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    岩藤美流

    @vialif13

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    岩藤美流

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    歌詞から着想を得て書くシリーズ③です。頂いた歌は「甘さひかえめ」でした。自分なりにウンウン考えてみたのですが、あまりにも歌詞の世界観が完成していて、おおんどうしたらよいのだ!! このエモをどうしたら!!!! ってなりました! よい歌をありがとうございます!
    あとタイトルが色んなことにかかってることに後で気付きました。

    ##アズイデ短編

    モノクローム


     とんでもなく気まずいタイミングで、チェスというポピュラーなゲームをしようと言い出したのは、アズールのほうだ。計算を得意とする彼がそのゲームでの対戦を望むのは道理である。イデアは少し悩んだけれど、その誘いを受けることにした。
     イデアも論理を主体とするゲームが不得手というわけではない。当然、お互いがお互いの手の内を読み、裏を探り、そのまた裏に思考を巡らせ――その戦いは随分と長いものになっていた。
     戦いも佳境に入った頃には、部室には二人の姿しかなくなり、日が暮れ始めた教室は暗くなっている。見回りの教師が来るまでには退散しなくては、と思うものの、アズールが深い熟考から帰って来ない。
     彼は腕を組み、顎に手をやってじっとじっとチェス盤の上を見ている。次はアズールの番で、長い長い待ち時間が続いている。しかし、流石に教室が暗い。自分の青々とした炎ばかりが眩しいのは、あまり愉快なことではなかった。
     ごそり、と席を立って、部屋の明かりを灯しに行く。ぽう、と部屋が照らし出されると、カーテンの閉められていない窓には、二人の姿が映った。
     その美しい猫のような横顔を晒して、アズールは明かりがついた事にも気付かない様子で考え込んでいる。そんな彼を見ながら、イデアはひととき、ほんのひととき、思考をそちらに取られた。
     何時間こうして一緒にいるだろう。出会った時から数えたら、何日になるだろう。
     イデアにとってアズールは、生意気な部活の後輩……だった。いつからイデアにとって、彼に対する認識が徐々にずれ始めたのか、全くわからない。こうもズレてしまった、今となっては。まして、あんなことがあった後では。
     イデアから見てアズールは、自分とはあまり似ていない。いつだって前向きで、なんだって自分の思い通りにできるという確信が有る。自信なのだかうぬぼれなのだか、とてつもなく高いプライドと、それを守るための揺るぎない努力の塊。それがアズールだ。自分とは、似ても似つかない。
     人類にできないことはないと思う。けれどそれをできるのは自分ではない。イデアにできるようなことは、誰にだってできるのだ。そんなことに価値なんて一つもない。アズールはよくイデアに、自分の才能と技術を安売りするなと言われるけれど、こんなもの、人類史とこれからの人生において、イデアの何の役にも立ちはしないのだから、結局、彼にとっては無価値なのだ。
     あなたは素晴らしい人です、イデアさん。
     何度言われただろう。美しい宝石を見るような目で言われたこともある。慈母が囁くように告げられたことも、怒りに震える青い瞳に見据えられたことも、歌うような声が耳に届いた事も。
     その言葉があんまり何度も繰り返されるものだから、流石に勘違いしそうになる。流石、ペテン師は違いますなあ、と何度も納得した。そうやって何を得たいのだかしらないけれど、自分とアズールの付き合いとは、同じ部活の先輩と後輩であり、学友であり、煽り合う友人、……だと、思っていた。
     時々。
     本当に時々、他の単語が2人の関係を表すのではないかと、思う時もあった。しかしそれはきっと、勘違いだろうと思っていた。
     イデアは一つ溜息を吐いて、アズールの向かいの席に戻る。彼はイデアに一瞥もくれずに、じっとチェス盤を見ているだけだ。現状、アズールがほんの少し不利である。もう少し圧勝していたら、「自分から勝負を仕掛けておいて負けるとか、どんな気持ち、どんな気持ち? プギャー」とでも煽っているところなのだが、僅差、といったところだ。イデアもアズールがどんな手をしかけてくるか、と盤上を見る。
    「……ってかさ、アズール氏」
    「はい」
    「ラウンジとか、いいの?」
    「今日は僕がいなくても大丈夫なので」
    「あ、そ、そう……」
    「イデアさんこそ、ゲームは大丈夫なんですか?」
    「ん、別に、何のイベントも無いし、……でもそろそろ寮に戻った方がいい時間かも。続きはまたに……」
    「イデアさん」
    「な、なに?」
    「先日の件ですけど」
     一番触れられたくない件に、このタイミングで言及してきた。イデアは、ひっ、と僅かに息を呑んで、アズールの顏を見る。彼は未だ、盤上を見ていた。
    「……え、えっと、な、なんだっけ……」
    「あなたに抱いている僕の感情が、世間一般に言われる恋愛というものではないか、についてです」
    「あ、はい、あー、うん、そう、そうだね、そう言ってたね……うん……」
     キッパリと言われて、イデアは目を泳がせた。
     そう。先日、イデアは全くムードの欠片も無い、愛の告白を受けた。
    『時にイデアさん。僕は少し前からあなたのことを考えると胸がザワついて落ち着かなくなるんです。あなたに言われたことを、ベッドの中で思い返しては頬が熱くなり、苦しくなる。あなたのことを意識してしまうんです。これがなんであるかについて、僕も色々と調べてみたのですが、恐らく人間の『恋愛』に該当する状態なのではないかと思っています』
     それ、僕に伝えて、それからどうするの。
     イデアは動揺してそうとしか言えなかった。恋愛感情なんて、そんな公式を読み解くように淡々と告げることでもないだろうし、きっとアズールの中で整理がついたのだと思っていた。ところが、この秀才ときたら、イデアにこう言ったのだ。
    『あなたは、僕のことをどう思っているんですか』
     イデアは、答えられないまま、逃げ出した。
     そして、今である。
    「あなたは、どう思っているんです? 僕たちの関係について」
    「あー……そ、そうだね、部活の、後輩と、先輩とか……」
    「なるほど、それも一つでしょう」
    「ひ、一つってどういうこと?」
    「人間の関係性は一つの言葉で表せるものではないでしょう? 僕はあなたをよく知っていますが、他の後輩達に親しげに話しかけるイデアさんなんて見たこともありません。つまり、あなたと後輩の関係は、あなたと僕との関係とは異なる、ということです。他にも関係性を表す言葉があるのでは?」
    「……そ、そう、例えば、と、……友達、とか……」
    「なるほど。だとしたらイデアさんは僕にとって初めてできた友達、ですね」
    「えっ、でも、リーチ兄弟は、友達でしょ?」
    「彼らは僕の腕です。友人……とは少し違います」
     人魚の感覚、よくわかんないなあ。イデアが呟くと、アズールは少しだけ笑って言った。
    「あなたはよく僕を見つめています」
    「エッ」
    「あなたと違って僕は集中していても感覚が鋭いので。あなたが僕を見つめているのは知っている。僕の考えに賛同できなくても、受け入れているのを知っている。同じ考えを持っているわけではなくても、拒絶はしていないと。僕以外にそういう反応をしているのは、見たことがありません」
    「そっ、それはだって、僕にも友達は、アズール氏しかいないから……」
     イデアが動揺しながらまごついている間に、アズールがようやく動いてチェス盤の駒を手に取った。予想外の駒だ。どうするつもりだ、と怪訝な顔をしていると、妙な打ち方をしている。なんだこれ、なんだ、どうなるんだこれ。イデアは思わず盤上に身を乗り出して、状況を見極めようとする。
     その頬に手が触れて、イデアは「ヒャッ」と悲鳴を上げて顔を上げた。アズールが、イデアの顏を見つめて、目を細めている。
    「次は、あなたの番ですよ、イデアさん」
    「え、えっ、あ、」
    「あなたは、本当は僕のことをどう思っているんです?」
     聞かせてください、あなたの声で。
     どう育ったら、そんなに自信持てんの。イデアは困惑したけれど、頬に触れたアズールの手を払いのけることはできなかったし、彼の優しい空のような色の瞳から目を離せない。感覚が鋭いという彼には、自分の感情が筒抜けになっているのかもしれない。
     本当は。本当は嬉しいのだ。あなたは素晴らしいと彼が笑ってくれるのが。自分の作り出したものを見て、あんなに目を輝かせてくれるのが。何を言っても、どんなに時間がかかっても、こうして一緒にいてくれるのが、共に争ってくれるのが。
     彼とは考え方はまるで違う。生き方もきっと違う。この学園で、教室で出会ったのも、ただの偶然なのだろう。なのに、彼といるのが心地良いのだ。そして、彼を見ると胸が高鳴る。
     コミュ障には人間関係がわからない。毎晩のように、今日は言い過ぎたかもしれないと布団を被って反省会をする。今度こそ見放されたかもと泣きそうになった日もある。それでもいつもと変わらぬ笑顔でそばにいてくれるのが、ただの営業なのか、本当の気持ちからなのか、わからなくて。不安で、怖くて、試すようなこともして。
     それで。それでこうだ。
     イデアは長い時間、言葉につまった。頬に触れる手のひらが温かい。鼓動の音が聞こえそうなほど、しんとした教室の中。二人の時間は止まっていた。
     これから。
     僕があと一言、伝えてしまえば。何かが終わるし、何かが始まるのだ。
     イデアは深い、深い溜息を一度吐き出して。
     それから、震える声で、言った。
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    れんこん

    DONE第二回ベスティ♡ワンライ
    カプ無しベスティ小話
    お題「同級生」
    「はぁ……。」
    「んんん? DJどうしたの?なんだかお疲れじゃない?」

    いつもの談話室でいつも以上に気怠そうにしている色男と出会う。その装いは私服で、この深夜帯……多分つい先ほどまで遊び歩いていたんだろう。その点を揶揄うように指摘すると、自分も同じようなもんでしょ、とため息をつかれて、さすがベスティ!とお決まりのような合言葉を返す。
    今日は情報収集は少し早めに切り上げて帰ってきたつもりが、日付の変わる頃になってしまった。
    別に目の前のベスティと同じ時間帯に鉢合わせるように狙ったつもりは特に無かったけれど、こういう風にタイミングがかち合うのは実は結構昔からのこと。

    「うわ、なんだかお酒くさい?」
    「……やっぱり解る?目の前で女の子達が喧嘩しちゃって……。」
    「それでお酒ひっかけられちゃったの?災難だったネ〜。」

    本当に。迷惑だよね、なんて心底面倒そうに言う男は、実は自分がそのもっともな元凶になる行動や発言をしてしまっているというのに気づいてるのかいないのか。気怠げな風でいて、いつ見ても端正なその容姿と思わせぶりな態度はいつだって人を惹きつけてしまう。
    どうも、愚痴のようにこぼされる 2767