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    強くて優しくてちょっと不器用な、俺たちのトップ

    ##小説
    ##バタ主

    うちの自慢の部長とチャンピオン「うーん、やっぱり新しい道具持たせた方がいいか……?」

     周りをぴょいぴょいと跳ね回るエースバーンにさっきまで持たせていたきあいのタスキを回収し、リーグ上位陣のようにいのちのたまやかえんだまを持たせてみるべきなのかと目の前に並べた道具を眺める。

     ──チャンピオンと部長に相談してみようかな。……これくらい自分で決めるべきか?

     強くなるには自分より強い人に聞いてみるのがいいんじゃないだろうか、と浮かんだ安易な考えが正しいのか自問自答しながら、そんな俺と違ってもうすっかり切り替えてさっきの負けなんか引きずっていなさそうなエースバーンをちょっと羨ましくも思う。
     別に俺たちは特別弱くも行き詰まってもないし、バトルに自信がないわけじゃない。
     今だって、あれでもないこれでもない、とこうして悩んでいる時間が楽しくないといえば嘘になる。
     ただ、自分の相棒はこんなもんじゃないと信じてそれを証明しようとするほど、それじゃあ自分の指示や采配のせいで負けたんだと思わせられる気がして。

    「……とりあえず部室戻ろうかな」

     それで、2人がいたらまたいろいろと話を聞いてみよう。
     地面に広げていた道具をバッグにしまいこみ、エースバーンに声をかける。

     スグリがチャンピオンじゃなくなって、リーグ部もずいぶん過ごしやすくなった。
    新しい部長とチャンピオンはスグリと同じくらいかそれ以上に強いのにゆるくて優しくて、戦術のアドバイスをもらったりちょっとした相談なんかもしやすくて助かる。
     ……もちろんトップとして、言葉通りに「ゆるい」だけじゃなくてもし怒らせたらスグリ以上に怖そうなのも事実なんだけど。

    「お前のブラッシングもチャンピオンに教えてもらった方法に変えたらバツグンに毛並みよくなったもんなー」

     もふもふと元気に跳ねるエースバーンの毛を撫で回しながら、タクシーを呼ぶために休憩所へと向かおうと洞窟を出る直前。ちょうど今考えていた2人が氷山の向こうから歩いてくるのが見えて思わずエースバーンの肩を引っぱる。
     撫でていた手に急に引かれて驚いた様子のエースバーンは、それでもなにかを察してくれたのか黙って岩陰にしゃがんだ俺の隣に座り込む。

     ──……邪魔しちゃ悪いかと思って隠れちゃったよ。だってあの2人、付き合ってるらしいし。せっかく2人でいるのに、今こんなところで出くわすの気まずいし。部室ならまだしも、外で立ち話ついでにバトルのアドバイス聞くわけにもいかないもんな。

     まだ何を話しているかまで聞こえる距離ではないが、お互い楽しそうに笑っているのはわかる。直接聞いたわけじゃないけどたしかにいつでもどこでもよく一緒にいるな、付き合ってるって本当なのかもな、と2人の顔を見て感じつつ、見つからないように今のうちにもう少し奥の方へと身を隠す。

     ──どうなんだろ。2人とも優しいし良い人だから、付き合ってるっていうのが本当だったらなんかうれしいな。そう考えてみたら、ぱっと見はタイプ違いそうかもしれないけどポケモンとか俺たち部員への接し方も似てて意外とお似合いな気がする。

     会話聞いたらわかったり。いや、すっごい際どい話してたらどうしよ。もし強くなれる秘密とか聞けちゃったら聞いてないフリできるかな。

     ぐるぐる考えながらうずくまっていたら、もうすぐそこまで来ていたらしい2人の声が少しずつはっきりと聞こえてくる。

    「向こうの休憩所寄っていいか? モーモーミルク切れてんのよ」
    「いいよー」
    「買い溜めできるもんでもねえし、ふだん部屋でなんか飲まねえから油断してっとすーぐ切らしちまうんだよなあ」
    「飲まないの?」
    「飲まねえ飲まねえ、賞味期限気にすんのめんどくせえからな。でもエネココア作んのにいるだろ。だからうちの冷蔵庫はすっかりアンタ専用だねぃ」
    「あは、私専用かあ」

     2人がひどくゆっくりと歩いているせいで、のんびりと交わされるバトルには関係なさそうなプライベートな会話を思ったよりも詳しく聞き取れてしまってこまる。
     かといって、今さらいきなり立ち上がって出て行くわけにもいかない。

    「めんどくさがりなのにわざわざ用意させちゃって申し訳ないけど…でもね、私カキツバタくんが作ってくれたココアが一番好き!」
    「へっへ、一番か。いい響きだよな。そんなに気に入ってくれたんなら毎日でも作ってやるぜぃ?」
    「毎日は太っちゃうよ〜」
    「それもそうか」
    「あ、でもその分カキツバタくんがバトルにも付き合ってくれるなら……いいのかも?」
    「おっ、いいねぃ! そいじゃ、さっそくコート行くとしようや」
    「カキツバタくんが勝ったら今夜のココアは私が作るね!」
    「マジか! そいつぁ負けらんねえでやんすねぃ」

     そんじゃあアンタが勝ったらどうする、と楽しげに話を続けながらポーラスクエアの方へと遠ざかっていく2人の背中を見送り、声が聞こえなくなった頃にやっと洞窟から出る。

     バトル、と話す2人の話を聞き取ったのか、隣のエースバーンが自分もと言わんばかりに地面を脚で叩く。

    「……部室行くのやめて、2人のバトル見よっか」

     強い者同士のバトルは見ているだけで参考になるだろうし、なにより2人のバトルは見ていてすごく楽しい。本人たちが楽しんでいるからだろうか。

     それにしたって、俺からしたら2人とももう十分強いのに、今日もバトルしてさらに強くなろうとしている。
     強くなれる秘密、なんて馬鹿げたことを考えていた自分が恥ずかしい。

    「そうだよな、強くなるのに近道なんてないよなあ」

     楽に強くなれる特別な方法なんかない。それはきっとパルデアのチャンピオンクラスだっておじいさんがジムリーダーだって同じで、境遇や環境が違っても何も変わらない。
     それでももしも2人があんなにも強くなれる『特別』があるんだとすれば、毎日ちゃんとポケモンたちと向き合っていろんなことをがんばっているからなんだろう。特別ではないからこそ、その姿勢を当たり前に維持できることがきっと特別なんだ。

     ……毎日。

    「付き合ってるって本当だったんだなー……」

     さっきのカキツバタの「毎日でも作ってやる」ってプロポーズなんじゃないの、とか。チャンピオン、今夜ってことは毎晩カキツバタの部屋行ってるんだ、とか。 
     隠れて盗み聞きのような真似をしていた自分が悪いのだが、さらっと想像以上のものを見せつけられた気がする。

     バトルが終わったら道具のこと相談したかったんだけど、あんなの聞いちゃって2人といつも通りに話せるかな。ポーラスクエアに着くまでの間に切り替えないと。

    「ん? ……ははっ、そうだな。俺にはお前っていうお手本がいるもんな」

     そんなの気にする必要ない、いいからはやく行こうと言うかのように跳ねてアピールするエースバーンに手を引かれ、スクエアに向かって歩き出す。

     そういえば、考えすぎなところがある俺の性格を「それがいいところでもある」と言ってくれたのもあの2人だっけ。ならどうせ放っておいたってやっぱり俺はいろいろ考えるんだろうから、たまには切り替え上手なエースバーンを見習ってもいいのかもしれない。
     部長とチャンピオンはどんな俺でも笑って受け入れてくれるだろうし、そんな部長とチャンピオンが率いるあったかくて楽しい今のリーグ部が好きだと思うから。今の俺を認めてくれる人たちのおかげで、今のまま変わらないことも変えてみることも前向きに捉えられるから不思議だ。

    「わかった、わかったよ。そんなに急かさなくってもちゃんと着いて行くってば」

     ぐいぐいと手を引くエースバーンに笑いかけ、ぎゅっと握り返す。

     そのままエースバーンと一緒に考えなしに走り出して、バトルコートに着く前に2人に追いついてしまうのはもう少しだけ後の話だ。




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