中井姉妹第2話:中井姉妹とマラソン大会「ううううう…頭痛い…」
あまりにも楽しすぎる夜、血を吸ったり力を試したりする日々を繰り返し夜ふかしが激しくなっていく。
どうやら体が軽くなり、かつ力を得ているのは夜の間だけらしく朝はいつもの重い体だった、何なら前よりひどい、日差しに当たると体のだるさが増していくのである。
「これが吸血鬼の代償か…それでも夜のこと考えたら…いやだるい、元に戻りたいかもしないけど無理だよね…もう休憩時間にでも寝ようそうしよう」
「お姉ちゃん!」
聞き慣れた声が後ろから聞こえてきた
「今日も朝つらいの?肩貸してあげるね」
私の妹、黄奈(きいな)だ
ショートの金髪でぱっちりおめめな校内ミスコンに呼ばれるほどのかわいい容姿、学力も校内トップクラス。
身体能力も陸上部所属で、短距離走長距離走は全国狙えるくらい強い。それ以外のスポーツも人並み以上にこなせる。ゲームもランカー、お祭りで遠方から人を集めるほどのアイドル。それでいてこの優しさである。ほんと私と真逆で完璧すぎる…血を吸ったらどれだけ力を得られるのかと考えているが、私としては自分はもうだめでも、私を愛してくれる黄奈には絶対に普通の幸せを得てほしいから我慢している。
「お姉ちゃん、どうしたの遠くを見つめて」
「え…?だ、大丈夫!気にしないで」
「とりあえず保健室に連れてってあげるから」
「ま、待って…!教室でいいから」
保健室で吸血鬼なのがバレたらたまらないので教室につれてってもらうことにした。今日は体育こそないものの5時間目以降に何をするかが秘密にされているのが怖い。この学校は駅伝出場経験もある陸上強豪校である上、体育着の用意を促されてるのが怖い。
そしてお昼ご飯の前に
「5限からは校内マラソン大会です。」
終わった...
「この記事の吸血鬼…ほぼお姉ちゃんじゃん…」
私は中井黄奈(なかいきいな)
この世で最も大切なのはお姉ちゃん。
この世で最も可愛いのもお姉ちゃん。
この世で一番幸せになってほしいのもお姉ちゃん。
お姉ちゃんを守るために何でもできるようになりたい、そんな人間だよ。
ある日、新聞にこんな記事が載ってたんだ。
《人間型の吸血鬼あらわる!銀髪ショートで片目眼帯、中学生くらいの体型で、いきなり目前に現れ「きみの力をちょうだいよ」と囁き血を奪う!退治のため情報求む!》
…髪の色以外完全にお姉ちゃんじゃん!
もしお姉ちゃんが退治されたらほんとうに最悪!でも確信が持てないから動けなくてもやもやするんだよね…
でも今日はそんなことを忘れられそうなイベントがあるんだ。
「5限からは校内マラソン大会です。」
お姉ちゃんのもとへすぐ向かうため、そして喧嘩に巻き込まれても助けるために鍛えた脚力を試すチャンス!しかも合法的にお姉ちゃんを見守ることができる最高のイベント…本当に午後が楽しみ…!
ついにマラソン大会の時間
1周1kmのコースを10周で10km。走るのをやめた時点で完走失敗扱いで失格である。
「頑張ろうねお姉ちゃん(渋々な顔も可愛い…)」
「う、うん、黄奈(地獄の始まりだ…)」
パアン!
黄奈だよ!私は先頭の様子を見守れる位置をキープしてるよ、全然楽な方のペースで助かるね、走れなくなったら失格だからね。後半になったら先頭組のうち一人を除いて全員ズルズル下がったり、歩いたりしちゃったね。残り1人は去年2位のみどり先輩だよ。最初の速いペースのままずっと先頭でゴール。すごいなあ…
みどり先輩は陸上部のキャプテンとお姉ちゃんのファンクラブの会長をしていて、入学してきてから意気投合して先輩後輩の壁を超えて仲良くしてくれてる人なんだ。
私のファンでもあるらしい...嬉しいね。
先頭をあまり追いかけすぎず自分のペースを守った私は…5位!速い人ばっかりでこれはすごく嬉しかった!
あと気になったのは去年1位を取ってたみずき先輩、なんかすごい遅かったし開幕はローペースなのかなって思ったら立ち止まっちゃって失格になってたけどどうしたんだろう…?
「黃奈ちゃん!お疲れ様!」
「みどり先輩!お疲れ様です!」
「すごいわー!短距離走をメインとしてこんなにマラソンも走れるなんて思わなかったわよ?駅伝の代理候補になるだろうから、このまま頑張って欲しいわ」
「私も朱那ちゃんを応援したいけどどうしても気になることがあるからもう行くわね?」
「はい!お疲れ様です!」
みどり先輩がそう言って去っていった。みどり先輩は魔法少女をやっているんだよね...もしかしてみずき先輩...
あかなさんだ。「走り続けられるペースを守ったほうが楽だよ。」と黄奈とみどり先輩に言われたから最初からずっと最後尾。体育で試したら本当に比較的楽だった。色々野次られるけど黄奈やみどり先輩が通り過ぎるたびに「いいよ!それで大丈夫!」って言ってくれたし、黃奈がゴールでずっと応援してくれたから落ち着けた。
陽が落ち始めてからは体も楽になってちょっとペースも上げれたかな、そして下から指で数えられるくらいの順位だけど無事完走できた。嬉しいね。
「お姉ちゃんお疲れ様!頑張ったね!」
真っ先に駆け寄ってタオルを差し出してくれる黄奈。ほんとに好きすぎる…吸血鬼になる前はあかなさんの唯一の生きる意味。ちょっと涙が出てきた、多分いつもと違う涙だなこれ…
「泣かないで?ほら肩貸してあげるから帰るよ?」
沈んでいく夕日を浴びながら寄り添い、歩くあかなさんたち。黄奈はあかなさんの天使だなと改めて思った。