雨音の境界 1 低く垂れ込めた雲に包まれた森は、湿り気を孕んだ空気で満ちていた。叩きつける雨粒が、周囲を途切れることなく濡らし続ける。
エスティニアンとヴリトラは、岩壁の陰に身を寄せ合っていた。自然が作り出したその窪みは、二人の身体をかろうじて隠せるだけの狭さで、雨の気配をぎりぎりのところで遮っていた。
岩肌に描かれる濡れ色の模様が、もう何日も繰り返され、季節の境を知らせている。気づけば、この辺りも、静かに雨季へと歩みを進めているのだろう。
エスティニアンは濡れた服の水滴を軽く振り払いながら、その窪みに先に腰を下ろし、ヴリトラの手を引く。
ヴリトラは遠慮がちにその手に従い、エスティニアンの膝の上に座った。
「…すまない」
2171