君の起こし方。 丞の規則正しい寝息が時計の音と混ざって深夜の空気が伝わってくる部屋で俺はむくりと起き上がった。
4時だ、深夜といったが早朝でもよいかもしれない。スマホを持ち上げて確認したが起きるのにも早いし、「どうしよっかな〜」なんて零しながら隣の人を見る。
きれいだ。
すぅすぅと静かに上下する胸がその人が確かに生きて、眠っているのを伝えてくる。
なんだか気持ちがいっぱいになって前髪を触ってみる。学生の頃は伸ばしていた髪も今や短く、おかげで丞の長いまつ毛がよく見える。思わず目元に口づけそうになったが我慢した。その刺激で起こしてしまったらいけない、こんな時間だし。
「よっ、と」
軽く体に勢いをつけて起き上がる。二度寝しようか迷ったけど起きることにしたからだ。
丞はきっと昨日も夜更かししてただろうから、休みの日くらいは朝寝坊してもいいと思うし。油断するとすぐにぼんやり朝まで起きてる恋人のことを思う。お仕事始まってから早寝早起きを意識してる生活も知っているけど、あんまり体力がないからかそれにも苦労しているようだ。……俺とか健康優良児すぎてすぐ寝れるし起きれるしで今日も快眠だったんだけど、だからこそ『想像』することでしか寄り添えない彼の大変さを考える。
眠れないってどんな感じなんだろう、長い夜ってどんな感じなんだろう。そこまで考えて自分は随分と一人きりの夜のことを忘れてしまっているということに思い至った。なんだか朝起きた時に心地のよい熱の塊が横にいるのが当たり前の生活になっていることに、学生の時代には考えられないことだったな〜、なんて感慨深くなる。
今よりももっと丞が欲しくて足らない、なんて泣いていた自分がちょっと前までいたことを、でもそれも少しずつ薄れてこの暖かさを享受できることに少し頬が暖まる感じがして、これって幸せってやつだななーんて、噛み締めて。嬉しくなって――「あれ?」、ちょっと泣いて。
ゴシゴシとパジャマの裾ですぐに涙を拭いて洗面台に向かい、脱いだ服を洗濯機にかけた。歯磨きしながら今日の自分の顔をチェックしているけど、ちゃんと笑顔だ。少し蒸気したほっぺをそのまま洗顔で冷やしてルーティンを済ませて再び鏡の前で表情を作り、にこ!と笑う。
今日の俺も元気だ。これは無理してない本当の気持ち。朝の支度を済ませて一旦寝室の様子を見る。静かに丞は眠っている、夢の中に危ないものなんて何もないのだろう、そんな寝顔だ。嬉しくなる。
思わずほっぺに吸い寄せられそうになったけどやっぱり我慢した。せっかく早起きしたんだから散歩がてらコンビニにでも行くかーって思い切り伸びをしてコートとマフラーを手に取る。コンビニで朝ごはん買って、軽く付け合せ作って、それから丞が自然と目が覚めるまでゆっくり待とう、そう思って。
ベッドルームの時計を確認して部屋を出る、玄関でかかとを整えて靴を履いて、鍵を持って外に出た。
暖まった肺に新鮮な朝の空気を胸いっぱい吸ってしっかり目が覚めてから思う。
俺たち、王子様のキスを待たなくても起きることができるから、きっと御伽噺とか特別なドラマみたいな人生なんかじゃないけど。
それでいいんだって、今は緩やかに等身大の自分を受け入れることができているから、サンドイッチとスムージーでも買おうかななんて考えて街へ繰り出す。
世界で一番愛しい君と、なんの変哲のない日常を過ごせることを感謝して。
了