」
すぐ後ろで項垂れる京が、叱られた大型犬のように思えて、加奈は思わず笑った。
「もし嫌だったら、自分から近くに寄りませんから」
京は加奈の笑みを見て、安心したように笑い声をあげた。
「加奈ちゃんがそう言うなら俺は嬉しいな〜」
好きだから、とまたぎゅっと抱き締められる。互いの心臓の音が聞こえそうで、また顔が熱くなる。加奈は目の前にある、自分より一回り大きな京の手に触れてみる。最初よりは素直になれてるかな、とひとりでに思った。